クラウドファンディングで実現した「世界初のプラごみ回収装置」とは
いまやすっかり世の中で認知され、アイディアの実現や目標到達のために、資金を調達するひとつの手段として注目されているクラウドファンディング。
さまざまな業種や職業を越えて挑戦する人、その主旨に賛同し応援する人が増えています。
ある若者の発想から始まったのは、海に漂うプラごみを回収するプロジェクトでした。広大な海を掃除するというプランに驚き、実現不可能だとも言われてきましたが、念入りな計画と検証を続け、2018年9月にとうとうプロジェクトは動き始めました。海洋汚染をこれ以上進ませないために、多くの人の協力を得て実現に向けてスタートした、世界初のプロジェクトをご紹介します。
世界初!プラごみ回収装置によるプロジェクト
5ミリ以下の小さなサイズで世界中の海に漂い堆積し続けるマイクロプラスチックごみ。あまりの細かさに回収は不可能と言われていますが、細かくなる前のプラごみを回収しようというプロジェクトが始まりました。世界で初めて開発された漂流プラごみの回収装置が、2018年9月8日、サンフランシスコから出航したのです。
この画期的な装置は、オランダのNPO「オーシャン・クリーンアップ(THE OCEAN CLEANUP)」が開発した「システム001(SYSTEM 001)」というものです。全長600メートルのパイプに深さ3メートルほどのスカートのような覆いがつけられています。この装置をUの字型に海面に浮かべて、風や海流を利用してプラごみを集めるしくみです。
発案者はオランダ人のボイヤン・スラット(Boyan Slat)氏です。彼が高校生の頃、ギリシャで海水浴をしていた時に魚よりもプラスチックごみが多いことに気づきます。このプラごみをなんとかして回収したいと考えたのが、このプロジェクトのきっかけでした。
18歳の青年がクラウドファンディングで200万ドルを集め話題に
プラスチックは海面に浮くことから、スラット氏は海流を利用した「The Ocean Cleanup Array」という回収装置のアイディアを思いつきます。プレゼンテーション動画をつくって世界中に配信したところすぐに話題になり、多くの人から支持を得ることとなりました。当時通っていた大学では最優秀技術デザイン賞を受賞します。
スラット氏の活動はアイディアの発表だけでは終わりませんでした。2013年に、わずか18歳で前述のNPOを立ち上げると、クラウドファンディングサイトでプロジェクトの資金を募ります。すると、あっという間に、160ヵ国に住む3万8000人から出資があり、目標額の200万ドル以上を集めることに成功したのです。どれだけ世界中の人に賛同されたかがよくわかりますね。
プロジェクトの実現を疑問視する声もあがりましたが、彼の考え方や行動力に共感した科学者や研究者、ボランティアの人々の協力を受けて、スラット氏はプラごみ除去の研究・開発を続けます。300回近くのテストや実証実験を行うことで判明したのは、「太平洋ごみベルト」に溜まる膨大なプラごみでした。その数は約1兆8000億個にものぼり、重さにすると約8万トンと推定されています。
「太平洋ごみベルト」とは
「オーシャン・クリーンアップ」が飛行機を使って海上から研究・調査を行ったところ、そのほとんどがプラスチックごみでした。さらに、プラスチックごみの総重量の約46%は、漁業に使われている網が流された「ゴースト・ネット」だということが判明。この網が海に住む生物にからみついて命を脅かし、プラごみをさらに細かく砕いてマイクロプラスチックごみにしている可能性が高いことがわかってきたのです。
近年、太平洋ごみベルトにおけるプラごみは重量ベースで急激に増えており、その原因に2011年の東日本大震災での津波が関係していると考えられています。
現在のシステム001はどこに?
2018年9月8日にサンフランシスコを出航した「オーシャン・クリーンアップ」の「システム001」は天候に左右されながらも航行を続け、運用テストを行った後、無事に「太平洋ごみベルト」に到着。同年10月19日には装置の設定が完了しました。10月24日にはスラット氏が初めてプラごみを回収したことをツイッターに投稿しています。
プロジェクトで回収したプラごみは船に乗せてサンフランシスコに陸揚げし、欧州でリサイクルされる予定です。海では悪天候による強風や荒波が考えられるため、このシステムについては賛否両論があるようですが、世界中から注目が集まっているのは事実であり、誰も試したことがないシステムです。この記事がアップされる頃には、初めてのプラごみが陸揚げされているかもしれません。
巨大なパックマンがプラごみを食べる
今後、「オーシャン・クリーンアップ」ではプラごみ回収装置を60個に増やし、5年後には太平洋ごみベルトにおける50%のプラごみを回収するとのこと。さらに、2050年までに完全にごみをなくすことを目標に掲げています。
プラごみを放置すれば、波や太陽、ゴースト・ネットによって細かく砕かれ、環境に影響するマイクロプラスチックごみと化すことは周知の事実です。少しでも早くプラごみを回収する、という使命感に燃える若者を支援することは海洋汚染を阻止するひとつの道ではないでしょうか。
「オーシャン・クリーンアップ」のウエブサイトでは、「システム001」の現在地が5分ごとに更新される位置情報のほか、さまざまな情報が掲載されています。クラウドファンディングも引き続き募集中です。また、インスタグラムやツイッターなどのSNSを通じて、誰でも最新の情報を知ることができるので、興味のある方はぜひチェックすることをおすすめします。
スラット氏はプラごみ回収装置の「システム001」を“風と波で動く巨大なパックマン”に例えています。果たしてパックマンはどれだけのプラごみを食べることができるのか……。個人的にも、ぜひ注視していきたいところです。
参考URL:朝日新聞、The ocean cleanup
≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、介護福祉士の資格を取得。現在は社会福祉法人にて障がい者支援の仕事に携わる。28年に及ぶクラシック音楽の評論活動に加え、近年は社会問題に関する執筆も行う。