入場料制書店登場!生き残りに懸ける“リアル書店”の戦い
どんな街にもあたり前に店を構えていた書店が、恐ろしいくらいのスピードでいま次々に倒れている。
インターネットの普及で深刻な打撃を受けた業界の一つが書店といえるが、米国国内でも同様にリアル店舗が閉店に追い込まれている。その現象を「アマゾン・パニック」と呼び、その小売店の変転数は昨年だけで1万2000店舗を超え、チェーンストアも大量閉店に追い込まれているという。
一方の日本でも小売店が閉店に追い込まれているが、書店も例外ではない。が、しかし、懸命に未来に目を向けて頑張っている書店もある。ユニークな作戦で生き残りを図っている書店を紹介しよう。
深刻ともいえる書店の閉店ラッシュ
2018年6月、東京六本木の名物書店の一つだった青山ブックセンターが、38年の幕を閉じた。ベストセラーものだけでなく、アートやサブカルチャーの良書もラインアップし、いかにも流行の発信地らしい品ぞろえで有名な書店だっただけに、閉店は多くの本好きに惜しまれた。こんな有名店でもやっていけない時代。各地の駅前にあった中小の書店などひとたまりもない。
グラフ(全国の書店の店舗数の推移/アルメディア調査)を見てほしい。全国の書店の店舗数の推移だ。ちょうど20年前の1999年には、2万2296店舗あった書店が、2017年には1万2526店舗にまで減少している。いまは当時の54%しか店を開いていない。ざっと2軒に1軒はこの20年で撤退したということになる。
わずか20年で、半数の書店が撤退した要因
その理由は大きく2つあげられる。
ひとつは、出版業界全体の不況のあおりを流通の末端にあたる書店がまともに食っているという現実だ。書店も倒れているのだが、本をつくる出版社も次々に倒れ、再編が続いている。とくに雑誌の落ち込みは深刻で、この20年で出版社の雑誌の売り上げはほぼ半減している。
かつて、雑誌が担っていたさまざまなジャンルの最新の情報提供は、ことごとくインターネットにとってかわられている。ファッションも、グルメも、旅も、風俗の情報までも。ほとんどの雑誌に生き残る道はなかった。
さらに、駅前の小さな書店は、もともと店頭に並べられる品数に限りがあるため、毎月最新情報が入れ替わる雑誌がメインの商品だった。その雑誌が“死に体”となっては、それを売る書店も道ずれということにならざるを得ない。
もうひとつは、アマゾンなどに代表されるネット通販の普及だ。ネット通販の拡大は本に限らない話だが、とりわけ本はリアル店舗に大打撃を与えた。いまや家にいながら、スマホやパソコンでどんどん注文できる。極端な場合注文した当日に宅配してもらうことも可能。わざわざ書店に出かけて、店内を探し回り、あげくの果てに品切れだった……などのストレスは、ネットの空間ではほとんど起こらない。時間を有効活用するために、ネットは必須アイテムとなった。
こうしたリアル書店の環境の変化を見ていくと、いずれ近いうちに街からまったく書店が消えるのでは?という心配さえ起こってくる。果たしてこのまま書店は衰退していってしまうのだろうか。
入場料を払って、じっくり本と親しむ新感覚書店「文喫」
悲劇的なリアル書店の実態ばかりが強調される昨今だが、しかし、ただ“座して死を待つ”というばかりではない。生き残りを懸けたアグレッシブな戦いに挑んでいる書店も、実はたくさんある。
たとえば、2018年12月にオープンしたばかりの「文喫」がそうだ。
前述した六本木の青山ブックセンターの跡地(東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1階)に、大手取次会社日本出版販売(日販)が自ら手がけた書店で、なにしろユニークなのが「入場料制」という点。
入り口で1500円を払ったら、とりあえず飲食受付のコーナーでコーヒーやお茶のサービスを受け、好みの席を確保。一人がけソファーでもよし、閲覧室の書斎風の席でも自由だ。落ち着いたら、じっくり本を探す。9時〜23時まで好きなだけ滞在していていいので、あわてることなくじっくり探せる。
