「相乗り型タクシー」全国で解禁へ──政府が進める交通サービス改革の今後は?
政府は今年(2019年)3月7日の未来投資会議で、見知らぬ人同士がタクシーに乗る「相乗り営業」を、全国一律に解禁する方針を打ち出した。
会議の議長を務める安倍首相は「利用者が低廉な料金で移動することを可能とする」と述べ、相乗り型タクシーの普及に向けた具体的な検討を指示。国土交通省が導入ルールの整備に向けて詳細を詰め、今年度中の実現を目指す方向だ。
今回、政府が普及を目指す「相乗り型タクシー」とは、どのような仕組みのサービスなのか。導入する目的やメリット・デメリットとともに、今後の交通サービス改革に向けた課題について考察する。
スマホのアプリで乗客をマッチング、料金は割り勘で清算
今回、政府が相乗り営業を解禁するのは、既存のタクシー事業者が運行する車両が対象。ウーバー・テクノロジーズ(米)が海外で展開するような「自家用車に有料で人を乗せるライドシェア(一般ドライバーの白タクなど)」は対象外となる。
導入される相乗り型タクシーは事前予約制で、タクシー会社のスマートフォンのアプリに利用希望者が乗車地・目的地・利用時間を入力すると、同じ方面に行きたい人と組み合わせて配車する仕組みだ。運賃は乗車距離に応じた配分で決まり、キャッシュレスで決済する方法を想定。相乗りした複数の人で運賃を割り勘するので、1人で乗車するよりも各人が支払う料金は安くなる。
相乗りと併せて「乗車前に運賃を確定」するサービスも解禁に
複数の人が乗った距離に応じて運賃を割り勘するには、事前に運賃を計算する仕組みが必要となるが、現行の道路運送法では、タクシー運賃を事前に提示することは認められていない。そのため、国土交通省は道路運送法上のルールを改正し、乗車前に運賃を確定するサービスも併せて解禁。運賃の新ルールは相乗り解禁に先立って施行され(今年4月中の予定)、タクシー会社のシステム導入にともなって、順次サービスが始まる見通しだ。
事前に確定する運賃は、乗車する日時や交通状況の違いで不公平が生じないよう、距離に応じて計算された料金に一定の係数をかけて算出。係数は曜日や時間ごとの交通事情などを反映して国が事前に決定し、同じ目的地に同じルートで行くなら、曜日や時間帯、渋滞の有無にかかわらず運賃も同額になる。乗車前に支払う運賃がわかれば、割り勘で相乗りする場合はもちろん、一人で「流し」のタクシーを利用する際にも安心感があり、メーターを気にしてヤキモキする必要もなくなりそうだ。
タクシーの需要増や、東京五輪・地方での有効活用を狙う
とはいえ、電車やバスと比べるとタクシーは「ちょっと贅沢・高い」というイメージが強く、節約のために利用を控えている人も多いだろう。とくにデフレ志向が強まる近年は、消費者のタクシー離れが進み、2017年度のタクシー輸送人員は13億7000万人と、バブル絶頂期(1989年度/33億50万人)の半数以下にまで減少。その一方で、マイカーを運転できない高齢者や、土地に不慣れな訪日客が増える中、安心して利用できる移動手段のニーズは年々高まっている。
こうした事情を受け、政府は今回の解禁によってタクシー利用者の裾野を広げ、東京五輪でのタクシー不足解消にもつなげたいとしている。また、人口減でバス路線の縮小が進む過疎地や、タクシーのドライバー不足が進む地方などで、限られたタクシーを住民の移動手段として有効に活用する狙いもある。
利用者を獲得したいタクシー会社としても、アプリの開発・導入などにコストはかかるが、相乗りによる実車効果のアップ・収益増が見込めることから、解禁を歓迎するムードが広がっているようだ。
利用希望者が増えなければサービス自体が成立しない可能性も
では、相乗り解禁によって実際にタクシーの利用者は増えるのだろうか?
国土交通省は今年1~3月、東京都内で大和自動車交通グループと日本交通グループのタクシー約950台で、専用アプリを使った相乗りサービスの実証実験を実施。実験には募集した一般消費者が約5000人が参加し、利用者のうち200人が回答したアンケートでは、7割の人から「また利用したい」との意見が寄せられたという。
しかし、実験に申し込んだ約5000人のうち、実際にサービスを利用した人は1割以下にとどまり、利用率の低さが課題となった。利用者が少なかった理由について国土交通省では、「母数が少なく、十分にマッチングしなかった」と分析。これは「母数=利用希望者」が増えなければマッチングの確率が上がらず、サービス自体が成立しないということを示している。同様に、利用したい人が少ない深夜や、人が集まらない場所でもマッチングしにくくなる可能性が高く、利用できるかどうかは「運」にもよるため、確実性という点では少々頼りない。
また、相乗りについては「他人に自宅の場所を知られたくない」「異性や酔っぱらいとの相乗りは避けたい」といった懸念の声もあり、どの程度まで利用者が増えるのかは未知数だ。そうした点も踏まえ、誰でも安心して利用できる仕組みをどう作り、身近な足として市民権を得ていくかが、普及に向けた大きなカギとなるだろう。
過疎地での「自家用有償旅客運送」の規制緩和も検討
さらに、もともと人口が少ない地域では、マッチングの確率が低くなるうえ、ドライバー不足でタクシー自体が少ないといった問題もある。政府はそうした点も踏まえ、交通機能の維持に課題を抱える地方に限定して、一般ドライバーが自家用車で住民を運ぶ「自家用有償旅客運送」の規制緩和も検討している。
現在、自家用有償旅客運送は一部の地方で認められているが、市町村やNPOが運営することが条件で、地域以外の人の乗車には市町村長の承認も必要となる。こうした煩雑な仕組みや手続きを簡易化して、過疎地などでの移動サービスの利便性を高める狙いだ。本件については今年度から詳細な緩和策を検討し、早ければ2020年中に法令を改正するという。
時代のニーズや世界の潮流に合わせた大胆な規制改革も必要
ただ、先述したように、海外で普及しているウーバー・テクノロジーズなどのライドシェアサービスを全国的に認める動きはなく、いまだに政府は解禁に慎重な姿勢を示している。世界で拡大するサービスに道を閉ざしたままでは、人の移動をめぐる新技術の開発や、インバウンドの対応などで後れをとりかねない。ここ最近、中国人観光客相手の違法な「白タク」が各地で横行しているのも(もちろん、許されることではないが)、訪日客の対応面で日本のタクシーにまだまだ改善の余地があることを示唆しているのではないだろうか。
今後、時代のニーズに即した交通サービスの革新を進めるためには、世界的な潮流に合わせた大胆な規制改革も検討していく必要があるだろう。
政府が普及を目指す相乗り型タクシーについても、導入時に「◎◎Pay」のような一大キャンペーンを打ち出せば、利用してみようという人は増えるに違いない。この際、国を挙げた大々的な解禁告知として、それぐらいの派手なアクションを起こしてもイイのではないか。安倍首相にも、ぜひ検討をお願いしたい(笑)。
※参考資料/日本経済新聞、朝日新聞
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。