山手線 新駅名は「高輪ゲートウェイ」! 地域活性化の起爆剤となるか
JR山手線の新駅の名前が「高輪ゲートウェイ」に決まった。
カタカナ単語が入った珍しい名前に決まったことで、世間は何かとザワついているようだが、この新駅が開業すると周辺地域、そして首都・東京にどのような影響が出てくるのだろうか。
新駅名決定のプロセスやその評判、建設中の駅の規模、そして周辺地域への経済波及効果などをまとめてみた。
応募数に関係なく「高輪ゲートウェイ」に決定
「高輪ゲートウェイ」駅は、田町駅と品川駅の間に2020年春に暫定開業を予定(本開業は2024年予定)。現在、急ピッチで工事が進められている。
山手線に新駅ができるのは1971年の西日暮里以来で、同線では30番目の駅となる。
2014年に建設計画が発表され、2018年6月から駅名の公募を始められた。わずか1カ月ほどの募集期間だったが、6万件を超える応募があったという。
この6万件の応募の中には1万3228種類の駅名があったといい、応募数の多かった駅名トップ10とそれぞれの応募数は以下の通り。
●1位……高輪……8398
●2位……芝浦……4265
●3位……芝浜……3497
●4位……新品川……2422
●(同数)……泉岳寺……2422
●6位……新高輪……1275
●7位 ……港南……1224
●8位……高輪泉岳寺 1009
●9位……JR泉岳寺……749
●10位……品田……635
これだけを見れば、ダントツ多数の「高輪」ですんなり決まりそうな話だ。しかしJR東日本は、公募の当初から「応募数では決めず、集まったすべての駅名を参考にする」としていた。結局、新駅名はJR東日本の社長や役員らで組織された選定委員会で決定したという。
それが「高輪ゲートウェイ」。応募数ランキングでは、わずか36件の応募数で130位だった。
それなら上記のようなランキングなど発表しなければよかったのに……とも思わなくもない。
「高輪ゲートウェイ」の駅名不評で、署名運動までに発展
なぜ「高輪ゲートウェイ」になったのか。
JR東日本の説明によると、新駅の近く(国道15号 泉岳寺交差点北東側に位置)に、交通遺跡「高輪大木戸」があることがひとつの理由とのこと。「大木戸(江戸全体を守る木戸)」=「ゲートウェイ」だ。江戸時代、東海道がスタートする江戸の玄関口だった場所で、新駅も「東京の玄関口」の役割を担う意味を持たせたのだという。
また、後に説明するが、現在、新駅周辺を再開発し、巨大なオフィス複合ビルなどを建設中だ。海外資本の企業なども多数誘致し、国際的ビジネスの拠点、すなわち世界に向けての「玄関口」にしたいという狙いもあるようだ。
しかし、この新駅名をめぐっては、発表された直後から一斉にブーイングが飛び出した。「ダサい」「キラキラネームのよう」「陳腐で安っぽい」などなど散々な言われようだ。多くの人はどうしても「ゲートウェイ」に我慢がならないようだ。
ネット上では「駅名撤回」を求める署名運動も展開され、署名数は3万5000人を突破(2018年12月15日現在)したというから、その拒否反応はかなりのものだ。
JR東日本としては今のところ静観しているようだが、今後この問題がさらに大きくなれば、それなりの対応策を考えざるを得なくなるだろう。
新駅周辺は、六本木ヒルズより大きな再開発地域へ
「高輪ゲートウェイ」は、品川駅近くにあった車両基地跡地などを利用。およそ5000億円をかけて、周辺の約13ヘクタールの土地の再開発を進めている。これは東京ドーム3個分にあたり、ここに新駅舎と地上45階建てのオフィスビルなど7棟が建てられる予定だ。
JR東日本では、この再開発のコンセプトも「グローバルゲートウェイ品川」としている。
ちなみに六本木ヒルズは11.6ヘクタール、東京ミッドタウンは10.2ヘクタールなので、高輪ゲートウェイの規模も想像がつくだろう。都心部に残された、最後の巨大再開発プロジェクトと言えるのではないだろうか。
駅舎のデザインは、新国立競技場を設計した隈研吾氏が担当した。
折り紙をモチーフとした大屋根が特徴的で、膜や木などの素材を使用し、障子をイメージした明るい空間になるという。和風のデザインを前面に押し出すことにより、世界ビジネスに向けての “東京の顔”をイメージさせようとしているのだろう。
この新駅舎を中心に、JR東日本は「新駅と街が一体となった象徴的なにぎわい空間」を創出するという。
山手線新駅による経済効果は1兆4000億円
「高輪ゲートウェイ」の隣にある品川駅は、2027年にリニア中央新幹線が乗り入れる予定になっている。これが開通すれば名古屋まで45分程度、大阪も1時間10分程度で結ばれるようになる。
つまり、「高輪ゲートウェイ」周辺の再開発は、このリニア開通も視野に入れた品川・高輪エリア振興の巨大プロジェクトなのだ。まさに、新しい東京の玄関口、世界へのゲートウェイとなる駅が誕生するというわけだ。
不動産物件サイトの調査による「地価が値上がりしそうな街ランキング」では、JR品川駅が2015年から3年連続で3位にランキング。品川駅周辺の地価公示も、商業地で10.2%、住宅地で3.9%の上昇率を示している。
また、品川エリアのオフィスの空室率の状況でも、8.75%(2013年12月)から2.13%(2017年12月)と大幅に改善されている。周辺開発を見越した企業の流入が加速している。いま東京で一番注目を集めるエリアといっても過言ではないだろう。
「高輪ゲートウェイ」駅の建設、およびその周辺の再開発にともなう経済効果は、1兆4000億円にのぼると見込まれている。
本当の地域活性化、地域住民の気持ちも大切
改めて駅ができる場所を見てみると、現在の都営浅草線と京急線の「泉岳寺駅」とほぼ同じ場所であることがわかる。田町と品川の駅間は長かったので、泉岳寺周辺にすむ住民、線路より海側のエリアの住民にとっては非常に便利になるだろう。
いまはシャッターを閉めた商店も目立つ高輪の商店街だが、「高輪ゲートウェイ」によって多くの住民が戻り、活気を取り戻すことができれば最高だ。本当の意味の地域活性化は、ビジネスだけに特化するのではなく、そこに居住する地域住民がいかに快適に住めるかということも重要なのではないだろうか。
山手線は、地域住民の大切な足でもある。住民の暮らしやすい街づくりが求められる。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車など。