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【日本】【重慶バンコク】中国・高速鉄道の光と影[運輸](2018/09/05)

中国・重慶市から鉄道と路線バスを使ってラオスに向け南下する。高速鉄道の運賃の安さと正確な運行、快適さは中国の発展の象徴だ。ラオス高速鉄道と結ばれる中国区間も建設中。人家がほとんどないような雲南省山間部を貫く高速道路は既に国境まで繋がっていた。一方、中国の交通インフラが補助金や税金で支えられていることも実感する。

「山の上」を走るかのような高速鉄道の車窓。左下に高速道路を見下ろす=安順西―盤州(貴州省)

「山の上」を走るかのような高速鉄道の車窓。左下に高速道路を見下ろす=安順西―盤州(貴州省)

空港のように巨大なガラス張りの重慶西駅は今年1月25日に開業したばかりだ。重慶市の隣にある貴州省の貴陽北駅までの347キロメートル(最高時速200キロ設計、総工費523億人民元=約8,500億円)が同日に開通。これによって、雲南省昆明までの810キロが最速4時間12分で結ばれた。

高速鉄道の乗り心地は快適だった。日本の新幹線のようにカーブの揺れはなく、トンネル突入や行き違い時の不快な衝撃はない。険しい山岳地帯をトンネルと橋でショートカットする。

貴陽北駅からは「滬昆高鉄(上海―昆明を結ぶ旅客専用線)」の2016年12月に全通した最後の区間に乗り入れる。最高時速300キロの設計だ。安順西駅を発車してしばらくすると、長年の溶食によって形成された円すい型の山が連なるカルスト地形が広がる。まるで、飛行機からの眺めのようで、難工事だっただろうと推察される。

スピードががくんと落ちる。時速70キロ以下で20分ほど、橋りょうとトンネルをゆっくりと走行した。昨年、手抜き工事による品質問題が発覚した区間だ。中国が進める交通インフラ整備が、不正と腐敗の温床となっていることは、各国でも指摘されている。

昆明に近づくと、畑にビニールが敷かれている光景が広がっていた。昆明は標高約1,900メートルの広大な盆地にあり、一年中春のような気候であることから「常春」の地とも言われる。

「雲南省から東南アジアへ、青果の輸出が高速鉄道によって盛んになるかもしれない」。日本で取材した物流業界関係者の言葉を思い出す。

昆明南駅に降り立つと、ひんやり。昆明の7月の平均気温は20度で、蒸し暑い重慶と比べて9度も低い。

「30番線」まである高速鉄道専用の昆明南駅(左)。独シーメンスの技術を使った「CRH380B型」の先頭車両(右)

「30番線」まである高速鉄道専用の昆明南駅(左)。独シーメンスの技術を使った「CRH380B型」の先頭車両(右)

■運賃は新幹線の3分の1、バスよりも割安感

重慶―昆明の高速鉄道運賃は、日本の新幹線と同じ横5列の普通席で、341.5人民元(約5,561円)。話は飛ぶが、翌日乗車した昆明―景洪(523キロ)のバス運賃は247人民元だった。単純に計算するとバスは1キロ当たり7.7円。一方、高速鉄道は6.9円と安い。

もちろん、日本の新幹線と比べても安い。東海道・山陽新幹線の東京―広島(実距離822キロ、最速3時間49分)の距離に匹敵するが、運賃は1万9,080円。重慶―昆明の3.4倍だ。中国の低運賃では建設コストは回収できないだろう。鉄道運賃がいかに、税金で支えられているかが実感できる。

それでも重慶新聞は8月下旬、「重慶―昆明を718キロに短絡し、最速2時間半で結ぶ高速鉄道が年内に着工し22年に開通する」と報じた。主要都市間の次に高速鉄道が整備されるのは、北京や日本から見れば「奥地」の地方都市間だ。この勢いがラオスをはじめとする隣国へも波及していく。東南アジア諸国連合(ASEAN)と鉄道でつながれば、中国と欧州を結ぶ鉄道コンテナ輸送「中欧班列」のように、貨物の輸送にも補助金が付くのだろうか。

早ければ3年後にはビエンチャン発北京行きが運行されるかもしれない。写真はラオスへの高速鉄道の起点、玉渓から昆明経由北京行きの快速列車=玉渓駅(雲南省)

早ければ3年後にはビエンチャン発北京行きが運行されるかもしれない。写真はラオスへの高速鉄道の起点、玉渓から昆明経由北京行きの快速列車=玉渓駅(雲南省)

雲南省昆明からラオス首都ビエンチャンへの1,000キロの高速鉄道事業。その一部の昆明南駅―玉渓駅(79キロ)が16年12月に開通している。昆明滞在中に玉渓まで往復した。

1日3往復しかない高速鉄道(現在は1日4往復)で、わずか32分。玉渓のホームに降り立つと、隣に停車していたのは、玉渓始発昆明経由の北京行き快速列車だった。乗客ゼロの車両も多いまま18両編成の客車は発車した。北京まで40時間近くかけて走る。

3~4年後にはビエンチャン発で昆明経由の北京行き高速列車や、重慶行き貨物列車が運行されるかもしれない。そんな可能性を「北京西」と書かれた列車の行先標をみて実感した。

