いま世界中の観光地が直面する「オーバーツーリズム」の危機《Part.2》

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世界的な「旅ブーム」が拡大する近年、インバウンドが急増する国内外の観光地では、増えすぎた観光客によってさまざまな弊害が生じる「オーバーツーリズム」問題が深刻化している。

前回の「いま世界中の観光地が直面するオーバーツーリズムの危機《Part.1》」では、オーバーツーリズムの危機的状況に瀕する海外の人気観光地の事例を取り上げたが、もはやこれは対岸の火事ではない。
今回の《Part2.》では、日本の観光地にも広がりつつあるオーバーツーリズム問題の事例とともに、持続可能な観光産業のあり方について考察する。

インバウンド需要の急増に沸き立つ日本

ここ最近、メディアでも報じられているように、日本を訪れる外国人観光客は年々増加しており、2018年には過去最高となる3119万人を記録。東日本大震災で一時落ち込んだ2011年以降、この7年で約5倍にまで拡大した。また、インバウンドによる旅行消費額も過去最高の4兆5064億円に達し、この7年で約5.5倍と大きな伸びを見せている(グラフ参照)。

このままのペースで訪日客が増えれば、政府が目標に掲げる「2020年に4000万人」を達成し、インバウンド消費額も年間6兆円にまで拡大すると期待されている。

訪日客の増加に対応を迫られる国内の人気観光地

しかし、年々拡大するインバウンド消費が地域経済をうるおす一方で、訪日客の増加によるゴミ問題や地元住民とのトラブル、地域交通への支障・事故など、さまざまなオーバーツーリズム問題が浮上。こうした事態を受けて、地元の商店街や企業、自治体や警察が対策に乗り出した地域もある。

【京都府・錦市場】
京都の台所として知られる錦市場では、訪日客が急増した2~3年前から、店で買った食べ物を歩きながら食べる「歩き食べ(歩き食い)」によるゴミの散乱や、持った食べ物で店の商品が汚されるなどのトラブルが多発。京都錦市場商店街振興組合は2018年秋から、英・中・韓・日の4ヵ国語で歩き食べを自粛要請する立て看板を設置し、各店にもゴミ箱の増設や飲食スペースの開設を呼びかけている。
この問題は、全国各地の商店街や中華街などでも深刻化しており、街側ではその対策に頭を悩ませているようだ。

【神奈川県鎌倉市】
由緒ある神社仏閣が点在する鎌倉市には、市民約17万人に対して、その125倍近い年間約2129万人の観光客が訪れる。とくに観光客が増える休日には、鎌倉駅や近隣駅の構内に人があふれ、地元住民も電車になかなか乗れないという事態がたびたび発生していた。
そこで地元の江ノ島電鉄では、2018年のゴールデンウィーク中に鎌倉駅西改札で入場規制を行い、事前に通行証を配布した地元住民は、優先的に改札を通れるという社会実験を実施。当日、改札に並ぶ観光客に市がアンケート調査を行ったところ、約8割が住民優先に理解を示しており、市は「今後も効果を検証しながら、事業者と協議を続けたい」としている。

【北海道】
人気観光スポットが点在する北海道も、訪日客の急増に対応を迫られている。道内での外国人向けレンタカーの貸し出し件数は2017年に8万台強となり、この5年で約5倍に増加。土地に不慣れな外国人ドライバーの交通事故が多発し、外国人のレンタカー運転中の死亡事故は、日本人利用者の4倍にものぼるという。北海道警察は「STOP」と併記した一時停止の標識を、空港や観光スポットの周辺で約400本設置するなど、自治体と協力して事故防止への対策を急いでいる。

