ストロー廃止で何が変わる?マイクロプラスチックごみが警告する海洋問題(中編)
前編「ストロー廃止で何が変わる?マイクロプラスチックごみが警告する海洋問題」では、「マイクロプラスチック」と言われる微小のプラごみが海を汚染していることから、ストローを廃止する動きが世界的に広まっていることを取り上げました。
なぜストローばかりが注目されるのかというと、ストローが持つ形状からリサイクルされにくいことや、一部の人を除いてはストローを使用しなくても支障がないからです。
そのため、他のプラスチック製品よりもストローの廃止は着手しやすいようですが、ストローがなくなることで諸問題が露呈し、代替案が検討されるなど、さまざまな動きが出てきました。また、マイクロプラスチックごみが魚だけではなく、サンゴの成長にも悪影響を与えていることもわかってきました。
前編に引き続き、マイクロプラスチックごみにかかわる動きについてお伝えします。
ストロー廃止で、シフト先はどこへ?
世界中でストロー廃止を打ち出す国や地域、企業が増えているのに伴い、注目されているのが紙製ストロー(ペーパーストロー)です。紙製のストローは以前からありましたが、品質が悪く、使っているうちにふやけて破れるため、安くて丈夫なプラスチック製ストローの台頭とともに需要がなくなっていった、という歴史があります。
皮肉なことに、人類が安いコストで利便性の高い、使い捨て製品を求めた結果が、現在の海洋汚染へつながっていったわけです。当時は誰も考えていなかった環境問題が近年は大きな課題としてクローズアップされ、地球的規模で環境保護への関心が高まるにつれ、紙製ストローへの依存度が増している状況です。
プラスチック製ストロー廃止に伴う一番の問題はやはりコスト面でしょう。スムージーなどのシャーベット状の飲み物に使うには太くて丈夫なストローが必要ですが、法律で規制された場合は対応せざるを得ません。プラスチック製から紙製への変更にかかわる追加コストに、頭を抱えている飲食店も多いようです。
米国では、プラスチック製ストローが1円に対して、紙製のストローは3円と約3倍です。飲食店の中には穴の開いた太く長いパスタで代用しているところもあり、この場合のコストは2~3円と言われています。
一方、最近の紙製ストローは強度が高くなり、よりよい品質のものが製造されるようになってきました。デザインの面からも紙製ストローは柄や色のバリエーションが豊富で、カラフルで楽しく見えることから、インスタ映えすると大人気に。さらに、表面にプリントができるので、店の名前を入れることや広告を印刷することもできます。そのため、高コストにもかかわらず、紙ストローの売り上げは急激に増加しており、紙ストローを扱う企業では「供給が追いつかない」と、うれしい悲鳴を上げているところも少なくないようです。
世の中のトレンドは「マイストロー」へ
台湾では来年2019年7月からプラスチック製の使い捨てストローの規制が始まります。そこで問題になったのが台湾名物のタピオカミルクティーです。
タピオカミルクティーは太めのストローでグラスの底にあるタピオカを一緒に吸い上げ、モチモチした食感を味わうことで人気のドリンクですが、そのストローが規制されるとあって一時は大騒ぎに。「ストロー廃止でタピオカミルクティーが終わる」と、市民からは不満の声しきりでした。
その台湾で最近人気を集めているのが携帯用の「マイストロー」です。ガラス製やステンレス製があり、特に、タピオカミルクティーを飲むのに適した内径11ミリの太めのストローが売り上げを伸ばしているといいます。ストロー専門店では1本200台湾ドル(約720円)前後で購入でき、ストロー専用の洗浄ブラシもあるのだそう。透明なガラス製ストローを使うとタピオカが上がってくるのがよく見え、ステンレス製の場合はジュースの冷たさをより感じることができるのだとか。
規制がある中、「どうしてもタピオカミルクティーをストローで飲みたい」という思いと、環境に配慮する両方の気持ちを叶えることから、「マイストロー」が広がりを見せているのです。
ティファニー社が、金属製のストローを販売!
