恒久的施設(PE)の税制改正について
2016年11月24日、経済協力開発機構(OECD)は、多数国間協定(MLI: Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion and Profit Shifting)及びその解説書(Explanatory Statement to the MLI)を公表した。
多数国間協定とは――
既存の租税条約を税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトの勧告に沿ったものに迅速に変更するための仕組で、BEPSプロジェクトにおける勧告を実施するためには、租税条約の改正が求められるものがあるが、伝統的な国際基準(モデル租税条約・移転価格ガイドライン)が近年の多国籍企業のビジネスモデルに対応できていないことから、「価値創造の場」において適切に課税がなされるよう、国際基準の見直しを図り、BEPS防止措置実施条約(MLI)が各国に開放された。
そしてBEPS行動において、PE認定回避の防止措置が盛り込まれた。
それに従い、国内法上のPE に関して後述の見直しがなされている。
恒久的施設(PE)とは、事業を行う一定の場所(支店等)をいう。
例えば、外国企業が日本国内で事業を行う場合、日本国内にその企業のPEがなければ、その企業の事業利得に課税できない。
また、 進出先国で、代理人PEの要件に該当しない販売委託契約(コミッショネア契約)の締結や、PE認定されない活動のみを行うこと等によるPE認定の人為的回避に対処するため、OECDモデル条約のPEの定義の修正を勧告されたのである。
税制改正
(1)支店PEの見直し
海外の通販業者が日本にもつ物流倉庫については、利益につながる価値が創造されたと認定できる施設はPEとみなし、適正な納税を求められるよう新たな規定を設ける。
保管などの特定活動のみを行う場所であったとしても、準備的又は補助的な性格のものではない場合には支店PEに該当することになる。
したがって、例えば相当数の従業員が勤務し、製品の保管・引渡しのみを行うための倉庫等については改めて検討が必要になる。
(2)代理人PEの見直し
常習代理人の範囲に「資産の所有権の移転等に関する契約」も含まれることになる。
したがって、例えば販売委託契約(コミッショネア契約)で外国法人が日本の受託者(コミッショネア)を経由して日本の顧客に自社製品の売買を行っている場合も、その受託者(コミッショネア)が代理人PEに該当する可能性が考えられる。
(3)建設PEの見直し
作業期間が1年超であるかどうかについて、分割された期間を合計して判定を行うことが明記されることとなるため、契約が分割されていることにより建設PEとなっていない場合には注意が必要となる。
(4)外国組合員に対する課税の特例の見直し
ベンチャーや再生企業等にファンドを通じた海外資金を呼び込むため、投資事業有限責任組合等に出資を行う非居住者等について、課税の特例が設けられている。
具体的には、投資組合の有限責任組合員であること等、一定の要件を満たす非居住者等は、国内にPE を有しないとみなされる(租税特別措置法(措法)41 の21)。
この課税の特例について、大綱では「PE 帰属所得(投資組合契約に基づいて行う事業に係るPE に帰せられる一定のものに限る)に対する所得税及び法人税を非課税とする措置に改組する」とされている。
この見直しは、大綱がPE の定義を見直していることを受け、PE の範囲にずれが生じないように、上記の課税の特例についてもPE の範囲を規定するのではなく、直接的に所得税等を非課税とする形式に改めたものと考えられる。
租税条約上のPEの定義と異なる場合の調整規定の整備
わが国が締結した租税条約において、国内法上のPEと異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける非居住者等については、その租税条約上のPEを国内法上のPEとする。
適用時期
国税…
・所得税⇒平成31年分以後の所得税について適用する。
・法人税⇒平成31年1月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用する。
地方税…
・個人住民税⇒平成32年度分以後の個人住民税について適用する。
・法人住民税及び事業税⇒平成31年1月1日以後に開始する事業年度分の法人住民税及び事業税について適用する。
改正の影響
この改正は、OECDモデル租税条約と平仄を合せるための国内法の改正である。
改正の影響を受けるのは日本で事業を行う外資系企業であり、改正前において「PEはない」とされた事業が、改正後「PEがある」と認定される可能性があるため、留意が必要となる。
一方で、PE認定回避の防止措置が盛り込まれた多国間協定であるMLIが世界各国に開放されていることから、諸外国についても日本と同様の改正が行われることが予想される。
従って、日本企業の進出先国においても、現行の事業モデルが新たに現地でPEと認定されるケースがないか、留意する必要がある。
また、国際的競争の激化に伴う事業形態の変化が今後も予想されるため、PEの範囲の判定を行うにあたっては、事業の本質を理解し、事実認定に誤りがないよう検討するべきである。
参考:《速報解説》 恒久的施設(PE)関連規定の見直し~平成30年度税制改正大綱~
https://profession-net.com/professionjournal/inter...
南青山リーダーズ株式会社 編集部