大自然の中を走る北海道の直線道路

日本を代表する観光地・京都が直面する深刻な事態

国内外から年間5000万人以上の観光客が訪れる京都でも、オーバーツーリズムによるさまざまな問題が顕在化してきている。とくに深刻なのが「バス問題」だ。

京都市内のあちこちで、もうすっかりおなじみの光景となってしまった「バス停前の長い行列」。平日でも1~2台待たないと乗車できず、桜や紅葉のハイシーズンには、街の渋滞も重なってバスが動かなくなる事態もたびたび発生。地元住民からは「バスに乗れない」との苦情が相次いでいるという。
市が実施した観光満足度調査(2017年)の残念度部門でも、日本人では「人が多い、バスの混雑」がトップ。外国人の回答でも「バスが満員で乗れなかった」という残念度が2位となり、その割合も前年の9.5%から14.2%と急増している。

こうした事態を受けて、京都市の門川大作市長は「分散」をキーワードにした取り組みを推進し、オーバーツーリズムに対応するモデルケースとして注目されている。その狙いは、観光客の量を制限するのではなく、その量を散らばらせること。
具体的には「時間」「場所」「季節」の3つの集中を分散させ、「混んでいる時間や時期に、混んでいる場所に行く」という観光客の動線を変えることで、混雑・渋滞などの問題を解消していきたいとしている。

多くの観光客が行き交う京都の街

京都市が取り組む「時間・場所・季節」の分散対策

では、この「3つの分散」を図るために、京都市が2018年から実施している主な対策事例を紹介しよう。

【時間の分散】
京都を代表する世界遺産・二条城では、2018年夏季の開門時間を例年より1時間早い8時に繰り上げるとともに、通常は非公開の「香雲亭」で予約制の特別朝食を提供。昼間の来城者を朝にシフトさせ、観光客の分散を図った。朝に訪れた観光客からは、「早い時間は人が少なくて、ゆっくり見学できた」「由緒ある場所で朝食も食べられて満足」との声が多く聞かれたという。

【場所の分散】
市内南部の伏見区は、観光客に人気の伏見稲荷大社が混雑スポットだ。ただ、それ以外の場所は比較的すいており、逆に観光客をどう呼び込むかが課題だったという。そこで、地元の商店街や観光組合では、まだ知名度の低い「酒どころ伏見」をアピールするツアーを企画。酒蔵の見学と利き酒がセットになっており、ひと味違う京都体験ができるツアーとして訪日客にも人気という。

【季節の分散】
京都は桜の春、紅葉の秋が混雑のピーク。このピーク以外の季節に、観光客を呼び込もうというアイデアが「青もみじ」だ。市では「初夏の爽やかな青もみじ」を積極的にアピールし、市内の寺社とも連携してSNSでの写真拡散につながる取り組みを推進。いまや「京都・青もみじ」と検索すれば、インスタ映えする青いもみじの風景がずらりと並び、認知度も徐々に上がってきているという。

京都「瑠璃光院」の青もみじ

観光を持続可能な産業に「成熟」させるために……

こうした国内観光地の取り組みとともに国も動き始めている。観光庁は2018年6月に「持続可能な観光推進本部」を新設。「訪日客のニーズと地域住民の生活環境の調和」「観光と地域の共存・共生」「総合的な対応策の検討・推進」を目的として、オーバーツーリズム問題への取り組みを進めていく方針だ。

また、国連世界観光機関も2018年9月にオーバーツーリズム問題への提言書を発表。京都と同じく「時間・場所の分散化」や「混雑時のう回路など、インフラを整える街づくりの改善」といった具体的な対策を挙げ、問題解決への指針として提示している。

観光は国や地域の発展に欠かせない重要な要素であり、日本にとっても主軸産業としての重要度がますます高まりつつある。そうした中、歓迎すべきインバウンドを観光公害の因子にしないためには、これまでのような産業の「拡大」ではなく「成熟」がキーワードとなってくるのではないだろうか。
訪れる人と迎える人がWIN-WINの関係をいかに築き、観光を持続可能な産業に成熟させていくか……。その取り組みはまだ始まったばかりだが、少しずつ動き始めていることは確かだ。そして、その土地を訪れる観光客も、地元の人たちの生活や文化を尊重し、貴重な文化財や環境を守ろうという姿勢をもつことが、これまで以上に重要となってくるだろう。

※参考資料・サイト/NHK NEWS WEB、日本経済新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。

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