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損保経営を脅かす自然災害の多発──2年続きの巨額補償で災害準備金が半減

【転載元】
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2018年、2019年に日本列島に相次いで上陸し、全国各地に甚大な被害をもたらした史上最強クラスの台風。

猛烈な暴風雨による河川の氾濫や建物の倒損壊など、広域で発生した風水害への補償で、損害保険業界全体の年間の保険金支払額は、2年連続で過去最大規模となった。

これらの被害に対して大手損害保険各社では、大規模な自然災害の保険金支払いに備える火災保険の「異常危険準備金」を取り崩して対応しているが、2年続きの巨額補償が生じたことで、その残高は半減。資金ショートに備えてリスクを分散させる「再保険」のコストも上昇しており、今後も予想される巨大な自然災害の発生が、損保経営を揺るがしかねない状況となりつつある。

大災害時にも損保経営の安定化を図る「異常危険準備金」

異常危険準備金(災害準備金)とは、未曽有(みぞう)の自然災害が発生しても保険金を公正に支払えるよう、損害保険会社が顧客からの保険料収入から一定額を積み立てる資金のこと。
異常危険準備金は、大規模な災害で保険金の支払いが一定額を超えた際に、この準備金を取り崩して利益の減少を補い、損保経営の安定化を図るためのものだ。大災害が相次いだ近年でも、損保各社の業績が落ち込んでいないのは、準備金からの補てんによる影響が大きいといえる。

事実、2019年は2018年に続いて保険金の支払額が高水準となったが、損保大手3グループ(MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス、東京海上ホールディングス)の2019年4月~9月期連結純利益は、合計で前年同期比2.7倍の増益を確保。2019年は自然災害が下期にかけて発生した影響もあるが、2018年4~9月期に比べると通期業績への影響は少なく、通期純利益は4.7%増益となる見込みという。

2018年・2019年の保険金支払額は過去最大規模に

とはいえ、大型台風や豪雨による災害が頻発した直近2年は、損保各社とも過去最大規模の補償に直面し、異常危険準備金の取り崩しも相当額にのぼった。

日本損害保険協会によると、2018年度の風水害に伴う業界全体の保険金支払額は、過去最高の1兆6000億円で、前年比8.4倍におよんだ。同年7月の西日本豪雨、9月の台風21号・24号による支払額が大きく膨らんだためで、とくに被害が大きかった台風21号の支払額は、統計史上最大となる1兆1000億円に達した。

続く2019年度も、東日本に大きな被害をもたらした台風15号・19号の支払額が膨らみ、前年度に次いで過去2番目に多い1兆円規模に達する見通しだ(グラフ参照)。現時点での大手3グループの支払額は、MS&ADが4000億円、SOMPOが3220億円、東京海上が2600億円で、計9820億円。2020年3月までの年度中に、支払額はさらに増えると見られている。

異常危険準備金の残高は、ここ2年で2分の1に激減

これらの災害補償に対応するMS&AD・SOMPO・東京海上では、大手3グループの体制が整った2011年3月期以降、異常危険準備金の残高を7000億~8000億円規模で保持し続けてきた。
しかし、ここ2年で生じた巨額の補償を受け、2019年3月期末の準備金残高は5383億円に減少。さらに2020年3月期末には、約3850億円にまで目減りする見通しという。

MS&ADの大川畑文昭専務執行役員は、2019年11月の決算発表の記者会見で「準備金の取り崩しが、繰り入れを上回る状況が続いており、利益への影響が限定的になる。今後は海外事業などの見直しで、2021年度までに年間100億円以上のコスト削減を目指す」と述べ、準備金の減少傾向に危機感を示した。

損保大手が加入する「再保険」のコスト増も懸念材料に

また、損保大手では大災害時における保険金の支払いに備えて、リスクを海外の保険会社に分散して引き受けてもらう「再保険」にも加入している。再保険とは、その名の通り「保険会社が入る保険の保険」で、万一、巨額の災害補償が生じた際、保険会社は加入した再保険会社(イギリス・ロイズ社などが世界的に有名)から再保険金を受け取り、資金ショートを回避する仕組みだ。

しかし、こちらも市場の先行きは不透明で、再保険のコスト増が今後の懸念材料となっている。
日本損害保険協会の調べでは、2019年3月期に海外の再保険会社から国内の損保会社に支払われた再保険金は、前回期の2.5倍となる1兆1740億円に膨らんだ。この再保険金支払いの急増にともない、日本向けの自然災害関連の再保険料は2019年4月に10%上昇。続く2020年4月にも「それなりに大きなインパクトで値上げされる(SOMPO浜田昌宏グループCFO)」と、さらなる値上げを懸念する声が業界に広まっている。

かつてない課題に直面し、大きな正念場を迎えた損保経営

ちなみに、保険金の支払額が年間で1兆円規模となるケースは、統計上「30年に一度」という。そんな異例の事態が2年連続で起きるとは、果たして誰が予想しただろうか。今回の災害にともなう保険金を一部肩代わりする海外の再保険会社からは、「日本での数十年分の利益が一気に吹き飛んだ」との声も上がる。

これまで損保大手は、大規模な災害に際しても準備金の取り崩しや、再保険の加入などで増益傾向を維持してきた。こうした損保経営の手法は、一般にはあまり知られていないかもしれないが、そのおかげで私たち契約者も「安心・信頼」という補償を享受することができるのだ。
しかし、巨大災害の連発で準備金の減少と再保険料の上昇が急速に進む中、今後、大きな損害をともなう災害がさらに起きた際に、従来通りの安定収益と補償が成り立つのかどうか……。

さらに、気候変動が進んで大規模な自然災害が頻発するようになれば、従来の保険ではリスクをカバーしきれなくなる恐れもある。そうした中、損保大手では人工衛星やAI(人工知能)を使って、災害そのものの予測・減災につなげる取り組みなども進めているが、いつ・どこで起こるかわからない巨大災害を相手に、なすべき対応は待ったなしの状況といってもいいだろう。
地球規模で拡大する新たなリスクにどう立ち向かい、「相互扶助」という保険本来の社会的使命を果たし続けていくか……。かつてない課題に直面した損保経営は、今まさに大きな正念場を迎えている。

※参考/日本損害保険協会HP、日本経済新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫  
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。

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