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海外移住に対する国税庁の「出国税」とは

camera_alt (写真=Ferbies/Shutterstock.com)

いわゆる「出国税」は2015年7月1日に導入された制度で、正式には「国外転出時課税制度」という名称がつけられている。ここではその「出国税」について、一体どのような制度なのか、そうした制度が導入されるに至った背景には何があったのか、という疑問点についてひと通りの知識を整理しておくことにしたい。

出国税の概要

「国外転出時課税制度」は、2015年度の税制改正で創設され、2015年7月1日から施行された「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」と「贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例」の2つの特例の総称だ。この出国税の対象になるのは、国外転出をする日より10年以内の期間に国内に5年以上居住しており、特定の資産の合計額が1億円以上の人、ということになっている。

特定の資産とは、株式や投資信託、匿名組合契約の出資持分などの「有価証券等」、未決済の信用取引や発行日取引などの「未決済信用取引等」および「未決済デリバティブ取引」といった資産を指す。これらを出国時の時価で評価し、1億円以上だった場合には「含み益」に対して課税されるわけだ。具体的には対象資産の種類などに応じて、譲渡所得、雑所得または事業所得として、国外転出をした年分の所得税を計算することになる。

なお、2013年から2037年までの間に生ずる所得についての所得税の確定申告の際には、所得税に加えて原則として所得税額の2.1%にあたる復興特別所得税が課される。海外移住だけでなく、1年を超える海外転勤や留学の場合も対象となるが、出国前に届け出を行えば、税額相当の担保を提供することによって、最長10年間は納税が猶予される。

また、対象となる富裕層による国外に居住する親族等の非居住者への贈与や、相続や遺贈による対象資産の一部または全部の移転に関しても、贈与、相続または遺贈の対象となった対象資産の含み益について、所得税と復興特別所得税が課税されることになる。

出国税が導入された背景

租税条約によれば、株式の値上がりなどのキャピタルゲインについては、その株式等を売却した人が居住している国に課税権があるとされている。そこでこうした法制度を利用して、個人が含み益を有した株式などを保有したままシンガポールや香港などのキャピタルゲインが課税されない国に出国し、その後に売却して課税を回避することが可能となっていた。

一方、国内では、上場株式等の譲渡所得等および配当所得に適用されていた10%軽減税率の特例措置が2013年12月31日をもって廃止され、2014年1月1日以後は本則税率の20%が適用されることになった。また、相続税の税率が2015年1月1日以降は最高50%から55%にまで引き上げられるなど、一連の課税強化が続いている。

非課税で投資ができるNISA口座がスタートしはしたものの、年間の非課税運用額が120万円までなので、富裕層にとってはあまり有難みがない。「日本は住みにくい」と感じる富裕層が増えていたとしても、無理のない話なのかもしれない。

こうした状況は、海外へ移住する日本人が増えていることからも想像がつく。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、2015年10月1日時点で海外居住中の日本人数は約131万人。2005年には約101万人だったのに比べると、10年間で約30%増加した計算になる。

海外事業のグローバル化などによって海外赴任が増加していることも事実だが、海外在留邦人のうち長期滞在者を除いた永住者のみの人数を見ても、2005年の31万578人に対して2015年は45万7,084人で、伸び率は5割弱だ。日本を脱出して海外移住の道を選択するという人が増えているのだ。

もちろん法制度を逆手に取ったともいえる税負担の回避は、日本だけではなく他の国でも問題視されていて、現にアメリカやイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダなどの先進諸国では、出国時に所有していた資産が持つ未実現のキャピタルゲインに対しても、特例的に課税する措置等が設けられている。

富裕層の国外脱出が進めば、消費の減少をはじめ景気への悪影響も懸念される。出国税の導入は、課税強化に嫌気がさした富裕層の海外移住を食い止めるための「苦肉の策」だともいえる。


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