相続時精算課税制度について
はじめに
平成15年1月1日に相続時精算課税制度が施行され、もうすぐ20年が経過しようとしています(令和4年6月時点)。
改めて相続時精算課税制度の活用例およびメリット・デメリットにつきご紹介したいと思います。
相続時精算課税制度
・制度の概要
相続時精算課税制度とは、名前の通り「相続時」に「精算」される贈与税の制度です。
原則として60歳以上の父母または祖父母から18歳以上(注)の子または孫に対し贈与をした際に、贈与を受けた子または孫の選択により適用できる制度です。(参考資料1)
当該制度の選択をした贈与を受けた子または孫は、2,500万円までは贈与税が課税されず財産を取得できますが、2,500万円を超えた金額に対しては20%の税率で贈与税を計算し納税する必要があります。
また、贈与をした者である父母または祖父母の相続発生時において、当該制度の適用を受けた財産は相続財産として相続財産に加算し、納税した贈与税額は相続税から控除されます。
(参考資料1)
(注)令和4年4月1日前の贈与に関しては20歳以上
・具体例
実際に相続時精算課税制度を適用した場合、どのような納税額になるのか具体例を基に確認していきます。
具体例は相続時精算課税制度の適用要件を満たしていると仮定します。
贈与者から受贈者に対し、〇1年1月に1,000万円および5月に500万円を贈与した
〇2年3月15日までに提出する贈与税申告書
贈与財産 1,000万円+500万円=1,500万円
贈与税額 1,500万円<2,500万円 ∴0円
その翌年である〇2年6月に700万円および9月に800万円を贈与した
〇3年3月15日までに提出する贈与税申告書
贈与財産 700万円+800万円=1,500万円
贈与税額 1,500万円>1,000万円(=2,500万円―1,500万円)
(1,500万円―1,000万円)×20%=100万円
数年後に贈与者に相続が発生し、相続発生時点の受贈者の相続財産が1億円だった
また、相続財産1億3,000万円に対する相続税額は2,000万円だった
相続財産内訳 1億円+相続時精算課税制度に伴う贈与額3,000万円=1億3,000万円
納税相続税額 2,000万円―既に支払った贈与税額100万円=1,900万円
メリット
相続時精算課税制度のメリットは、以下の通りです。
①贈与時点では一度に多額の財産の贈与を低率の贈与税額で贈与可能
多額の贈与をした際には相続時精算課税制度を適用した方が贈与時点での贈与税の納税額を少なくすることが可能です。(参考資料2)
② 将来値上がりが見込まれる株式および不動産などを贈与時の評価額にて贈与可能
相続時精算課税制度の適用を受けた財産は、相続時には相続財産として当該財産は贈与時の評価額にて加算されます。
贈与時に5,000万円の財産は、相続時に1億円の評価額となっていても、贈与時の5,000万円にて相続財産に加算されます。
③ 財産の贈与に伴い、当該財産から得られる収益を贈与時点から受贈者にて取得可能
収益不動産や配当のある株式などを贈与した場合には、早めに贈与することにより、受贈者は、長い期間で不動産収益や配当を取得することが可能です。
贈与者にとっては所有継続に伴う財産および相続税額の増額を防ぐことになりますし、受贈者の納税資金の原資にもなります。
(参考資料2)
デメリット
相続時精算課税制度のデメリットは、以下の通りです。
① 相続時精算課税制度を一度選択すると、当該贈与者からの贈与に対して暦年贈与の適用不可能
相続時精算課税制度を一度選択致しますと、その後に暦年贈与の適用はできません。
よって暦年贈与の非課税枠である年110万円以下の贈与につきましても、相続時精算課税制度の適用を受けることになります。
② 将来値上がりを見込んだ財産が相続時に値下がりをしていても、相続時の評価額に変更することは不可能
メリット②とは逆の状況が発生し、贈与時に1億円の財産は、相続時に5,000万円の評価額となっていても、贈与時の1億円にて相続財産に加算されます。
おわりに
デメリットにて紹介した通り相続時精算課税制度は一度選択してしまいますと、その後暦年贈与に戻ることはできません。
一方でメリットにて紹介した通り贈与者および受贈者の状況においては納税額全体を圧縮することも可能です。
「相続時精算課税制度とは節税ではなく納税の繰延である」とも言われています。
デメリットの影響が大きくなれば、納税の繰延どころか贈与者および受贈者の納税額を増やすことになります。しかし、メリットの影響が大きくなれば贈与者および受贈者の節税することも可能です。
この様に相続時精算課税制度は贈与の時点だけでなく、いつの日か必ず発生する相続の時までの受贈者および贈与者の人生設計をある程度検討する必要があります。
適用の際には専門家へご相談の後に選択されますことをお勧めします。
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