海外不動産市場を見渡すと
今回は世界の不動産市場の現状を把握することに注力したいと思います。世界の不動産を見渡すと、欧米、アジア、オセアニアが投資対象として浮かび上がります。
結論から申し上げますと、米国不動産市況はまずまずの市況環境ですが、アジア、オセアニアの市況は少々ネガティブな要因が多いように思います。
オセアニアの不動産市況
まずオセアニアの市況環境から検証してみましょう。特にオセアニア、つまりオーストラリアの不動産環境が悪化しています。
下記のグラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は昨年度の不動産価格(住宅価格)の変動率を示しています。
このグラフを見るとオーストラリアの不動産価格の低下が突出しています。原因は2つあり、一つにはオーストラリアは中国経済の影響を大きく受けるということ。中国資本による不動産取得には、政府が制限を掛ける動きも出ています。
そしてもうひとつは、昨年からの森林火災の影響です。森林火災で実質GDP(国内総生産)の最大約80億豪ドル(約6,000億円)圧縮されるという話もあります。
GDPで今年第1四半期までに0.4%縮小するとエコノミストは予測しています。
しかし日経新聞によると、都市部の利回りベースで考えると、シドニーは3%台後半と他の世界の主要都市と比較すると良い利回りを上げています。これは相対的に不動産価格が下がっていることも影響しているのではと推測します。
アジアの不動産市況
またグラフからはアジアの国々の価格下落が上位を占めていて、中国も3%台の下落となっています。都市部の一部の不動産には高需要ですが、その他では不動産取引が活発ではないようです。
中国当局が不動産所得に投機的投資は除外する措置に踏み切っていること、中国経済が米中貿易摩擦を背景に後退局面に入っているのではとの要因としてあげられます。
中国の今年のGDPは6%を下回ってくるのではとの観測があります。その他、インド、インドネシア、韓国などの不動産価格下落が見受けられます。
このグラフからは、アジア、オセアニア地域での不動産投資には注意を払う必要があるのではと思います。欧州に関しては、ドイツを中心に製造業景況感が悪く、不動産投資には積極的ではないのではと推測します。
スペインなどの観光立国では、引き続き観光客が押し寄せる状況であり、特にバルセロナでは不動産バブルの状況です。しかし、その他の国々では今年は大きく不動産価格上昇とはいかない状況の景況感かと思っています。
アメリカの景況感は波はあれど堅調
次に米国不動産市況の検証として、まずは現在の景況感と金利の動きを見ましょう。
FOMC(米連邦公開市場委員会)では、労働市場は力強く推移し、経済活動が緩やかなペースで拡大しているとし、政策金利であるフェッド・ファンド・レート(FF Rate)の誘導目標1.50~1.75%に据え置きました。
消費者物価指数は直近12月2.3%、コア2.3%(共に前年比)と、FRB(米連邦準備理事会)のインフレ目標2.0%を上回っています。声明文では、物価上昇率と食品とエネルギーを除く物価上昇率は2%を下回っていると記しています。
もう一つの指標であるPCE(Personal Consumption Expenditure)が直近11月1.5%前年比と2%を下回っていることで、このような記述になったのでしょう。
物価、雇用環境と順調に拡大を続けている米経済と言えます。そして懸念である米中通商交渉も第一段階の合意に達し、楽観論が漂っています。
しかし中国発の新型コロナウィルスの世界中への拡散懸念で、一時的リスク回避の動きになり、金利全体に利回り低下の動きがありどの程度の時期に収束に向かうのかが焦点です。
2か月で収束するのか、それとも半年程になるのか。事態の推移を見守りたいところです。パウエルFRB議長も新型コロナウィルスの感染拡大による影響を注意深く監視するとしています。
米不動産市場は楽観
ポジティブ、ネガティブな面が見受けられる米経済・金融市場。そこを踏まえて、米不動産市場を検証しましょう。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は今週発表の11月S&Pケースシラー住宅価格指数の推移を示しています。
2005年から直近までの、全国主要20都市の住宅価格を前年比ベースで示しています。2015年頃からは5%を超える水準で推移していましたが、2019年には5%を下回りました。
米中貿易摩擦が市場テーマとなっており、住宅市場を冷やしたのでしょう。現在では少し上昇に転じているようなチャートとなっています。
景況感の回復、株式市場ではダウ平均株価が30,000ドルに近い楽観的な流れにあることを考えると、住宅価格も再び上昇の方向へ向かうのではないかと思います。
その他住宅関連指標を見ても、12月中古住宅販売件数554万件、3.6%前月比、12月新築住宅販売件数69.4万件、マイナス0.4%前月比と、比較的良好に推移しています。
FRBは当面(年内)は政策金利据え置き観測が有力です。その意味では、住宅購入者には、住宅購入をするのに必要な借入金金利が上昇しないことは、心理的に購入しやすいでしょう。
1月29日現在、30年担保付借入固定金利:3.70%(-0.73%前年比)、15年担保付借入固定金利:3.21%(-0.63%前年比)となっています。低下傾向のモーゲージ金利で、購入しやすい金利環境と言えます。
米不動産の直近の状況
最近では、大都市の不動産が高騰する傾向があります。これまでサンフランシスコの太平洋側の住宅地に住んでいた友人、サンフランシスコ湾に面した地区に住んでいた友人が、こぞって内陸の州都サクラメントに移住しました。
友人が言うのには、サンフランシスコの物価が非常に高く、サクラメントではその半分の生活費で暮らすことが出来ると言っていました。
このことから、大都市の不動産がこれ以上上昇すると、一般の住宅購入者には手か届かなくなってしまうのではと懸念されています。
このようなことから、一部にはカリフォルニアの住民の間には、カリフォルニア州外に移住をする人たちが増えていると、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事を目にしました。
ネバダ州、ユタ州、アリゾナ州、オレゴン州などが候補となるのでしょう。カリフォルニア州の住宅は高値圏で需要が旺盛の状態がしばらく続きます。
そしてこの周辺の州での住宅価格上昇が今後続くと推測します。東海岸では、ニューヨーク市の不動産価格は高値圏で推移し、その周辺の中小都市との格差が広がります。
こちらでも、大都市の不動産購入希望者が、中小都市で不動産物件を探す動きが広がるのではと推測されます。
まとめ
米国経済が堅調に推移し、米株式市場が活況に推移すると、引き続き米不動産市場は堅調に推移する現状が続くのではと、筆者は推測します。
米不動産投資は、引き続き投資妙味があると考え、皆さんのポートフォリオの一部に組み込んでも良いのではと思います。クラウド商品で米国不動産ファンドへの投資を選択肢の一つに入れておきましょう。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。