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節税目的の養子縁組は認められるか

camera_alt (写真=Africa Studio/Shutterstock.com)

「相続税対策で孫と結んだ養子縁組は有効かどうか」が争われた訴訟の上告審判決で、平成29年1月31日 最高裁第三小法廷(木内道祥 裁判長)は、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について無効とはいえないとの初判断が示されました。

これにより、相続税対策として養子縁組が広がりつつある現状が追認された形となり、税制改正により富裕層への増税、納税対象者が拡大するなか、養子縁組がさらに注目されることになると思われます。

相続税の仕組み

相続税の計算は、

1. 相続財産の課税価格の合計額 − 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)=課税遺産総額
この課税遺産総額が納税額算定の基となります。

2. 課税遺産総額 × 各法定相続人の法定相続分 = 法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額
一旦、法定相続分で分割したものと仮定して按分します。

3. 法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額 × 税率 − 控除額 = 算出税額

各法定相続人ごとの取得金額に税率を乗じて税額を算出するが、税率は取得金額が高ければ高いほど、税率も高くなります。

4. 3で算出した各人の税額の合計(相続税の総額)× 実際の相続割合 = 各人の負担する相続税額
として計算されます。

基礎控除は平成27年の税制改正により引き下げられました。当時非常に話題となったので記憶に残っている方も多いと思います。

平成26年までは、5,000万円 + 1,000万円×法定相続人

平成27年から、 3,000万円 + 600万円×法定相続人

上記改正により基礎控除は4割減少し、相続税負担増と納税対象者の増加をもたらしました。

相続税の負担を抑えるために、養子縁組をして法定相続人を増やす事例があります。法定相続人が増えれば一人当たり600万円の基礎控除の増加となり課税遺産総額を減額させ、また、法定相続分が減少するため税率を引き下げることができる効果があるからです。

これを利用するための養子縁組の是非が、冒頭の判決で争われたのです。

養子について

ここで、法定相続人について注意が必要となります。すなわち、民法の法定相続人と税法上の法定相続人はその範囲が異なっているからです。
例えば、被相続人の死亡時の家族構成が
・ 配偶者
・ 子3人 (実子1人、養子2人)
この場合、民法上の相続人は、4人で、実子も養子も同位です。

しかし、相続税の計算上の法定相続人は、3人となります。

これは相続税法第15条2項が以下の様に規定している事によります。

法定相続人の中に養子がいる場合、以下の人数までしか相続人には含めない。
・ 被相続人に実子がいる場合は養子のうちの1人まで
・ 被相続人に実子がいない場合は養子のうちの2人まで

相続税の計算上、恣意的な税負担軽減を排除するべく、民法とは別に相続税法上の相続人を定義し計算しているのです。

民法では、養子には実親との関係や要件等の違いから、普通養子と特別養子がありますが、民法上の相続人として両者に差はありません。しかし、相続税法第15条2項で養子について人数制限の規定が設けられているのは、普通養子についてです。

普通養子とは、実親との親子関係は継続したまま、養親との養親子関係を形成することです。養子になる子の年齢に制限はありません。実親と養親の両方から相続が可能となっています。

一方、特別養子は、実親との親子関係を終了させて(民法817の6条)養親と実親に準じた関係を形成します。養子になる子は原則6歳未満であること(民法817の5条)とされています。

実親との関係を切って、新たな親子関係を形成し、厳しい要件や手続きを経て養子縁組が成立し、さらに、離縁もすぐに出来ない等の条件のある特別養子は相続税対策に利用されることは想定しておらず、相続税法15条3項にて特別養子縁組による場合は養子の数の制限には含めないとしています。

節税目的の養子縁組がなぜ認められるのか

今回の判決は、被相続人(財産保有者)の実子が3人(長男、長女、二女)おり、その長男の子(被相続人の孫)を養子にしました。そして、長女、二女が、この養子縁組は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」にあたるとして訴えていました。

主文に続く理由の抜粋を見てみます。

「養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」

今回の判決を受けて、節税目的の養子縁組も直ちに違法ではないことが確認されました。

ただし、国税庁のサイト内にある、タックスアンサー(よくある税の質問)の中のNo.4170 相続人の中に養子がいるときで(相続税法第15条2項の)法定相続人の数に含める養子の数の制限についての中に、養子の数を法定相続人に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、認められる養子の数に含めることはできないとされています。

これは、相続税法63条で、相続税の負担を不当に減少させると認められる場合には、養子の数を計算から除きます、という旨の規定を受けての説明になっています。

では、相続税法上認められない養子とはどのようなものでしょう。

その養子が相続開始後に、相続の放棄をしたり(させたり)、などのケースが考えられます。

孫を養子にする場合は注意が必要

被相続人の孫を養子にして相続すれば、被相続人から相続人(実子1親等)に相続する1回分の手間も税金も省略できます。そして、基礎控除も増え一石二鳥と思われます。

しかし、この孫を養子には古くから行われており、2003年の税制改正にて、孫養子は実子が存命中に養子縁組をした場合には税法上2割加算の対象となりました。

すなわち、孫養子は相続税額にその相続税額の2割に相当する金額を上乗せして支払う必要があるのです。

ちなみに、孫養子以外にも、下記図1の様に2割加算となる相続人がいますので参照して下さい。

そして、下記図の兄弟・姉妹(2親等)や、おい・めい(3親等)が養子の場合は、この2割加算はありません。ただし、年長者を養子にはできません。

まとめ

節税目的で行われている養子縁組が、その目的により直ちに違法とはならないことが、明らかになりました。税負担が増える傾向の中、養子縁組をご検討される場合にはご留意頂ければと思います。

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