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東京五輪を控え「サマータイム」導入!? 気になるメリット・デメリットとは

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2018年夏の記録的猛暑を受け、2020年夏に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技に支障が出るのではないか、と懸念が広がっている。

これに対して、マラソンや競歩などを朝7時にスタートさせるなどの対策で乗りきろうとしているが、その実効性には疑問が残る。

そこで、にわかに注目され始めたのがサマータイムの導入だ。日の出の時刻に合わせて、一日の時間を前倒しにする手法は多くの国で採用されているが、日本ではなじみがない。サマータイムを導入すると何が変わり、どのようなメリット・デメリットが生まれるのか考えてみたい。

欧米を中心に採用されているサマータイムとは

サマータイムとは「夏時間」のこと。日の出の時刻が早くなる時期(3月~11月)に、時計の針を1時間ないし2時間進めて、太陽が出ている時間帯を有効利用することを目的としている。

日本では和製英語で「サマータイム」 と言うが、アメリカでは「日照時間を有効活用する時間制度」という意味で「デイライト・セービング・タイム(Daylight Saving Time)」と呼ばれる。アメリカへ旅行に行く際、時刻に「DST」と付されていれば、それはサマータイムを意味する。

アメリカ、カナダ、メキシコなど北米では(一部除く)、3月の第2日曜日午前2時〜11月第1日曜日午前2時の間、時計の針を1時間進めるDSTを導入。ヨーロッパやオーストラリアなど、その他の広い地域でも同様の時間制度を行っている。

なぜいま、日本でサマータイム導入?

欧米では当たり前とされるこのサマータイムが「日本でも導入か」と、突如としてニュースに取り上げられるようになった。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長・森喜朗元首相が、「酷暑対策のために政府にやってほしいと思う対策がサマータイム。2019年、2020年限定で」と言い出したからだ。
安倍晋三首相も「それがひとつの解決策かもしれない」と、前向きに応じたと報じられており、来年からのサマータイム導入がにわかに現実味を帯びてきているのだ。

具体的な施策として、最も暑い6〜8月を中心に数カ月間だけ時間を2時間繰り上げるというサマータイム法案は、秋の臨時国会で議員立法提出をめざし、政府・与党も本格的検討に入っているという。

これが決まれば、午前7時スタート予定のマラソンは、一日で最も涼しい午前5時スタートとなり、日が高くなる午前8時には競技を終えることができる。たしかに出場選手のパフォーマンス効果の点では、サマータイム導入も大きな意味がありそうだ。

ただ、東京オリンピック・パラリンピックのためだけにサマータイムが導入されても、実際は日本社会全体のタイムゾーンが変わるということ。その影響は非常多大なものがある。

日本にもサマータイムを導入した時期があった

先に、サマータイムは「日本になじみがない」と紹介したが、かつて日本でもサマータイムを導入していた時期があったことをご存じだろうか。それは1948年〜1951年までの3年間。日本が米軍に占領統治されていた時期だ。当時は、5月の第1土曜日から9月の第2土曜日までを夏時間とし、規定の時刻に1時間を加えたタイムゾーンを採用していたという。

しかし当時、圧倒的に多かった農家の生活のリズムが崩れたり、企業の残業時間が増えるなどのデメリットが顕在化したため、サンフランシスコ条約締結後、日本が政治的に独立した1952年から廃止に。さらには、民間企業と公務員の出社時間が重なり、通勤時間帯のラッシュが激化したことも理由のひとつにあったようだ。
つまり、日本がかつて採用していたサマータイムは、日本社会を円滑にするためのものではなく、戦後の混乱期に、GHQが本国同様のDSTを無理やり日本に当てはめたものだったと言える。

サマータイム導入のメリットと経済効果

サマータイムを導入すると、日本社会にはどのようなメリットと経済効果があるだろうか。
① 節電になる
明るい時間に帰社できるため、人のいないオフィスのエアコンや照明を切ることができる。家庭でも、就寝時間が早まることで消費電力削減につながる。

② 余暇の有効活用ができる
明るい時間に仕事を終えて退社できることから、平日であってもショッピングや外食、趣味などに時間を充てることができる。

③ 消費動向が高まり、景気がよくなる
平日にショッピングや外食ができるようになると、消費活動が活発になり景気拡大への期待も高まる。

サマータイム導入の経済効果は7000億円超?

