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国税庁OBが語る~税務調査の有効な対策~③

camera_alt (写真=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

税務調査の対応に苦慮される経営者の方はとても多いように思われます。過度な心配やあまり意味のない対策により業務に支障が出ないよう、数回にわたり国税OBにお話を伺った。

今回は、一般調査と査察調査です。

1.一般調査

調査官から会社への連絡を契機に、会社と税理士との三者間調整の結果、調査日程が決定します。署の調査は2、3日を予定する法人・消費・源泉税を対象とした全般的な一般調査と、1日を予定する疑問項目を対象とした重点項目調査に区分できます。項目調査は疑問点が浮かび念査すべきと判断すれば一般調査へと移行し、逆に一般調査でも1日で終了することもあります。

一般的に税務職員は優秀な調査官もいれば能力の疑わしい調査官もいます。従前は長年の積み重ねで作成された調査マニュアルにより調査能力を高める機会があったのですが、情報公開制度ができ公開対象となるため管理しなくなったようです。よって、調査官は先輩の指導と自らの経験で調査技術を磨くことになります。

税務職員の中で先天的に調査能力にたけた調査官はいます。社長の不正を短時間で追求し過去の不正金額をほぼ把握する。新米職員から見れば「すごい先輩」となります。意外に思われるかもしれませんが、調査に税法は全く不要です。正しい売上と正しい経費をいかに確認するか。その方法は調査官によって違います。

優れた調査官は社長からの情報を第一に優先します。会社の沿革、特徴、他社比較、得意先の増減推移、売上価格の推移、主要な仕入先、外注先、役員構成、役員は親族か否か、ここ数年の出来事。
調査官は会話において社長の表情を確認し、答えに躊躇しているか、声が小さくなったかなど観察しています。また、質問の過程において話を裏付ける資料の有無を尋ねて提示を依頼し、資料の所在場所の周辺も了解を得て確認します。

一般的に調査官に対してどのように対応すべきか不安が生まれます。調査連絡の日程は無理をしても受け入れるべきか。調査官の質問に答えるべきか。資料の提示依頼は受け入れるべきか。
答えは常識の中にあるかどうかを基準にすれば良い結果になります。調査日程に都合がつかなければ申し出る。質問は事実通りに答え、会社関係の帳簿、管理資料は依頼あれば提示する。誠実に臨むことが良い結果を生むと考えます。正しい処理はどこまでも正しいと判断されることになっています。

調査官は納税者が適正申告していないとの前提で調査していることからどうしても敵対関係の会話になりがちです。納税者も余計なことを話してしまったら税金が増えると思って言葉を慎む傾向になります。この関係では両者が望む早期完了から遠ざかってしまいます。望ましいのは調査が早期に完了することであり、調査官の疑問は速やかに解消されるべきです。その秘訣は、疑問が生まれない帳簿記録と帳票の保存に尽きます。

決算期近くになると見込利益と納付税額が現実となり、なんとかしたいとの衝動にかられ所得調整する事例が少なくありません。
 ① 製品、材料費などの棚卸金額を少なくする。
 ② 売上値引きを計上する。
 ③ 翌月仕入れを決算月に仕入処理する。
 ④ 翌期の外注費を計上する。
 ⑤ 人件費を繰り上げ計上する。

売上、棚卸、仕入、外注費、人件費など様々な数字の動きを、翌年度の会計処理を含め検討します。
期末と翌期に焦点をしぼり恣意的な会計処理の存否に調査時間を投入する調査官は多いです。毎月会社の数字を的確に把握していくこと、年度計画による実績比較を行うことが重要です。

2.査察調査

企業経営者にとってマルサという言葉は知られていますが、その組織は内偵班と実施班に区分されています。内偵班は秘密裏に大口悪質な脱税者の特定に努めます。察知されることなく情報を収集し脱税の確信へ向けて資料を収集するのは精神的にも厳しい仕事です。担当班は主査を筆頭に数名でチームを組み立件を目指しますが、1年で1立件できれば優れた班といえます。着手日は緊張の一日です。被疑者を補足できるか。着手前日には必ず被疑者宅を確認しますが、葬式の準備をしていたなどのケースもあり(その場合は即中止ですが)着手日には気を使います。

令状による強制調査の1日、読みと結果はどうか。しかし、ここまで精を尽くしてきた内偵班は全く被疑者に接することなく、着手日から被疑者への質問は実施班が担当します。実施班は初日にいかに脱税の証拠収集ができるかがポイントです。脱税の認識、脱税の手法、脱税額の留保状況など、物証とともに質問顛末書を作成し客観的な証拠収集により、国税犯則取締法に基づく検察庁への告発を目指します。検事に納得してもらうだけの十分な証拠が必要であり、査察官にとって初動日の強制調査における証拠収集はその後の処理に大きく影響します。被疑者が脱税を認めているか、質問に答えているか、初日の持つ意味は内偵班実施班ともに大きな一日となります。

署の調査と査察調査の大きな違いは証拠の収集です。査察調査では、被疑者が実際より少ない所得で申告書を作成し税務署に提出したことを認識できるか。不正所得がすべて証拠に裏付けられた金額で積上げられているかどうか。推定でも整合性ある証拠で構成され脱税した金額の形態は現金・預金・株式・貸付金・金地金などで具現化されているか。この辺りの証拠が重点的に収集されます。

以下の表は、平成28年度の査察事案の処理の数字となっています。

脱税金額の国外預金留保、消費税の不正還付件数の増加。懲役3年の実刑判決などがこの年の特徴となっています。査察事案に着手するも告発できない件数は25.8%あります。この数字を多いとみるか、少ないとみるか判断の分かれるところです。

南青山リーダーズ株式会社 編集部

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