ホーム > 税金 > 税金・決算対策 > 今年度「査察の概要」に見る脱税の傾向

今年度「査察の概要」に見る脱税の傾向

(写真= ronstik /Shutterstock)

消費税が告発件数№1

国税庁による査察、いわゆるマルサは伊丹十三監督の映画などにより有名になりましたが、その結果が毎年6月に「査察の概要」として公表されていることはあまり知られていないようです。脱税の傾向や手口が記載された興味深い資料となっていますので、今年度(平成28年度)の「査察の概要」を読んでみることにしましょう。

平成28年度に処理(検察庁への告発の可否を判断)された件数は193件で、うち告発件数は132件。告発率は68.4%で、ここ数年あまり上下していないようです(平成24年度から27年度で62.2%から67.5%)。また、脱税額も査察を受けたものが1件当たり83百万円、告発を受けたものが96百万円で、これもそれほど大きな変化はありません(平成24年度から27年度で査察を受けたものが76百万円から107百万円、告発を受けたものが97百万円から135百万円)。

一方、税目別に見ると消費税が告発件数で23件になり、平成24年度から27年度で12件から16件だったものが大きく増加しています。脱税額(総額)の増加はさらに大きく、平成24年度から27年度で911百万円から1,479百万円だったものが3,379百万円になっています。
所得税や法人税をごまかすためには隠すべき儲けが必要ですが、消費税は一定規模の取引額があれば還付の不正請求により脱税ができる。だから消費税を利用した脱税が大幅に増えたのだという見方もできるでしょう。しかしこれだけ告発されているということは、消費税を利用した脱税は露見しやすいということも言えるかもしれません。

具体的な脱税の手口

今年度の「査察の概要」の特徴として、個々の脱税の手口がより具体的に記載されるようになったことが挙げられますが、実際にはどのようにして不正が行われたのでしょうか。

消費税事案として記載されているのは輸出免税制度を利用して不正に還付を受けていたものです。
ある輸入販売会社は同じグループ内の会社(国内)から高級腕時計を架空で課税仕入し、これを別のグループ会社(海外)に今度は架空の輸出免税売上を計上した上で申告することにより、消費税の還付を不正に受けていました(しかも同じ腕時計を何度も循環させることで巨額の脱税を行ったようです)。この事例では会社が削除したデータを復元することにより不正を解明したとあり、国税庁の追及の技術も年々高度化しておるようです。

また国際事案としては外資系生命保険会社の保険代理を行う会社が、実質的経営者が国外に設立した会社に対し、架空の支払手数料を計上することにより所得を隠した例が紹介されています。

手口としては古典的なものですが、脱税した資金は実質的経営者のコンドミニアム取得費用に充てられた上でまだ預金として残っていたとのことですから、余程多額の資金を隠していたのでしょう。この場合は租税条約等に基づく外国税務当局との情報交換が解明につながったようです。

脱税の報い

このように脱税を行い、刑事告発された人にはどういう報いが待っているのでしょうか。
平成28年度中に一審判決が言い渡された件数は100件で、全てが有罪判決でした。しかし実刑判決はそのうち14件に留まっています。また、実刑判決のうち最も重いものは懲役14年でしたが、これは他の犯罪との併合罪でした。査察事件単独では最高でも懲役5年で、その悪質性に比べると随分軽いように思えます。

今年度の「査察の概要」は「査察の今後の取組」で終わっていますが、そこに今後重点的に取り組む事案として消費税受還付事案、国際事案が挙げられているのは当然でしょう。それ以外に「無申告ほ脱事案」というものも書かれていますが、これはわざと申告しないことにより課税を逃れる手口を指しています。

最後に、これは「査察の概要」ではなく報道(平成29年6月15日NHK他)によるものですが、国税庁は平成29年の4月以降に査察部が刑事告発した事案については、会社名、個人名、その手口などを全て公表するように決定したとのことです。

こうなると如何に下される判決が軽くても、告発された会社や個人は社会的信用を失い、通常のビジネスを行うことは困難になるでしょう。裁判所の判断と世間一般の感覚のズレを、国税庁が埋めようとした結果なのかも知れません。

南青山リーダーズ株式会社 編集部