会社売却で株主にかかる税金とは(株主譲渡所得、退職所得等の比較)

88c0a59d 5271 4b8f b1a3 df99f4e4fd11 camera_alt Shutterstock_寄稿者 Constantin Stanciuさん

はじめに

中小企業の事業承継において、会社を第三者に売却(M&A)するという選択肢を検討する経営者の方が増えています。会社の売却は、自社の株式を売却することを意味します。

では、自社の株式を買主に譲渡(売却)した場合に、売主にはどのような税金がかかるかご存知でしょうか。多額の税金負担が発生することがあるため、株式譲渡によってかかる税金について理解しておく必要があります。

株主譲渡所得と税金

中小企業では代表取締役が大株主である、つまりオーナー経営者である場合が多いと思われます。

では、オーナー経営者(株主)である個人が株式を譲渡した場合は、どういった税金がかかるでしょうか。

課税対象となる個人の所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類に分かれます。

このうち配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得(ゴルフ会員権等の売却)、一時所得、雑所得については、毎年1月1日から12月31日までの歴年単位で各所得を合算し、各所得の所得控除後の課税所得に一定の税率を乗じて税額を計算する総合課税となっています。

上記以外の、利子所得、退職所得、山林所得、譲渡所得(土地や建物の売却、株式の売却)については、他の所得とは分離して所得・税額を計算する分離課税です。

したがって、株主である個人が株式を譲渡した場合は、株式譲渡所得に対して、分離課税で所得税、復興特別所得税、個人住民税の税金がかかります。

2021年10月現在で、現行の税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+個人住民税5%)です。株式譲渡所得は「収入金額-取得費・譲渡費用」で計算されます。

また、上場会社の株式か非上場会社の株式かにかかわらず、同じ税率(20.315%)が適用にされます。

株式譲渡益については、申告分離課税とされていますので、他の所得とは損益通算はなされません。つまり事業所得がマイナスの場合であっても、譲渡益が生じている場合は、株式譲渡益に対する税金の支払いが必要となります。ただし、同一年度に複数の株式譲渡がなされた場合は、株式譲渡相互間での損益通算がなされます。

退職所得と税金

株式の譲渡所得に対しては所得税が課税されますが、中小企業間では、譲渡価格の一部を退職するオーナー経営者への役員退職金として支給する手法が用いられる場合があります。

オーナー経営者が役員退職金を受け取った場合にはどういった税金がかかるでしょうか。

役員退職金については、所得税と住民税が課税されます。退職所得については、実際に受け取った金額から退職所得控除額(※1)を差し引き、さらに2分の1をかけた金額が退職所得となります。所得税の金額は、退職所得に所得税の税率をかけて計算されます(※2)。

ただし、役員等として勤続年数5年以下の者が支払を受ける退職手当等のうち、一定の金額である特定役員等退職手当等は、2分の1しない金額が退職所得となります。

(※1) 退職所得控除額

勤続年数が20年以下の場合、「40万円×勤続年数」が控除額となります。勤続年数が20年を超える場合、「70万円×(勤続年数-20年)+800万円」が控除額となります。すなわち、20年目までの控除額800万円と、20年目以降の控除額(年間70万円)を合わせた金額が控除額となります。

(※2)退職所得の源泉徴収税額

課税退職所得金額から源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の額は、次の速算表を使用すると簡単に求められます。なお、求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

退職所得の源泉徴収税額の速算表
課税退職所得金額
(A)※
所得税率
(B)
控除額
(C)
税額
=((A)×(B)-(C))×102.1%
195万円以下 5% 0円 ((A)×5%)×102.1%
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円 ((A)×10%-97,500円)×102.1%
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円 ((A)×20%-427,500円)×102.1%
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円 ((A)×23%-636,000円)×102.1%
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円 ((A)×33%-1,536,000円)×102.1%
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円 ((A)×40%-2,796,000円)×102.1%
4,000万円超 45% 4,796,000円 ((A)×45%-4,796,000円)×102.1%

※課税退職所得金額(A)に1,000円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732_besshi.htm)

株式譲渡と役員退職金の組み合わせで税負担を軽減

では、譲渡価格の一部を退職するオーナー経営者への役員退職金として支給する手法にはどういったメリットがあるでしょうか。

譲渡価格を1億円として、その一部を役員退職金として2000万円、残額8000万円を譲渡代金として受け取った場合を考えてみます。

役員としての勤続年数20年の役員が2000万円の退職金を受け取った場合、控除額は800万円となり、退職所得は、(2000万―800万)÷2=600万円です。これに所得税と住民税の税率をかけたものが退職所得の税金です。

その他に、8000万円の株式譲渡価格を受け取ることになり、8000万円から取得価格を控除したものに対して20.315%の税金がかかることになります。

一方、1億円すべてを譲渡価格とした場合には、譲渡価格1億円から取得価格を控除したものに対して20.315%の税金がかかることになります。

どちらが有利であるかは計算してみなければ判明しませんが正確にはわかりませんが、多くの事例では退職所得のほうが、退職所得控除などがあるため税金は少なくてすむ負担が少ないと思われます。そこで、中小企業のM&Aの場合、売主であるオーナー経営者の側からは、できるだけ退職所得を多く、その分だけ株式の譲渡価格を少なくするよう要望されることがあるのです。ただし、役員退職金は退職金規定があることが前提ですので、役員退職金規定が存在し、その退職金規定で定められた範囲内でしか退職金を支給することはできません。

また、規定の範囲内だとしても、功労加算倍率の制限(※3)があり、無制限に役員退職金の金額を決定できるものではないので、こちらにも留意する必要があります。

(※3)功労加算倍率の制限

役員退職金の金額は、月額報酬×勤続年数×貢献倍率で定められることになります。役員退職金規定により貢献倍率は、通常1から3に定められている場合が多いようですが、貢献倍率が異常に高い場合には、税務署から否認されることがあります。

過去の事例からすると、3.5倍が最大限でこれ以上の功労加算を行った場合は税務署から否認されるリスクが高くなります。どうしても役員退職金を多くしたい場合は、功労加算ではなく月額の報酬を大きくすることで調整することになりますが、役員の報酬は毎月同額である必要があり、役員報酬の金額が月ごとに変動が生じる場合経費として認められない場合があります。

おわりに

中小企業のM&Aにおいては、株式譲渡代金の受け取り方によっては売主側の税負担がかなり軽減される場合があることがわかりました。

他方、買主側では、株式譲渡でM&Aをした場合は、投資額について経費処理をすることができないものの、株式譲渡代金の一部を役員退職金として譲渡対象企業からオーナー経営者に支給することにより、対象企業に経費処理をすることができ、役員退職金の支給分だけ株式取得代金を圧縮できるメリットがあります。

M&Aにおける譲渡価格の取り決めの際にも、売主、買主双方にとってメリットがあれば合意に至りやすく、M&Aの成功にもつながることでしょう。

ただし、適正水準を超えた役員退職金の過大部分については税務調査で損金不算入となる可能性があります。また、株式譲渡所得と役員退職金をうまく組み合わせて、税負担を最大限に軽減する必要があるため、事前に税理士など専門家に相談することをおすすめいたします。

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