事業承継の相続税・贈与税の税負担が軽減される特例とは
中小企業の経営者にとって、いかに次世代へ事業を円滑に継承するかは重要なミッションである。しかしながら、不安も多いことであろう。次の世代がうまく経営を担ってくれるだろうかという本質的な問題から、事業承継の際、保有株はどうバトンタッチするのか、一体いくらの評価になるのか、贈与税や相続税はどのくらいかかるのか。
こうした悩みを抱える経営者は、税制を理解し、その特例を活用することで贈与税や相続税に関する不安を拭い去ることができるかもしれない。一体どんな特例があるのだろうか。
事業承継の相続税
経営者が亡くなった場合、次の世代が受け継ぐ自社の株式には多額の相続税が課されることがある。納税するだけの資金はなく、そのために株式が分散してしまうのではないか。また、他社に買収されるきっかけともなりかねない。こうした悩みを解決する手段として用いることができるのが「納税猶予及び免除制度」だ。
事業承継の際の相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度では、一定の手続きを経ることで納税が猶予、もしくは免除される。具体的には、相続税の場合、現経営者の相続又は遺贈により、後継者が取得した自社株式の80%部分の相続税の納税が猶予、免除される。
例えば、自社株式7億円を後継者Aが取得したとしよう。また、その他の財産3億円を非後継者Bが取得したとする。自社株式7億円は発行済議決権株式総数の2/3であるとする(対象となる自社株式は、後継者が既に保有していた分を含めて発行済議決権株式総数の2/3までという規制があるため)。
この他に相続人がいないとした場合、後継者Aの納付税額は、納税猶予の適用を受けない場合、おおよそ2億8,000万円の納税を行う必要がある。一方で、納税猶予の適用を受けた場合には、相続税額はおおよそ4,000万円となる。なんとこのケースの場合、2億4,000万円もの納税猶予を図ることができるのだ。
納税猶予を受けるための主な要件
この納税猶予を受けるための主な要件は、「中小企業者であること、上場企業に該当しないこと、資産管理会社に該当しないこと」などである。また、現経営者は会社の代表者であったこと、相続開始(亡くなる)前の直前において、現経営者と現経営者の親族などで総議決権数の過半数を有し、かつ筆頭株主であったことが要件となる。
後継者にも要件がある。後継者は、相続開始時に後継者と後継者の親族などで総議決権数の過半数を有し、筆頭株主である必要がある。また、相続開始の直前において役員である必要があり、相続開始から5ヵ月後に代表者である必要がある。こうした要件を満たせば、納税猶予を利用することが可能だ。なお、後継者は親族以外も可能だ。
贈与税の税負担が軽減される特例とは
生前に贈与する際にも特例がある。贈与税の税負担が軽減される特例があるのだ。現経営者からの贈与により、後継者が取得した自社株式に対応する贈与税の納税が猶予及び免除される。ただし、対象となる自社株式は、相続税の場合と同様、後継者が既に保有していた分を含めて発行済議決権株式総数の2/3までである。
贈与税の納税猶予及び免除の要件も、基本的には相続税の納税猶予及び免除の特例と同様である。なお、現経営者は贈与時に代表者を退任していること(有給役員として残ることは可)、受贈者は贈与時に20歳以上、かつ贈与の直前において3年以上役員であり、猶予認定時までに代表者となっている必要がある。
利用時の注意点
こうした特例を活用することで、相続時・贈与時の納税負担を軽減できることがわかった。それでは簡単に利用できるかというとそういうわけでもない。
相続税の納税猶予の場合、相続開始後8ヵ月以内に申請を行い、経済産業大臣の認定を受けるとともに、税務署への申告を行う必要がある。また、納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保の提供が必要である。現実的には特例を受ける非上場株式のすべてを担保提供することになるだろう。
そして、納税猶予開始後、年1回経済産業局へ年次報告書を提出する(5年間)。税務署へも年1回、継続届出書を提出する必要がある。5年経過後は、3年に1回税務署へ継続届出書を提出する必要がある。
贈与税の特例も、翌年1月15日までに申請を行い経済産業大臣の認定を受ける必要がある。税務署には認定書と贈与税の申告書等を提出する。あとは相続税の特例と同様の手続きを行っていく。当然ながら、認定を受け、報告書、届出書を提出しなければ納税猶予は継続できない。
要件を満たすことができなくなった場合には、全額贈与税、相続税を支払う必要がでてくる。
要件を満たし、認定・申告する流れを忘れずに
特例を利用するためには、事前の準備が必要である。そして特例の要件を満たし、認定を受け、継続して報告書、届出書を提出しなければならない。
また、現経営者だけではなく、後継者もこの仕組みをしっかり理解しておく必要がある。要件を満たせなくなった場合には、課税されるおそれがあるためだ。後々のトラブルを防止するためにも、現経営者と後継者がそれぞれ制度を理解した上で特例を利用するようにしよう。具体的な手続きについては、税理士に相談するといいだろう。
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