世界中をとりこにする「こんまり」ブーム、いったいなぜ?
『人生がときめく片づけの魔法』がベストセラーとなり、近藤麻理恵(通称・こんまり)の名が世間に知れ渡ったのが2011年。
あれから8年ほどたったが、こんまりはいまやKonMariとして米国に進出し、そのメソッドが世界中で大ブームになっている。驚きべきは、2015年には、米国TIME誌が選ぶ「世界でもっとも影響力のある100人」のうちの1人に選ばれたことだ。
こんまりのなにが世界をとりこにさせるのか、そのわけを探ってみよう。
Netflixの新番組が世界中で大反響
今年1月から始まった米国Netflixのオリジナル番組『KonMari~人生がときめく片づけの魔法』が世界中で注目を浴び、大ヒットとなっている。
片づけコンサルタントの近藤麻理恵(通称・こんまり)の著書はすでに各国で翻訳され、自身も米国に拠点を移して活動中。累計発行部数は1000万部を超え、2015年には、米国TIME誌が選ぶ「世界でもっとも影響力のある100人」のうちの1人に選ばれている。
そのこんまりが、いよいよ米国テレビ番組のレギュラー出演というわけで注目された。
その番組とは、家の中が散らかり片づけに悩む夫婦、子育て中の主婦、あるいは同性カップル、夫と死別した女性などさまざまなタイプの家庭を、こんまりが訪ねて、どうすれば部屋をきれいに片づけられるのかを伝授するもの。
その方法が独特で、従来のおそうじ方法の伝授や、お決まりの作業効率マニュアルの手ほどきなどとはまったく異なっていることから、番組は大きな反響があり、問い合わせが殺到したという。
さらに、CNNやウォルストリートジャーナルなどメディアも取り上げ、社会現象にまで。ワシントンポストによれば、地域のリサイクルショップへの不用品の持ち込みが急激に伸びていたり、また、古書店でも放送後には寄付の申し出が一気に増えたという。放送前まで70万ほどだったこんまりのインスタグラムのフォロワー数は一気に220万にまで伸び「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれることになったようだ。
米国人に新鮮に映った「ものへの感謝」の気持ち
では、こんなに反響を呼ぶこんまり流の片づけのメソッドとは、いったいどんなものか。
番組の冒頭で、まず彼女は正座して「家にごあいさつ」。フローリングの床に正座して頭を下げるのは、靴で生活する米国人にとっては、すでにそこから奇異で新鮮なパフォーマンス。瞳を閉じて祈るような姿に相談者も視聴者も引きこまれていく。
洋服を片づける場面になると、まず相談者の所有しているすべての洋服を1カ所に集める。そして、ひとつずつ手に取り、この洋服が自分にとって「ときめく(spark joy)」ものかどうかを自身に問いかける。その判断によって、手元に残すか、あるいは処分するかを仕分けするのだ。捨てると決めた洋服に対しては「今日までありがとう」と感謝の言葉をささげて処分する。
これらは、日本で発売されたベストセラー「『人生がときめく片づけの魔法』に順じたものだが、テレビで初めて観た米国人にとって、モノに感謝という発想は、日本人が感じるよりもさらに不思議で新鮮に映ったようだ。
順序立てて片づければ、不用物はどんどん排除できる
初めのうちは戸惑ってなかなか仕分けが進まない相談者も、こんまりの指導を理解するにつれてしだいに手際がよくなり、やがて膨大な処分すべき洋服の山ができてくる。
いつも着ている愛着のある服、大事なときに着る服、大切な人にあうときの服、なつかしい思い出の服、そうしたものだけが残されていく。
しかし、それらは思ったほど多くはなく、大方はクローゼットに長い間つるしたままだったものが多く、感謝の言葉とともに処分されることになる。
洋服から始まって、本、書類、小物などに進み、一番最後が写真や手紙などの思い出の品だ。洋服が最初で思い出の品が最後なのはちゃんと理由がある。洋服はときめくかどうかの仕分けがもっとも容易で、ビギナー向け。
思い出の品はもっとも時間がかかり、熟練が必要。思い出の品から仕分け作業を始めると、時間がかかりすぎて挫折する可能性があるので、必ず洋服から始めることをこんまりは指導している。
こうして家の中の不用なものはどんどん排除され、きれいに片づいていく。アメリカ人にとって日本人はきちんとした国民、ルールを重んじる国民であることからも、日本人であるKonMariから、そうしたイメージが喚起されるとともに、番組を観た視聴者からは驚きの声が上がっている。
片づけとは、つまり「自分の人生を見つめ直すこと」
それにしても、なぜこれほどまでにヒットし、世界的ブームになったのか。
2011年にベストセラーとなった当時、筆者も最初はあまり興味はなかった。家庭の主婦向けの上手なお掃除の仕方マニュアル本ぐらいにしか思っていなかったのだが、それが20万、30万、やがて50万部となるとさすがに無視することもできず、手に取って読んでみたのだが、そこで本当におどろいた。カルチャーショックを受けたといってもいい。
上に記したこんまりの片づけのときの所作、たとえば一点一点を手に取るとか、処分すると決まったものに「ありがとう」と感謝するとかは、一見形式的なセレモニーのようにも見えるが、決してそうではない。
洋服でも、本でも、「ときめく」かどうかで手元に残しておくか、処分するかを決めることは、そのタイミングで自分の過去、現在、未来を思い描くことになる。この洋服を購入したときどんな気持ちだったか、どんな人と会うときに着ていたか、そしてこれからどんな場面でこの服を着ることになるのか、それらを思い描くことになる。
楽しいときめきが思い描かれるようであれば、その洋服は手元に置いておくことなる。つまり、ものの片づけのプロセスで、自分の人生や生き方をあらためて見つめ直すことになるのだ。そのことをこんまりは伝えたくて、『人生がときめく片づけの魔法』というタイトルをつけているのだと思う。
単なる掃除ではない、スピリチュアリティな片づけ
この本は単なる掃除の本ではない。掃除は、汚れた部屋をきれいにするという作業であって、片づけとは違う。そして、いったん手元に残すと決めたものは、その後大切に扱うようになる。結局、ものを大切にするという変化を導くことにもつながる。
こうした自己啓発的要素は、米国人にとっては東洋的なスピリチュアリティとも映ったようだ。
家にあいさつし、ものに感謝の言葉をかける。これらの作業は、たしかに霊的儀式のようにも映る。しかしこんまりの思想は、単に西洋的とか東洋的などのステレオタイプなイメージづけとは一線を画し、それらを超えた普遍的な人間を理解する姿勢につながっている。それが、世界中にファンをつくる理由となっているのだ。
── 新年度が始まったこの時期。引っ越しの際に“こんまり流”の片づけを実践することで、ぜひとも人生をときめかせたいものだ。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、退職後。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。