水産物取扱量は想定の5割と低迷 ── 開場から1年。苦境に立つ豊洲市場

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東京都が約5700億円かけて整備した中央卸売市場「豊洲市場(江東区)」が開場して、早くも1年余りが過ぎた。

昨年(2018年)10月の開場当初は、施設の使い勝手を懸念する声も多かったが、初めて迎えた今年の夏場は、移転前の築地にはなかった空調管理システムが威力を発揮。連日の猛暑を無事に乗り切り、今秋10月に開場1周年を記念するイベントが盛大に開催された。
ただ、光熱費や設備費などの運営コストがかさむ中、市場の水産物取扱量は都の想定を大きく下回る状況が続いており、今後の運営に向けてシビアな課題も浮上してきている。

万全の空調管理で魚の鮮度も労働環境もアップ

かつての築地市場(東京都中央区)は、外気に面した開放型の施設で、もちろん室温をコントロールする空調設備もなかった。そのため、夏場になると場内で働く人たちは30度を超える暑さの中、魚に大量の氷水をかけながら、汗だくになって作業をしていたという。

一方、豊洲市場は外気を遮断した閉鎖型の施設となっており、鮮魚を扱う水産仲卸売場棟は空調管理システムで19~25度に保たれている。そのおかげで、うだるような猛暑日でも施設内はひんやり涼しく、魚の鮮度保持に使う氷代も築地時代より4割近く減ったという。
仲卸業者の間では「豊洲に来てから、魚の鮮度がより保ちやすくなった」「汗まみれで働いていた築地と比べると、豊洲の環境は段違いに快適」と喜ぶ声も聞かれる。

築地時代と比べて運営費は2倍、都の予算は4倍に

とはいえ、500件近い業者の店舗が入る水産仲卸売場棟は、広さが約4万平方メートルに及び、場所によっては温度が25度以上になることもある。
とくに、外気が入りやすい積荷場周辺は、施設の中央付近と比べて温度が高くなりやすく、組合側から「店舗の場所によって温度差が出ている。鮮度を左右する温度に違いがあるのは不公平」との意見も出ていた。これを受けて都は今年7月、積荷場付近に約140台のエアコンを追加で設置し、夏場の温度差対策に万全を期した。

ただ、空調設備を充実させたことに伴い、業者が支払う施設使用料は築地時代より70円(1平方メートルあたり)ほど上昇。エアコンや換気などにかかる光熱費もかさみ、豊洲市場の運営費は築地の2倍以上に跳ね上がっているという。

また、都が計上する市場の維持管理費も大きく膨らんでいる。築地では年間18億円程度だったが、空調などの設備費がかさむ豊洲の今年度予算は、その4倍となる72億円を計上。減価償却費を含めると、年間の赤字は約95億円に上ると試算されている。

市場規模は拡大したものの取扱量は築地に及ばず

もちろん、築地にはなかった最新設備を導入することで、生鮮品の品質や市場ブランドがより向上し、働く人たちにとっても快適な環境が整ったことは大いに評価できる。そのための投資や維持管理に多大なコストがかかるという点は、都や市場関係者も十分承知しているだろう。

一方で、市場本来の機能を数字で見ると、そうは言ってもいられないシビアな実態が浮かび上がる。
豊洲市場の広さ(40.7ヘクタール)は、手狭だった築地市場の約1.7倍。敷地内には水産仲卸売場棟、水産卸売場棟、青果棟などの大型施設をはじめ、魚介類の調理~パックまでできる加工パッケージ棟や、他市場への転配送に対応する施設も新設されている。
ただ、これだけの広さと近代設備を誇りながらも、肝心の取扱量は築地時代より落ち込んでいるのだ。

都は昨年8月、豊洲開場後の5年間で水産物の取扱量を、築地時代の1.6倍(年間62万トン)に引き上げる計画を打ち出している。魚介の品質を保持する閉鎖型の低温管理施設を完備し、加工パッケージ施設も新設したことで、デパートやスーパーなどの需要にも応えられるとの期待があった。

しかし、市場を通さない流通の拡大などが響き、開場から10ヵ月間(2018年11月~2019年8月)の水産物取扱量は、前年同期6.2%減の28万9505トン、金額ベースで同4.1%減の3363億円と低迷。数字としては国内最大を死守しつつも、計画に対する達成率は55%にとどまり、都の想定を大きく下回る結果となった。

都の市場管理業務に民間経営手法の導入を検討

ここ近年、産直・ネット販売の普及による市場離れや消費者の魚離れなどが進行し、かつての築地市場でも、水産物取扱量がピークだった1987年の約81万トンから半減。全国各地の中央卸売市場でも、取扱量減少などの影響を受け、施設の統合・縮小・廃止に追い込まれるケースが年々増加している。

ちなみに、都は市場会計に築地市場跡地の売却代金(約5300億円)をキャッシュで確保しており、会計上は赤字が続くものの、約50年間は豊洲市場の事業継続が可能との見通しを示している。とはいえ、年間数十億円に及ぶ赤字の縮小に向け、取扱量の増大や日々のコスト削減への取り組みは急務だ。

そうした中、都は今年7月に「市場の活性化を考える会」を立ち上げ、企業経営や財務会計の専門家らと中央卸売市場の運営に関する議論を開始。同会では「民間経営手法の導入」を主軸に掲げ、公営の管理業務に民間の手法を取り入れることで、市場の継続活性化・効率化を図る方針を打ち出している。
今後、豊洲を含めた都内11市場の経営のあり方を分析・検討し、2020年度中に提言をまとめる予定だ。

苦境の中で迎えるこれからの1年が正念場に

今年10月5日、豊洲市場では開場1周年の記念イベントが開催され、約5000人の来場者でにぎわう中、小池百合子知事も会場を訪れて市場のPRに励んだ。
その席で、豊洲市場協会の伊藤裕康会長は「この1年は関係者の努力、お客さまの協力で順調に運営できたが、依然として取扱量は厳しい状況にある」と語った上で、「来年が非常に重要な年になる」と気を引き締める姿勢を見せた。

市場関係者の間では、今後、民間の経営手法がどこまで導入されるのか注目されているが、生鮮品を扱う市場の営業は、毎日が待ったなしの真剣勝負だ。日々の業務を着実に積み重ねながら、世界に誇る豊洲ブランドをいかに成長させ、新時代を担う食の中継基地として存在感を示していくか……。
苦境の中で迎えるこれからの1年、そして40年~50年後の次なる時代に向けて、豊洲市場の新たな挑戦とともに、その底力が試されようとしている。

※参考/朝日新聞、日本経済新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫  
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。

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