駆け込み加入する前に 逓増定期保険で気をつけるべきこと
2017年4月から、生命保険会社が保険料算出の目安とする標準利率が引き下げられる。これに伴い、各種生命保険の保険料が順次引き上げられる見込みで、各社その対応に追われている。
加入する側としては、保険料が引き上げられる前に加入したいところだ。そのために駆け込み加入を検討されている方も多いことだろう。駆け込み加入を行うことは合理的な行動だが、実際に必要な保険に加入しなければ意味がない。
今回は逓増定期保険(ていぞうていきほけん)に的をしぼり、加入するにあたっての注意点を解説したい。
逓増定期保険とはそもそも何か?
逓増定期保険とは定期保険の一種だ。定期保険とは、保険期間内に被保険者が死亡した場合などに保険金が支払われるもので、満期保険金はない。このため「掛け捨て保険」とも呼ばれている。保険期間中に保険金額が5倍までの範囲で増加する定期保険のうち、その保険期間満了時の被保険者の年齢が45歳超であるものを税務上「逓増定期保険」という。
例えば、契約時保険金額を5,000万円とすると、保険期間中は最大2億円まで死亡保険金が増加する。これは、逓増定期保険が法人向けの保険であり、被保険者を経営者とすることが多いことに起因する。企業が大きくなるにつれ、経営者など影響力がある人に万が一のことがあると、会社のダメージも大きくなりがちだ。そこで、時間とともに(会社の成長とともに)保険金も増加していくというわけだ。
また、途中で解約した場合には解約返戻金が生じることになる。この解約返戻率が早い段階で100%近くに達するのも逓増定期保険の大きな特徴だ。この特徴を利用して、経営者の退職金の資金準備としても活用されている。
なぜ逓増定期保険が節税になるといわれているのか
逓増定期保険はこうした保険金、解約返戻金の使い方だけがメリットではない。節税にもつなげることができる。逓増定期保険の支払った保険料は、1~3の区分により一部を損金算入することができる。つまり保険料の一定割合を費用として計上することができるようになっている。
1. 保険期間満了時における被保険者の年齢が45歳を超える場合(下記2または3に該当するものを除く)
→保険料の1/2を損金算入可能
2. 保険期間満了時における被保険者の年齢が70歳を超え、かつ当該保険に加入したときにおける被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加算した数が95を超える場合(下記3に該当するものを除く)
→保険料の1/3を損金算入可能
3. 保険期間満了時における被保険者の年齢が80歳を超え、かつ当該保険に加入したときにおける被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加算した数が120を超える場合
→保険料の1/4を損金算入可能
こうした一定割合を損金として算入できることで、法人税の節税を図ることができる。決算間近でも、場合によっては逓増定期保険加入により節税をその期に行うこともできるため、利益が多く出るような状況の場合にはこの保険が節税効果を発揮するだろう。
加入前に気をつけるべきこと
では、逓増定期保険に加入する前に気をつけるべきことはないのだろうか。特に3つの観点に注意していただきたい。
1. 節税の使い方を間違えない
逓増定期保険による節税は、税金の繰り延べ効果として利用できる。つまり、先に損金として費用計上することができるものの、実際に解約返戻金を受け取るときには課税対象となるのだ。そのため、本業が落ち込みそうな時期や経営者の退職金として利用する(費用計上可能)といったタイミングと解約返戻率のピークが重なるように保険加入しないといけない。
2. 支払いの資金繰りに注意する
節税対策として加入したものの、保険料の支払いが苦しくなっては意味がない。その後の経営が順調で、保険加入後も資金繰りに問題がないかどうか先行きを見計らっておく必要がある。
3. 解約のタイミングを間違えない
いつ解約しても解約返戻率が高いわけではない。タイミングを逃すと、場合によっては解約返戻率が低い状態でも解約にもなりかねない。
節税や退職金など目的をしっかり決めること
逓増定期保険の加入後も、経済・景気情勢などにより企業経営状況は変化する。そのため、加入時だけではなく、その後も保険加入時に目的とした内容が遂行できる環境にあるかどうかの確認、見直しは必要だ。
駆け込み加入により保険料アップを防ぐのも重要だが、加入すればいいというものではない。本当に必要かどうか、再度状況を見極めたうえで、必要な保障金額がいくらなのか、解約するタイミングも考慮しながら適切な加入を心がけていただきたい。