第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは、サマータイム導入で個人消費が押し上げられ、年間7000億円以上の経済効果があると試算している。

永濱エコノミストは、日常の生活時間が3カ月間2時間前倒しにされることで、余暇時間内の日照時間が2時間増加することに着目。そこから、今回のサマータイムの影響で年間の名目家計消費が「+0.3%ほど」増加すると試算している。2017年度の名目家計消費が 246 兆円程度であることから、約0.3%の増加は約 7532 億円に相当するとしている。
加えて、システム変更などの導入コストがかかることなどで企業の設備投資が押し上げられる可能性もあり、想定以上の特需が発生する可能性もあるとしている。

サマータイム導入のデメリット

これに対して、サマータイム導入には多くのデメリットも指摘されている。
① 労働時間が逆に長くなってしまう
始業時間が前倒しになるだけで、就業時間は変わらない、あるいは残業が増えるなどの問題が出てくる可能性が高い。特に中小企業で労働時間の延長につながりかねない。

② 消費電力の削減にならない
始業時刻を早めた分、終業時刻も早くならなければ、企業の消費電力削減はかなわない。残業という形で労働時間が長くなれば、節電にはつながらない。

③ 体調不調、精神的負担、労働者の生産性低下が懸念
生活の時間帯が変わることで、人体の体内時計が狂うことが懸念されている。体内時計は自律神経、ホルモン等とも密接に関係しているため、体調不調に陥る人々や、精神的負担による労働者の生産性低下も懸念される。実際に、2015年の世論調査で54%がサマータイムに反対したフランス、2017年の世論調査で74%がサマータイムに反対したドイツ……と、EUでは廃止についての本格的議論が始まっている。

④ ITシステムへの影響が多大
日本のI Tシステムはサマータイムを前提に設計されていない。導入となれば大規模なシステム改修が必要となり、莫大なコストもかかる。1年ほどの準備期間ではコンピューターシステムの大規模改修はとうてい間に合わないと、業界からはすでに悲鳴があがっている。

簡単なシミュレーションだけで、これらデメリットはすぐに想定できる。
年間7000億円超の経済効果と試算した永濱エコノミストも、経済効果は認めつつ「競技時間の変更等で対応するほうが国民の理解を得やすい」と結論づけている。

拙速な導入は混乱のもと。いま一度、慎重な議論を

一定の経済効果は期待できるものの、さまざまな問題も想定できるサマータイム導入。
期間限定とはいえ、東京オリンピックオリンピック・パラリンピックのためだけに導入するのは相当無理がある、これがいまいまの現実的意見だろう。

「サマータイム導入」なる社会システムの変更は、一部に「政府として取り組める一番やりやすいもの」という意見もある。思い起こせば、“崩し”の基準に迷走し、ダサい男性諸氏を大量発生させた「クールビズ」もそう。鳴り物入りでスタートしたものの大失敗に終わったと酷評される「プレミアムフライデー」もそう。
いずれも政府が旗振り役の国民的キャンペーンだが、どちらも議論かまびすしい末に、恩恵を受けている人の割合が数パーセントという惨憺たる結果に終わっている。

こうした反省を踏まえ、「サマータイム」もいっときのノリで拙速に決めるのではなく、オリンピック・パラリンピックの開催時期を秋にスライドさせるなど、国民生活に混乱をもたらさない方法をいま一度模索すべきという声も依然として多い。開催時期についてはすでに議論が終わり、やむなく7月の最も暑い時季に東京で……と結論づけられているようだが、再考は不可能なのだろうか。

なにはともあれ「サマータイム」導入を拙速に決めるのではなく、慎重な議論が求められることは確かだろう。

≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、エンタメ系など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車などなど。新潟県長岡市在住。

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