大手企業も活用!? クラウドファンディング市場が急拡大中!〈1〉
最近「クラウドファンディング」という言葉を当たり前のように耳にするようになった。
これは、インターネットを通じて資金を調達し、その資金をもとにさまざまな事業を始められるようになるサービスを指す。
すでに世界中で利用者が急拡大中だが、総務省によると、「クラウドファンディング」のサービス内容の認知度は中国(92.7%)、韓国(76.4%)、英国(73.8%)、米国(73.7%)、ドイツ(67.6%)、日本(49.8%)の順に。他の5か国と比べて日本の認知状況がかなり低いことが判明しているが、最も低い日本でも、約5割の人が「クラウドファンディング」を認知していることになる。
また、これまでの「クラウドファンディング」利用者の中心は、資金力のない個人だったが、近年は名前が知られる“あの大企業”も、「クラウドファンディング」のシステムを利用し始めているという。
全体の市場規模として2000億円にも達しようかというほどの勢いを見せる「クラウドファンディング」。いまなぜ、これほどまでに注目が集まっているのだろうか。その現状と具体的な事例、今後の課題などについて、2回にわたってお送りしよう。
クラウドファンディングって、一体なんだ?
そもそも、クラウドファンディングとは何だろうか。
冒頭で紹介した通り、日本では約5割の人しか「クラウドファンディング」について認知していないため、最初におさらいしておこう。
クラウドファンディングとは、「Crowd(群衆・大勢・大衆) + funding(資金・基金)」のこと。
つまり、ある人が何かしらの事業をするとき、不特定多数のネット上の人から資金を募ることを指す。
「これまでにない新しいものを作りたい」
「こんな新しいサービスを提供したい」
「社会の役に立つこんな活動を実現したい」
といった具合に、個人、あるいは企業、NPO法人などの団体が、斬新なアイデアやプロジェクトを提起して「起案者」となる。それを実現するための自己資金が不足する場合、専用のポータルサイトを通じて世界中に呼びかけ、そのアイデアやプロジェクトに共感した「支援者」が資金を提供するという仕組みだ。
専用インターネットサイトは花ざかりともいうべきたくさんの事業者があるが、いすれも一定の手数料が必要となる。
銀行で融資を受ける……は、すでに過去のこと?
会社を経営する人が設備投資をしたいと思ったとき、さらに、新規の事業を立ち上げたいと思ったとき、ほとんどの場合が手元の自己資金が不足していることが多い。そうしたとき、かつては銀行や信用金庫などで借りるケースがほとんどだった。
しかし、厳しい審査を通るためには、銀行の窓口で担当者に頭を下げ、担保の保証はもちろん、様々な書類を用意しなければならない。
ときには、銀行全体の融資残高調整や、金融機関が自己の経営安定を最優先するために、貸し渋りに見舞われたり、審査が通って晴れて資金を融資されたとしても、既存の融資を期限前に返済してもらう貸し剥がしに見舞われたりもする。
こうした冷酷無慈悲な対応が社会問題化し、多くの著作物やドラマで、その現状が取り上げられてきた。
ところが、クラウドファンディングを利用すれば、銀行に頼ることなく資金を集めることができる。ネット上で多くの人を惹きつけるプレゼン力や、事業そのものに魅力があれば、担保や保証人など、銀行への面倒な手続きが不要になる。
支援者には、そのプロジェクトが実現した際に何らかの見返りが贈られるケースが多い。出来上がった商品を安く買えるとか、新しいサービスを優先的に利用できるなど、見返り条件はさまざま。支援者は起案者から提起された内容に加え、どのような見返りが得られるのかも支援を決める条件の一つになる。
実は、古くから存在していたクラウドファウンディング
クラウドファンディングが一般化してきたのは、2011年に発生した東日本大震災がきっかけだと言われている。例えば、津波の被害に見舞われた被災者が行方不明になっている家族を捜すための捜査費用を、クラウドファンディングで募ったことも、その一例だ。こうしたケースはほかにもたくさんあるが、インターネットを通して、震災や津波の被害を受けた被災者の窮状を助けるための資金や、被災地の復興事業の資金調達が盛んに行われた。
こうしたことによって、われわれがクラウドファンディングを知るようになって10年にも満たないわけだが、インターネット決済がどんどん浸透するとともに、クラウドファンディングの専門サイトも数多く生まれている。
しかし、多くの人に資金を提供してもらい、それによって大事業を成し遂げようという考え方は、いまに始まったことではない。例えば、戦乱や天災によって焼け落ちてしまった寺院を修復・再建するため、全国の信者や庶民から寄付を集めるといったことなどは、中世以前から数多くあり、完成の折には、寄付した人たちの名前を寺の柱や屋根瓦に記すなど、それなりの見返りもあった。これは、システムとしてクラウドファンディングと同じだ。
