新年を迎え金融市場を思い巡らす!
新年早々イラクと米国の対立が激しくなっています。これは予想外の展開であり、リスク回避の環境が金融市場で進んでいるかに思えました。
しかし、一日経つと双方の利害が一致しているようで、なんだか茶番劇のようであり、一転リスク志向の様相になっています。今年はこんな事象が多く、金融市場が振り回されることが多い一年になるのかもしれませんね。そんな中、今年のテーマは何であるかを思い巡らしました。
米大統領選挙と米中通商交渉について
米大統領選挙に向け、トランプ大統領は全エネルギーを注ぐのでは!
このテーマに最も重点を置く市場ではないかと思います。11月初旬の大統領選挙に向け、最初各州での予備選挙で共和党、民主党候補者の代議員を選出し、そして7月の民主党全国大会で民主党候補、8月の共和党全国大会で共和党候補を選出します。民主党候補は乱立気味、そして高齢者候補が多く、どの候補も魅力に欠けるようです。
バイデン前副大統領、ウォーレン女史、サンダース候補、そしてここに来て37歳のプチジェッジ氏が旋風を巻き起こしています。しかしこの候補は同性愛者である点が最終的には弱点であると言えます。共和党はほぼトランプ大統領で決まりの様相です。両政党の候補者が選ばれると、9月末からのテレビ討論、そして11月3日の大統領選挙当日を迎えることになります。トランプ大統領圧倒的優勢の中、トランプ大統領の敵はトランプ大統領自身と言えるかもしれません。
トランプ大統領自身に弱みを見せることは、自らの政策に明確な失敗が出てくることを意味します。年明け早々に勃発したイラクとの対立は、多分に大統領選挙を意識したものであると邪推します。米国の力を誇示し、軍事力を行使する動きになると、リスク回避の金融市場環境となり、株価大幅下落と流れとなります。株価大幅下げが続くと、トランプ大統領への支持は薄れると思います。
ウォール街の支持取り付けは大統領候補にとっては必要不可欠です。激情型のトランプ大統領にしては珍しく矛を収め、大人の対応をしたという印象です。今後も、中東情勢、北朝鮮情勢、習近平主席、プーチン大統領など強面政治家との協議の過程で、失政、不適切発言などは許されません。そしてパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長との対立でも、支持率を下げない対応が求められます。
現在も利下げ圧力を続けているのが、逆に支持率を高める効果があるのではと思います。一貫性がない政策は支持率を失います。またツイッターを効果的に使う選挙戦術を展開するのではと思います。
無難な選挙戦を続け、強いアメリカの継続を強調すれば(今回はKeep America Great!)、トランプ大統領自身の敵失がなければ、トランプ大統領再選の可能性は高いのではと、政治専門家ではないのですが、何となくわかります。筆者は、株式市場も共和党政権が続けば、好感し上昇を続けるのではと楽観視しています。
米中通商交渉の展開は?
第一段階合意の署名に向けて、交渉が続く米中通商交渉。今後は第二段階合意へと進みます。両国にとって、関税の掛け合いはやはり景気後退懸念を内包するために、本音の部分ではこれ以上の掛け合いになるのは避ける努力をするのではと思います。しかし、根本に流れるのは、米中の政治的、経済的覇権争いではないかと思います。米国中心の政策展開模様のトランプ大統領、一帯一路のもと世界制覇の野望を持つ習近平主席です。
ハイテク分野や宇宙分野等の先陣争い、南シナ海などでの地域紛争、自由主義の本家である米国のチベット、ウイグル、香港、台湾問題へ、トランプ大統領自身が大統領選挙を見据えて、積極的に関与してゆくかに注目です。ある意味、敵失になる可能性もあります。
欧州経済のゆくえ
欧州経済はどのようになるのか、景気浮上となるか?
世界銀行の世界経済見通しによると、ユーロ圏の今年の成長率予測は1.0%成長と、昨年の1.1%よりも低く、まだ出口の見通せないユーロ圏経済。独中心に製造業の浮上の兆しが出てこないと、景気の明確な浮上は見通せません。そしてユーロ圏各国の景況感はまちまちです。観光産業中心のスペインは良い景況感を維持できそうですが、景気後退の兆候もあるようです。
そしてユーロ圏主要国で自国中心主義、つまりポピュリズム政党が躍進しています。格差社会が広まる中、ドイツでは旧東ドイツ中心にポピュリズム政党が台頭し、メルケル政権を侵食する動きになっています。スペインでも11月の総選挙でVoxというポピュリズム政党が躍進しています。欧州全体に中東、アフリカからの難民受け入れ姿勢とポピュリズムとの対立が一段と鮮明化するのではないかと思います。
今年は政治色の強いユーロ圏となり、政治に大きく左右される金融市場となるのではと思い巡らせます。ラガルドECB(欧州中央銀行)総裁は、不透明な景況感の中、当面緩和的な金融政策を続けると思います。利上げは当面なく、量的緩和にも踏み切る局面があるのかもしれません。あるいは各国に財政面での景気刺激策を要請することになるのかもしれません。為替ではユーロ売り基調の市場環境ではと思います。
英国は今月末に正式にEU離脱となります。そして1年間の移行期間でジョンソン首相は進めています。米国、欧州各国と個別に通商交渉をすることになるでしょう。一時のような悲観的経済状況にはならないのではと考えているエコノミストが多くなってきています。BOE(イングランド銀行)の直近の金融政策委員会の議事録でも、Brexitの影響を不安視する文言があるものの、概ね楽観論調となっています。利上げと言う選択肢も頭の片隅に置いておく必要があるのではと思います。
地域紛争に注意を!
1の項目で指摘したことと重複しますが、
A:中東での紛争の可能性:イラン、イラク、シリア、サウジアラビア、そしてそこにイスラエルが複雑に絡んできます。原油価格が乱高下する可能性があります。
B:北朝鮮情勢:米国が核施設廃棄の見返りに経済制裁を解除しないと、北朝鮮はミサイル発射、核実験を引き続き行う可能性があります。エスカレートする危険性に注意する必要があります。円の乱高下要因として注意したいところです。
C:中南米、特にベネズエラ情勢には注意です。反米のマドゥロ大統領と親米のグアイド国会議長の対立が一段と鮮明化する可能性があります。原油埋蔵量世界一のベネズエラ情勢が原油相場に影響を与える可能性があります。またブラジル、アルゼンチンの債務問題が一時的にテーマになる可能性があります。
まとめ
今回は日本以外のテーマを述べてみました。今年も世界情勢に注視し、時には変動の大きい相場展開が予想されます。皆さんがそれぞれのリスク許容度に応じ、ハイリスク・ハイリターン、ミドルリスク・ミドルリターン、そしてローリスク・ローリターンな金融商品を、心理的に圧迫感がない程度に、それぞれのポートフォリオを組んでゆきましょう。それでは今年もよろしくお願いします。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。