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【韓国】釜山映画祭、坂本氏が「アジア映画人賞」[社会](2018/10/16)

アジア最大級の映画祭、「第23回釜山国際映画祭」が10月4日から10日間にわたり開かれた。数々の映画音楽を手掛けた音楽家の坂本龍一氏が「アジア映画人賞」受賞した。この数年間の釜山映画祭は、表現の自由をめぐる政権と文化・芸術界の対立の象徴となっていたが、政権が革新系に交代して状況は一変。映画祭をボイコットしていた韓国の映画団体がすべて戻り、自由な雰囲気が帰ってきた。

開幕式でスピーチする坂本龍一氏(釜山国際映画祭事務局提供)

開幕式でスピーチする坂本龍一氏(釜山国際映画祭事務局提供)

釜山映画祭は4日、国内外のスターが続々とレッドカーペットに登場し、華やかに幕を開けた。

オープニングセレモニーでは坂本龍一氏が生ピアノで「戦場のメリークリスマス」のメインテーマなどを演奏し、満員の観客を魅了した。数々の映画音楽を手がける坂本氏は昨年公開の「天命の城」で初めて韓国映画の音楽を担当し、本映画祭では「今年のアジア映画人賞」を受賞。「朝鮮半島に平和が訪れようとしているが、同じアジア人としてうれしく思う。世界から暴力による支配がなくなることを祈る」とスピーチし、割れんばかりの拍手を受けた。

■対立が解消

2014年の釜山映画祭で、旅客船セウォル号沈没事故への政府の対応を問うドキュメンタリー「ダイビング・ベル」の上映を、主催者の釜山市が事前に阻止しようとしたのが対立の始まりだった。市はさらに映画祭のトップだったイ・ヨングァン執行委員長を不正会計を理由に解任した。これに韓国の映画人は「表現の自由が侵害される」と強く反発。9つの映画団体のうち半数ほどが釜山映画祭をボイコットする事態が昨年まで続いていた。

しかし昨年の文在寅政権の誕生に続いて釜山市長も保守系から革新系に交代し、政府や市は「映画祭を支援するが介入はしない」と宣言。正常化への期待が高まった。解任されたイ執行委員長は理事長として復帰し、新体制がスタートした。

今年は期間中に79カ国・地域の324本を上映。動員数は19万5,081人で昨年比2,000人程度の増加にとどまったが、思うように客足が伸びなかったのは週末に釜山を襲った台風25号の影響もあるだろう。海雲台ビーチで予定されていた監督や俳優のトークイベントはメイン会場の「映画の殿堂」に場所を移し、一部は中止となってしまった。自然現象には逆らえないが、残念に思う観客も多かったようだ。

賑わうメイン会場の「映画の殿堂」(芳賀恵撮影)

賑わうメイン会場の「映画の殿堂」(芳賀恵撮影)

■マイノリティーへの視線

 近年、韓国の映画界ではマイノリティーを扱ったものが存在感を増している。今年の釜山映画祭でも脱北者や中国朝鮮族、LGBT(性的少数者)をテーマにした作品が目立った。

 開幕作の韓国作品「ビューティフル・デイズ」(ユン・ジェホ監督)は脱北女性の物語。女性は中国で朝鮮族の男性に売られて男の子を産み、のちに家族から離れて韓国に渡る。14年後に成長した息子が韓国に訪ねてくるが、酒場で働く母に失望して帰っていく、というストーリーだ。ユン監督は前作のドキュメンタリー「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」(2016年)で脱北した女性の波乱の人生を追っているが、その問題意識をフィクションの世界に持ち込んだ。映画の中の脱北女性は中国でも韓国でも搾取の対象になりながらも、たくましく家族をつくり生きている。南北の融和ムードが高まるなか、きれいごとでは済まされない現実が突きつけられる。

 ガラ・プレゼンテーション部門で上映された「群山:鵝を詠う」は、中国朝鮮族の張律(チャン・リュル)監督の作品。舞台は日本植民地時代の建築物を観光資源として保存・活用する全羅北道・群山で、ソウルから訪れた男女に朝鮮族や在日韓国人が絡みながら、東アジアの近現代史と韓国にひそむ朝鮮族への差別意識が明らかになっていく。多くの朝鮮族が住む中国の吉林省延辺朝鮮族自治州は福岡で獄中死した詩人の尹東柱(ユン・ドンジュ)の出身地。監督は、独立運動の闘士として英雄視される詩人が朝鮮族であったことを示しつつ、韓国人が海外の同胞に向ける視線に問いを投げかける。日本人の視点からも、朝鮮半島にルーツを持つ人々がなぜ海外に拠点を置くことになったのかを改めて考える契機となる映画だ。(芳賀恵)

<筆者プロフィル>

芳賀恵:北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院学術研究員。90年代前半に韓国映画に魅了され02年にソウルに留学。その後、現地での職務経験を経て07年に帰国。現在は、韓国映画のライター、翻訳・通訳を手掛け、北海道を拠点に活躍を続けている。

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