大企業も活用!? 世界のクラウドファンディング市場が急拡大中〈2〉
前回の記事「大手企業も活用!? クラウドファンディング市場が急拡大中!〈1〉」では、クラウドファンディングの仕組みと市場の様子について解説をした。
現在、クラウドファンディング市場は大きく拡大しているところだが、その認知度はまだまだこれからというところ。一般消費者がクラウドファンディングに興味を持ったとき、何に気をつけて始めればいいのだろうか。
今回はクラウドファンディングのメリットやデメリットを説明するとともに、これまでにあったクラウドファンディングの実例を紹介していく。実際にクラウドファンディングを始めるときの参考になるだろう。
クラウドファンディングのメリットとデメリット
アイデアさえ多くの人に受け入れられれば、銀行に頼らなくても大きな資金を手に入れられる。
これがクラウドファンディングの最大の魅力だ。
そのメリットから、最近は個人はもちろん、企業、あるいは地方自治体やNPO法人などの団体が、資金を集める方法として利用するケースが増えているが、インターネット上で不特定多数から資金を集めるというシステムの性格上、さまざまなメリットとデメリットがある。
ここでは起案者と支援者別に、クラウドファンディングのメリットとデメリットを紹介しよう。
●起案者のメリット
①実現が難しかったプロジェクトを実現できる
資金不足で実現が妨げられていたプロジェクトを実現させることができる。
②銀行頼みの融資を受けなくてもいい
銀行や信用金庫で煩わしい手続きを踏まなくても、まとまった資金を調達できる。
③実現前から宣伝効果が得られる
プロジェクト実施前から広く計画を告知できるので、一定の宣伝効果が得られる。
●起案者のデメリット
①管理コストが大きくなる
不特定多数の人から資金を集めるため、それを管理するための人手やコストがかかる。購入型なら見返り商品やサービスの実行・発送、融資型であれば分配金の振り込みなど。
②成功不成功にかかわらず、Web上から削除できない
プロジェクトを公開すると、目標金額の達成・未達成にかかわらず、Web上に残り続ける。いい加減なプロジェクトでスタートすると後悔するだけでなく、さまざまな問題が発生する可能性も。
③資金を得るために一定時間がかかる
サイト上に計画を公開し、資金の募集から達成までに最低でも4〜5カ月はかかる。場合によっては、金融機関で借りるよりも時間がかかることを覚悟する必要がある。
●支援者のメリット
①大きな見返りが期待できる
ソーシャルレンディングの場合、年率5〜9%もの高利率のリターンが期待できるものもある。
②少額から投資できる
ソーシャルレンディングでは、1万円ほどの少額から投資できるため、個人でも気軽に始められる。
③社会的に意義のあるものが多い
寄付型は社会で困っている人を助ける一翼を担うことができるし、購入型なら夢を追い求める人の手助けができる喜びがある。
●支援者のデメリット
①お金が返ってこない
資金を集めて、その後音沙汰をなくすような詐欺的起案者も海外では発生しているようだ。その点に注意が必要。
②キャンセルができない
購入型などでは、いったん支援すると基本的にキャンセルできない。資金援助するときは十分に内容を吟味することが大切だ。
③プロジェクトは失敗もある
起案者のプロジェクトを支援したものの、失敗し、お金が戻ってこない場合もある。この点を理解しておくことが大切。
大企業もクラウドファンディング活用に積極的
以前は、個人の夢を実現するために利用されることが多かったクラウドファンディングだが、近年は大企業などでも活用するケースが増えている。
繊維メーカーの東洋紡は、犬用の衣料ブランド「HUGLABO」の立ち上げのために、クラウドファンディングを利用した。これは、一人の社員の「犬用の衣服は見た目重視のものばかりで不満。保湿や防水加工など、機能的にも人並みの仕様にできないか」という発想から始まった。
しかし、採算の悪い事業を再編し、収益を安定させてきた会社はえてして新規事業には消極的だ。そこでクラウドファンディングを利用することになる。結果、数カ月で総額100万円という目標金額の3倍もの資金が集まることになる。これで会社も発売を決断し、大きな成果を収めた。
大企業であっても新規事業に参入するときは大きなリスクを伴うが、クラウドファンディングなら、売れるかどうかわからない商品であったとしても、出資状況で世間の反応を知ることができる(今後開けるか否かの手がかりはつかめる)。そのうえで、リスクを最小限に止めることができるというわけだ。
公的機関にも目立つ、クラウドファンディングの成功例
実は意外なところで、税金で支援されているはずの国公立病院も、クラウドファンディングで資金を集めるケースが増えている。一例をご紹介しよう。
東京の国立成育医療研究センターに、2018年8月、白血病の子どもの治療に使う無菌室が2室増設された。「国立」のため、国から手厚い支援があるように思われているが、実際のところ病院経営は主に診療収入で賄われており、慢性的な資金不足に悩まされている。そこで当該病院はクラウドファンディングを活用。4日間で1500万円、最終的に約2カ月で約1900人から3100万円ほどが集まった。
また、長野県立こども病院も、クラウドファンディングで「ドクターカー」を購入。既存のドクターカーの走行距離が40万キロに達し、老朽化していたからだ。ドクターカーには医療に関する設備や機器が必要なため、新規調達となれば、かなりの費用が必要となる。結果、約2カ月で目標を大きく上まわる2500万円超が集まった。
こうした国公立病院などは、国や自治体の財政難に加え、採算が取りにくい分野にも取り組まざるをえない役割がある。そうした事情に対してクラウドファンディングはきっちりとフィットし、成功を収めているケースが目立つ。
今後のクラウドファンディングはどうなる?
クラウドファンディングは国内にとどまらず、世界的にさまざまな大きなウェーブを起こしている。その勢いは、今後ますます大きくなっていくことは間違いないところだ。
何より、最近の傾向として、企業や自治体が積極的にクラウドファンディグを活用すれば、経済全体にも大きな影響を与えることが明確化してきている。
── 今後は、すでに町おこし、地域おこしに活用されているクラウドファンディングという手法が、世界規模で活用されるようになるかもしれない。そうなれば世界経済は、今とは比べ物にならないほどダイナミックに変化していくことになるだろう。
そのカギをクラウドファンディングが握っているようにも見える。クラウドファンディングが、今後の世界経済の発展にどのように寄与していくのか、大いに注目されるところだ。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車。