時代を超え、いま「勧進」と同じことがインターネットによって、個人でも気軽に始めることができるようになっているというわけだ。
5つのタイプに分けられる、クラウドファンディング
クラウドファンディングを活用して実現しようとする事業、すなわちアイデアは実に多岐にわたっている。
新技術を活用した新商品の開発、映画や芝居制作、書籍の出版、ゲームやアプリの開発、障がい者や子どものための施設の開設、伝統芸能や工芸技術を受け継ぐため、町おこしイベントの開催、古い建築物などの改修、先進医療の研究、歴史発掘のための研究、ベンチャー企業の起業・運営、貧困層への自立支援などなど、枚挙にいとまがない。
起案者のアイデアは多岐にわたるが、クラウドファンディングのタイプとしては、以下の5つのタイプに分類される。
① 購入型
支援すると、金銭以外のモノやサービスなどの見返りがもらえるタイプ。
カフェの開業や新商品の開発などで、飲食券や完成品をプレゼントするなど。
② 寄付型
支援しても見返りはないタイプ。寄付による税制優遇は受けられる。
障がい者支援や貧困者支援など、社会的に意義のある活動への社会奉仕的意味合いが強い。
③ 貸付型
支援すると元本に加えて利子が得られるタイプ。融資型、ソーシャルレンディングなどとも呼ばれ、分配金の利率が決まっているシステム。
少額から投資でき、利回りもいい資産運用ができるなどのメリットがある。
④ 株式型
支援すると株式を持つことができるタイプ。
未上場企業の株式に投資することができ、ベンチャー企業の立ち上げから支援できるなどのメリットがある。
⑤ ファンド型(事業投資型)
支援すると金銭的な見返りが得られるタイプ。特定の事業に対して支援者(個人投資家)が出資し、売上の成果や出資額に応じて金銭的見返りを受け取る。
成果によって分配金が変動するため、貸付型より大きな利益も期待できる。
①②に比べて③④⑤のほうが、投資や資産運用的な色合いが強い。クラウドファンディングを利用する場合には、どのようなタイプなのかをしっかりと見極めることが肝要だ。
拡大する世界のクラウドファンディング市場
活況を呈すクラウドファンディングだが、矢野経済研究所の調査では、2017年度(2017年4月~2018年3月)の国内クラウドファンディング市場規模は、新規プロジェクトの支援額ベースで、約1700億円(前年度比127.5%増)と推計されている。
これをタイプ別にみると、
①購入型……約100億円(構成比5.9%)
②寄付型……約7億円(同0.4%)
③貸付型(ソーシャルレンディング)……約1534億円(同90.2%)
④株式型……約9億円(同0.5%)
⑤ファンド型……約50億円(同3.0%)
となっている。
クラウドファンディング市場が拡大している背景としては、「貸付型」が拡大していることが大きな要因だ。また、2015年に金融商品取引法が改正されたことも影響を及ぼしている。これにより2017年から「株式型」のサービス提供も始まったからだ。
さらに、地方自治体をはじめ、メディア、運輸、製造、物販などの大手企業の新規参入も目立つようになっている。企業が事業を進める際の資金調達の方法として定着しつつあることも、市場の拡大に貢献しているのだ。今後もますます市場は拡大していくと見込まれている。
購入型は地域活性や、ものづくりで活況
購入型は、全体の構成比は5.9%で市場規模は小さいものの、堅調に推移している。
2017年度、新規プロジェクトの支援者数が前年度比で倍増。
年度内でのべ137万人、1万5321プロジェクトに達した。
このうち購入型は支援者数全体の58%(79万人)を占め、全体の支援者数を押し上げている形だ。
購入型は、地方活性化・創生プロジェクトやものづくりなどの「プロダクト系」が増加。個人が資金を集める1プロジェクト10万円未満の小規模のものから、1プロジェクトで1億円以上必要な大規模プロジェクトなど、幅広く成立するようになっている。個人から大企業まで、幅広い人が参加しやすくなっているようだ。
正確な数値はまだ世の中に出まわっていないが、2018年度はどのタイプのクラウドファンディングも支援額が増加すると見込まれている。新規プロジェクト支援額は2000億円を超える額に成長しそうだ。
── インターネット時代の新しい投資モデルとして、ますます注目を集めるクラウドファンディング。
次回はクラウドファンディングのメリット・デメリットや具体的な取り組みなどについて説明しよう。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車。