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事業承継への備えとして検討したい相続時精算課税制度

camera_alt (写真=racorn/Shutterstock.com)

非上場企業の経営者にとって、円滑な事業承継は大きな課題の一つだ。能力、経験、実績、人柄などからみて申し分のない後継者がいても安心できない。事業を順調に発展させていれば企業の株式評価額が大幅に上昇しており、後継者が多額の相続税や贈与税を課される可能性があるからだ。

そうした負担を和らげるための対策の一つとして「相続時精算課税制度」の利用が考えられる。

相続時精算課税制度とは何か

相続時精算課税制度は、60歳以上の直系尊属(父母、祖父母など)から20歳以上の直系卑属(子・孫など)への生前贈与に関し適用できる。贈与者1人ずつに対し選択できるため、例えば父からの贈与には適用する一方で、母については選択しないことも可能だ。ただし、一度選択したら取り消すことはできない。

本制度には非課税の特別控除枠2,500万円が設定されており、同一の直系尊属から受けた累積贈与額が2,500万円に達するまで贈与税が控除される(本制度を利用した場合、贈与税の基礎控除110万円は利用できない)。

2,500万円を超過する部分の贈与額に対しては、一律20%の税率が適用される。直系尊属が亡くなり相続を行ったときは、本制度による贈与財産とその他の相続財産を合計した価額を基準に算定した相続税額から、納付済みの贈与税額を控除した金額を納めることになる。もし相続税額より納付済みの贈与税額の方が多ければ、差額の還付を受けられる。

相続時精算課税制度が事業承継対策に繋がる理由

相続税額算定の際、当該贈与財産は贈与時の時価で評価されるため、贈与後の価格変動により結果として節税(または増税)効果が発生することもある。これが、相続時精算課税制度が事業承継対策に繋がってくる理由だ。

また株式、預金、債券、賃貸不動産などの収益資産の場合、贈与後の配当収入などは受贈者の直系卑属に帰属するため、間接的に相続財産の圧縮に繋がる。例えば1年間の配当収入が500万円あれば、一般的に源泉分離課税(20.315%)を控除した約400万円が最終的に相続財産となるが、生前贈与を受ければそれを削減できる。

(相続時精算課税を選択した場合の贈与税の計算例)

● 1年目
父から1,000万円の贈与を受け相続時精算課税を選択
<課税金額の計算>
1,000万円 - 1,000万円(特別控除額) = 0
<翌年以降に繰り越される特別控除額の計算>
2,500万円 - 1,000万円 = 1,500万円

● 2年目
父から1,000万円の贈与を受ける
<課税される金額の計算>
1,000万円 - 1,000万円(特別控除額) = 0
<翌年以降に繰り越される特別控除額の計算>
1,500万円 - 1,000万円 = 500万円

● 3年目
父から1,000万円の贈与を受ける
<課税される金額の計算>
1,000万円 - 500万円(特別控除額) = 500万円
<贈与税額の計算>
500万円 × 20% = 100万円

相続時精算課税制度をどう事業承継に活用すればよいのか

相続時精算課税制度を事業承継に活用する第一の意義は「相続インパクトの平準化」にある。財産を残す経営者が亡くなる前から計画的に贈与を行っていれば、相続時に多額の納税負担を強いられるリスクを軽減できるだろう。特別控除枠の2,500万円を超過する贈与財産に関しては、納めた贈与税は相続税から控除されるため、相続税の前払い効果がある。

第二の意義として、今後値上がりが期待できる資産を「贈与時の簿価で」早いうちから次世代に移転しておけることがあげられる。会社が順調に発展することを展望した場合、株式時価評価が低いうちに譲渡を進めれば相続財産額を圧縮でき、最終的な納税額を減らせる可能性が高くなる。

節税効果だけでなく、後継者(または複数の候補者)が明確になるメリットもある。後継者が明らかになれば事業承継に向けて動きやすくなり、従業員や取引先の安心感が高まりやすくなる。事業承継方針がみえれば、新規事業・設備投資計画とそれに伴う減価償却予定も立てやすくなるはずだ。

最も重要なことは、事業を円滑に承継して、末永く発展させるための意思と戦略を持つことだ。経営者の知力、体力、気力が充実しているうちに承継準備を始めることが大切で、そのための戦術の一つとして相続時精算課税制度の活用も考えられるのではないだろうか。

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