日本経済の先行きは悪材料が多い見通し
グローバル経済を遠めに見ると、米中貿易摩擦の動向が依然として不透明であり、メインテーマとしてどっしりと居座っているようです。
その狭間で日本経済の動向を見ると、どうしても悲観的になってしまいます。最近の経済動向、政治動向、そしてそれを踏まえた日本の金融市場、為替動向を検証してみたいと思います。
日本経済
日本経済は、ハイテク企業を中心にグローバルなサプライチェーンで繋がった経済構造に組み入れられており、米国、中国、韓国、東南アジアの経済圏にしっかりと取り込まれています。
経済格差、技術格差がそれぞれあり、安い人件費を求めて東南アジアに生産拠点を移す動きが加速していますが、中国も安い人件費だけでは価格競争には勝てず東南アジアに移す動きがあります。
日本では日韓関係が悪化しており、貿易管理の問題から、半導体の生産には不可欠な原材料について、安全保障上の問題、管理体制が不十分との理由から輸出制限をする動きになっています。この問題が解決に向かわないと、先進国に主に与えていた「ホワイト国」の認証も取り消す動きになるのではと懸念されているのです。
日韓関係の悪化は、双方の貿易量の縮小することを意味し、訪日観光客で潤っているインバウンド需要に水を差すことになります。訪日客全体の約25%に相当する韓国人観光客が今後大きく減少に転ずると、日本経済に深刻な悪影響を及ぼすことが懸念されます。
中国経済
対中貿易は、現在は10年ほど前の政治的に緊張した最悪の日中関係からは脱出しています。しかし、サプライチェーンでしっかりとつながっている日中貿易関係の現状は、米中貿易摩擦の不透明感が覆っています。
中国経済は、政府が景気刺激策として巨額な財政支出政策を行い景気を支えており、第2四半期GDP(国内総生産)6.2%前年比と予想外に検討している経済状況ではないでしょうか。6%以下に沈んでしまうと、中国経済は深刻な状況になると思われます。
中国経済が悪化すると、サプライチェーンで繋がっている日本経済も悪化するのではと懸念しています。
今後、中国の消費の落ち込み、投資の落ち込み、不動産動向など細かな所に目を配り、景気落ち込みの兆候を見つけたほうが良いでしょう。
中国の代表的株式市場である上海総合指数は現在2,900水準であり、大きく落ち込むことはなく頑張っていると言えます。
先のレポートで報告しましたが、日本での不動産投資には勢いがなく、又オセアニア諸国での不動産投資も落ち込んでおり、注意する必要があります。
訪日中国人観光客によるインバウンド需要も大きくは伸びておらず、数年前のような爆買いは今はないようです。インバウンド需要がここ2~3年は日本の消費需要を引っ張っていたので、日本人の消費が大きく伸びていない中、懸念されています。
GDP発表
前回取り上げた、老後に2,000万円は必要であるという金融庁の提言レポートも、ジワリと日本経済に暗い影を落とすのではないかと懸念されているのではないでしょうか。
若い世代から、消費を控える行動が出てくるのではと懸念します。
最近では金融機関の投資セミナーが活況であり、老後資金捻出のために消費を控え、可処分所得を預金、投資資金に回す動きが今後見られるのではないかと思います。
日本第1四半期GDP確報値が6月上旬に発表され2.2%前年比となっており、第2四半期GDP発表は8月上旬に予定されています。
インバウンド需要の落ち込み、例年より長い梅雨、そして2,000万円年金問題などが影響すると、悪い数字の発表と言う結果になるのかもしれません。
引き続き新卒者の採用は好調であり、IT技術者は高額な給与で引っ張りだこ状態、そして大企業の定期昇給は依然として好調なのはポジティブに考えたいところですが、消費者の財布の紐は固いのが現状のようです。
日経平均と米ダウ平均
株式市場は昨年後半以来同水準で一向に上昇の気配を示していません。下記グラフ(出所:Bloomberg)をご覧ください。
上のグラフが日経平均、そして下のグラフが米ダウ平均で、一年の期間で示しています。これを見ると日米の現状の経済状況を示しており、株式市場は半年先の経済状況を表しているとよく言われています。
グラフ中央の半年前の状況から日経平均とダウ平均を比較すると明確で、日経平均は21,000円前後のレンジから抜け出すことは出来ずにいます。反対に、ダウ平均は22,000ドルを最安値に現在は27,000ドル台に乗せて史上最高値を更新している状態にあります。
米国は米中貿易摩擦にも関わらず良い景況感を続けていて、FRB(米連邦準備理事会)は、今月末に利下げ、そして年末までに追加利下げも考えているのではと観測されています。
日本は政策金利がゼロ金利であり政策金利の下げようがないジレンマに陥っており、日本国債10年は現在-0.15%水準に位置します。
イールドカーブコントロールにより、ゼロ金利を中心に上下0.20%の許容範囲を日銀は設けていて、こちらも打つ手なしのジレンマに陥っています。
金利が低いことは住宅ローン金利を低くしているメリットがありますが、反対に預金者は利回り期待をすることは出来ません。そして金融機関の収益を圧迫することになります。
今後、日本経済には消費税引き上げが10月に予定されており、高いハードルが待ち構えています。消費者の紐が固い状態が続きインバウンド需要も期待できず、また近隣諸国との関係悪化も進行しそうです。
そんな悪材料が日経平均で表現されているのではないでしょうか。利下げで好景気期待の米株式市場とは対照的です。
ドル円の動き
最後に為替、つまりドル円の動きを見てみましょう。下記は昨年10月からのチャートです。
これを見ると、ドル円は110円を下回り、円高傾向が続くように思えます。シカゴ先物市場のポジションを見ると、最近では5,000枚以下の円ネット・ショート・ポジションとなっています。
半年前の12月前後の期日には100,000枚円ネット・ショートのポジションをシカゴヘッジファンド筋は構築していました。
このポジションを解消する動きと円高傾向が一致しています。
FRBの利下げ余地が大きいことから日米金利差の観点から円高傾向を示すことも予想され、輸出体質を変えられないでいる日本経済にはこちらもリスクと言えます。輸出企業の業績悪化が懸念され、それは株式市場に反映されることになります。
このように見ると、明るい経済が見通せない日本経済で、株式市場、為替市場も大きく反転することは期待薄と考えられます。ミドルリスク・ミドルリターンなクラウドファンディング商品に資金を預けることが賢明であり、当面静観するのが良いと思われる金融市場ではないでしょうか。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。