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国税庁OBが語る~税務調査の有効な対策~⑤

camera_alt (写真=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

税務調査の対応に苦慮される経営者の方はとても多いように思われます。過度な心配やあまり意味のない対策により業務に支障が出ないよう、数回にわたり国税OBにお話を伺った。

今回で最終回となりますが、実際の調査事例を紹介したいと思います。税務の職場では事例を配布又は研修で発表し共有することが行われています。納税者の立場からは興味が薄いかもしれませんが、税務行政の立場からの視点にも参考になる事項があるかもしれません。

1 法人の仕入先である台湾の会社からの仕入割戻しを除外していた事例

  1. 所在地:工業団地内 業種:機械部品製造 形態:同族会社 売上先:大手中小企業 従業員:160人
    売上:32億 売上総利益:22% 営業利益:7.5%
  2. 調査選定理由 1海外取引法人 2長期未接触
  3. 調査経過
    イ 銀行(浅草支店)から提出された「国外送金等調書」によれば海外金融機関から社長名義普通預金(浅草支店)に入金記録がありました。
    ロ 社長の保有している銀行普通預金口座を尋ねます。当然に浅草支店の口座は話しませんが、こちらから口座の存在を告げたところ。台湾の知人に個人的に貸付けた金額の返済であるとの説明がありました。さらに、返済時の利子収入については、個人申告の計上漏れから早急に修正申告をしたい旨の申し立てがあり、個人的なことなので他の役員には内密に願いたい旨を繰り返すのみでした。
  4. 社長への質問が調査の中心となります。知人に貸したのはいつか。金額は。利子の約束は。知人の氏名住所は。来日の経験は。
  5. 浅草預金口座の復元から入出金について質問します。
  6. 全ての質問に整合性のある答えができず、また、1週間後の同じ質問に同じように答えることはできなかった。矛盾を告げることで最終的には事実を話すことになります。
  7. 配偶者が某国交流団体の高い地位にあり交際費の支出が多いことから、会社の収入とすべきと認識していたが除外したこと。役員の一人である伯父は厳格であり不正を知られることは避けたいとの背景がありました。

* 調査では真の事実関係を確認することになりますが、どのように確認すべきか、またその最短方法は何かを考えることになります。今回は社長への質問が大切です。会話において事実を話すときと偽りを話すときの印象は違います。その印象を大切に調査を進めることになります。

* 除外金額は社長への役員賞与として通常課税することになりますが、実務的な対応として以下の書類の提出により法人の貸付金として処理することにしました。
・嘆願書・・・「認定賞与にかえ貸付金とすることの嘆願書」の提出
・消費貸借契約書・・・除外金額の金銭消費貸借契約書の提出
・取締役会議事録・・・法人が役員に貸し付けることについて取締役会の承認決議書の提出

現在当法人は社長の長男が代表者となり、優れた技術から大手機械メーカーの信頼を得て、売上規模拡大により増収増益を続けています。

2 関連法人が融資継続の条件を満たすため、架空外注費を計上していた事例。

  1. 所在地:工業地帯 業種:電子部品製造 形態:同族会社 売上先:大手中小電子機器製造会社 従業員:40人 売上:7億 売上総利益:15% 営業利益:6.0%
  2. 調査選定理由 1 長期未接触 2 持株会社形態であり関連法人がある。
  3. 調査経過
    イ 法人の概況説明を受け、元帳、売上仕入帳、外注の補助元帳、帳票類を照合。外注費において、常雇の外注先であるが金額も過去発生の外注費に比べ多額であった。社長から期末近くの需要増大で外注費がかさんだ旨の説明があり、確かに前年売上に比べ113%の売上増大であった。
    ロ 外注先に反面調査したところ関連仕訳は以下であった。
    調査法人との取引・・・・・・・・売掛金500万円 売上500万円
    調査法人の関連法人との取引・・・外注費500万円 買掛金500万円
    帳簿から明らかに通過処理としての会計仕訳であることが明確であり、外注先代表者の説明も同様であった。
    ハ 関連法人が金融機関の借入金の継続を容易にするため、財務諸表の改善に向け外注費を計上したものであることが判明。直接関連法人に外注費を計上すると金融機関に怪しまれるので、あえて下請先を利用した旨の説明があった。


* 反面調査で容易に事実関係が判明した事例ですが、ある事例では架空取引でありながら実際の取引であると両者が主張し帳票類を作成。形式的な要件を満たしている場合は、真の事実関係は何かの判断は非常に難しくなります。バブル経済のときには「かぶりや」という言葉が氾濫しましたが、外注費の事実関係解明は高度な税務調査を必要とします。

* この事例のように架空外注費を計上した理由は関連会社の銀行対策であり、課税所得を少なくするためではありませんでした。また巨大企業になりますと、以下の例のように、課税所得を少なくするためではなく別の理由で架空の経費を計上する事例も多くなります。
イ 取引の成約を得るために、第三者を通じて賄賂を贈る場合、役務提供を受けたとし形式的な書類を作成し支払手数料として海外口座へ送金していた事例。
ロ 海外子会社の資金ショートを防ぐため送金する必要から担当役員が指示し、親会社の負担すべき広告宣伝費であるとの仮装書類を作成、送金していた事例。

「国税庁OBが語る~税務調査の有効な対策~」として5回にわたり連載をさせていただきました。課税当局の裏側を少しでもご理解いただけたのなら幸いです。

南青山リーダーズ株式会社 編集部

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