本の点数は約3万冊。食やファッションなどのカルチャーものから、ビジネス書、歴史、科学、文学など、あらゆるジャンルの良書を取り揃えている。気に入ったものを手に取り、コーヒーを飲みながらとりあえず読む。もちろんそこで読み切ってもOKで、手元に置きたいと思う本を厳選して購入することもできるし、気が進まなければ購入を見合わせてもいい。本探しに疲れたら、昼食時や夕食時にはオプションでカレーやパスタを注文して、食事することもできる。
「文喫」の名の由来は、文を喫する、書物を愉しむ
こうなると、書店というよりは、むしろくつろぎの空間に本が主役として展開されているといってもいい感じだ。「文喫」という店名は、文を喫する、書物を愉しむ、というところからきているのだそうだ。
昨年からの年末年始はかなりの客が押し寄せたというから、まずは上々のスタートといえるだろう。
ただし、この1500円という額については賛否両論ある。入場するためだけにこの金額を払える本好きの集まりなので、おのずと客層はいい。店内はとても静かで、まるで図書館のような雰囲気を備えている。
一方で、もとをとることを考えれば、1時間や2時間の滞在ではもったいない。じっくり時間をかけることが大切。つまり本を選ぶことと同時に、くつろぎの時間も買っているという意識をもたないと、コスパとしては合わないだろう。ちなみに、店内で新刊の単行本一冊を読み切ってしまえば、ほぼ入場料は取り戻せたことになるのだろう。
全国から注文が殺到した、逆転のシステム「一万円選書」
ほかにも、注目すべきリアル書店の野心的なチャレンジはある。
北海道の砂川市にある小規模書店「いわた書店」が、このところ大いに話題を集めている。読者から本の注文を受け付けるのではなく、1万円の予算の範囲内で、店主の岩田徹氏が、その読者にふさわしい本をセレクトしてくれるという、逆転のシステムを採用した「一万円選書」だ。
あらかじめカルテと呼ばれる、読者のこれまでの読書歴や個人的な嗜好、興味、価値観などを記した情報を共有し、それを岩田氏がきっちり吟味して、その読者にふさわしい本をラインアップして提案する。もちろん、気に入らなかったり、もうすでに読んでしまっていれば、リストからそれを外してもらうことも可能だ。多くの読者は、まったく知らない本を提案されたり、そもそもこれまで興味のなかったジャンルの本を提案されて、驚くことが多いという。これまで何度かテレビなどで紹介されるうちに話題となり、今では数千件のオーダーがあり、抽選で通らないと、このシステムには参加できないほどだそうだ。
この書店、本当に街の片隅の小さな書店さんだ。アイデアしだいで生き残るチャンスはあるということか。
その他の、ネット時代に対抗するリアル書店のチャレンジ
代官山蔦屋に代表されるブックカフェの展開も、ネット時代に対抗するリアル書店のチャレンジとして注目を集め続けている。
代官山蔦屋は、オープン当初それまでの書店のイメージを根本から覆したとして、大いに話題になった。ハイソなイメージの代官山に、3棟にわたる大型店舗。それぞれの棟はきっちりとしたジャンル分けがなされ、客の好みに応じてじっくり本が探せるようになっている。店内のあちこちには座り心地のよい椅子が配置さり、そこでゆったり本を読むことができる。しかも、カフェ、ダイニング、夜にはバーまで併設されており、とにかく一日いても退屈しないような造りになっている。
この店は、オープン後8年が経過しているが、ネットで本を買う層とはあきらかにちがった本好きを集める書店として、完全に定着している。インターネットで本を探すよりもリアル書店で本を探すほうが楽しいという読者が、確かにいるということを証明した書店なのだ。
この代官山蔦屋の成功をきっかけに、全国に次々といわゆるブックカフェが誕生し、リアル書店のイメージを変えるきっかけにもなっている。
── 代官山蔦屋がこのまま発展を続けるのか、それともほかのリアル書店と同じように衰退の道をたどるのか、その行く末は、リアル書店全体の未来を占うことにも繋がっていることになりそうだ。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、昨春退職。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。