21年末に完成予定のラオス高速鉄道は、国内鉄道、もしくは昆明を結ぶ旅客・観光用だと考えている人が多い。しかし、中国では線路幅が1,435ミリの標準軌で統一されているので、在来線や貨物列車も高速鉄道の線路を運行でき、各地へ直通できる。

ビエンチャンと北京を直通する旅客需要は少ないだろうが、首都間を結ぶ国際高速鉄道として両国の威信にかけて運行されるかもしれない。北京―昆明の約11時間は寝台、昆明―ビエンチャンの約7時間は寝台を座席開放するダイヤを組むと、北京20時発、昆明7時着、ビエンチャン14時着(中国時間)という感じだろうか。昆明で乗客はかなり入れ替わるだろう。

■東南アジアの玄関口

昆明市内に戻り、南部バスターミナルから景洪へ向かう。景洪は、タイ族(泰族)が居住するシーサンパンナ自治州の最大都市だ。隣にはビエンチャン行きの二段式寝台バスが停車していた。景洪を経由して約1,400キロを30時間かけるという。

昆明から景洪は途中2回の休憩を含め7時間45分で到着。景洪の夜は生暖かく、東南アジアに来た、という実感が湧く。市場ではジャックフルーツやマンゴーが並べられ、東南アジアの産物だと看板で書かれている。タイ族が生活しているため、看板には中国語とタイ文字がある。ただし、タイやラオスのタイ文字・タイ語とは異なるため、タイ人でも会話はほとんど通じない。

景洪空港に近い景洪駅建設現場。10番線以上は確保できそうだ。景洪から南の区間は単線となる=雲南省

景洪空港に近い景洪駅建設現場。10番線以上は確保できそうだ。景洪から南の区間は単線となる=雲南省

高速鉄道が開通する期待で、街には不動産物件の広告看板が多かった。40階建てのマンションが既に数十棟は建ち並ぶ。新たに着工予定のモデルルームに立ち寄ると、相場は1平方メートル当たり1万2,000~1万5,000人民元だという。広州や上海に比べればかなり安いが、「辺境」と考えると強気の価格だ。

河南省出身のタクシー運転手は、「高速鉄道ができれば、昆明でバスから鉄道、あるいは飛行機を乗り継ぐ必要がなく帰郷に便利だ」と高速鉄道の開通を待ちわびる。

食堂やお土産販売をやっているタイ族の女性に聞いてみた。「3年後に高速鉄道ができたら? そんな先に、商売がどうなっているか考えられないわね」と笑い飛ばす。

景洪から南の高速道路は通行量が少ないが、片側2車線を確保。そのため、左側にあるはずの対向車線が右側にも現れる=モンルン―モンラー(雲南省)

景洪から南の高速道路は通行量が少ないが、片側2車線を確保。そのため、左側にあるはずの対向車線が右側にも現れる=モンルン―モンラー(雲南省)

景洪から国境モーハンまでは約181キロ。小型の路線バスは途中、高速道路を走行したり一般道を走行したりしながら、山間部をひたすら南下した。途中の「モンルン」「モンラー」そして国境「モーハン」の地名は漢字で書くのは難しい。

モーハンの町で、タクシーを相乗りした女性はラオス・ルアンプラバン出身で中国人と結婚、モーハンで生活しているという。ゆったりとした物腰で、すぐにラオス人だと分かった。「鉄道ができればもちろん乗って帰郷したい」と話し、そばにいた子どもも、こっくりとうなずいた。約10時間のバスの移動が大変だった思いがあるのだろう。

人口希薄な中国国境だが「中央商業地区(CBD)」を建設中。「一帯一路」や東南アジアへの玄関口と宣伝している=ラオス・ボーテン

人口希薄な中国国境だが「中央商業地区(CBD)」を建設中。「一帯一路」や東南アジアへの玄関口と宣伝している=ラオス・ボーテン

東盟大路(ASEAN大通り)の終点にある国境から出国。ラオス側ボーテンに入った瞬間、ブルドーザーがあちこちでむき出しの赤土を整地し、トラックが砂ぼこり舞う道路を往来していた。中国マネーによる高層ビルの建設ラッシュだった。ここにボーテン経済特区(SEZ)が建設され、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の戦略拠点として、ASEAN貿易の玄関口にふさわしい中央商業地区(CBD)ができるという。しかし、人通りはほとんどなかった。

(文・写真=遠藤堂太)

<メモ>

■日中の高速鉄道

雲南省も滬昆高鉄(16年12月全通)を機に高速鉄道時代が本格化した。昆明からは各地へ高速鉄道が走っている。北京行き(2,760キロ)は1日2往復、最速10時間43分で結んでいたが、8月には北京行き寝台高速列車も運行開始し3往復になった。9月23日には香港行きも新設される。

中国の高速鉄道の質・量の進化のスピードが速い。07年以降、わずか10年で総延長は2万5,000キロを超えた。昨年運行開始の車両「復興号」は時速350キロを出す。中国は今年、車両や建設費に約13兆円を投じる。

一方、日本の新幹線は1964年以来、総延長は3,000キロにも達していない。最高速度は東北新幹線の一部区間で時速320キロにとどまる。北海道新幹線が新函館北斗から札幌まで延伸(211キロ)開業するのは13年後の31年。東京―札幌(1,035キロ)の所要時間は5時間以上の見込みで、日本はやや劣勢にある。

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