「マイストロー」の概念はこんなところにもありました。
貴金属や宝石を扱うTiffany&Co.(ティファニー社)では、「クレイジー ストロー」というシリーズで、2017年11月から金属製のストローを販売しています。上部が蛇腹状に一回転した形状のスターリングシルバー製で、金や銀などのメッキ加工により色が違い、価格は3万8340円から5万3460円(税込)です。
また、米国のクラウドファンディングサイトで、折り畳み式で携帯可能な金属製ストローを開発する資金を募集したところ、約189万ドル(約2億円)の資金が集まり、現在開発中だといいます。
今後はプラスチック製ストローが飲食店から姿を消し、「マイストロー」を持ち歩く日がくるのでしょうか。
生分解性プラスチックなどの研究が進む
もともとは麦わら(straw)だったストロー。便利なプラスチック製から、このように紙製やガラス製、ステンレス製などにシフトしていますが、プラスチックそのものの素材を微生物で分解することが可能な「生分解性プラスチック」の研究も進められています。「プラスチックを使いながらゴミを出さない技術」です。
群馬大学の粕谷健一教授は、土の中にいる「バチルス」という特殊な細菌を眠らせた状態にして、プラスチックに閉じ込める方法を研究しています。これは、通常のプラスチックとして利用した後、廃棄する際に傷をつけることで空気や水がいきわたって活性化を始め、プラスチックを分解していくしくみ。現段階ではコストが5倍以上かかるという課題がありますが、2年後の実用化を目指しているそうです。
また、ベンチャー企業のTBMは、海や土の中で自然に分解されるプラスチックを開発中です。サトウキビなどの植物から作る樹脂・ポリ乳酸と石灰を混ぜて作ることで、低コストの生産が可能になったのだそう。現在は、この新素材を使った食器や食品用の容器を製品化するために、試作品を作成しているといいます。
このような技術開発は、海洋汚染という社会的な課題に貢献するうえ、さまざまな挑戦をし続けることになります。研究者や企業にとって世界的な使命があり、やりがいがあるだけでなく、さらに全人類から切望される技術となっていくことでしょう。
サンゴの成長をも阻害している
マイクロプラスチックごみは、魚だけでなくサンゴにも大きな影響をおよぼしていることが明らかになっています。
米国や豪州などの国際研究チームが、2011~2014年にかけて12万4000の造礁サンゴ(サンゴ礁をつくるサンゴ)を調べた結果を発表しました。サンゴ組織が白く壊死する「ホワイトシンドローム」などの病気になるリスクは、プラごみがない場合で4%でしたが、プラごみがサンゴに接している場合は89%でした。サンゴが病気になるリスクは、実に約20倍の高さだったのです。サンゴとプラごみが接することで光と酸素が不足してサンゴにストレスがかかり、病原菌に侵されやすいと考えられるのだそう。
この研究チームでは、アジア太平洋地域でサンゴに影響をおよぼすプラごみは111億個であり、2025年には157億個と、約40%増えると予測しています。
また、東京経済大などの研究チームでは、プラごみがサンゴの成長に欠かせない藻類を取り込みづらくなり、サンゴの成長を阻害しているという研究結果をまとめました。
サンゴは体内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」という微小な藻類を取り込み、褐虫藻が光合成して作り出した栄養をもらって成長しています。一方、褐虫藻はサンゴを住処にしながらサンゴの老廃物をエサにしているという、言わば、共生共存の間柄。研究では、幼いサンゴにプラごみを混ぜたエサと褐虫藻を与えたところ、取り込んだ褐虫藻は半数にとどまりました。プラごみの混ざっていないエサを与えたグループは、与えられたすべての褐虫藻を取り込んだということです。
魚や貝などの生息地として多くの生物の多様性をもたらすうえ、高波を防ぐ機能を持つサンゴ礁。マイクロプラスチックごみはサンゴの成長を阻害するだけでなく、海洋生物全体へも悪影響をおよぼす恐れがあると研究者は警鐘を鳴らしています。
── マイクロプラスチックごみがもたらす海洋汚染を食い止めるために、ストロー廃止を打ち出す企業や飲食店に対して、「単なるポーズだ」という声が一部にあるようです。確かに、プラスチック全体がおよぼす影響を考えると、ストロー廃止はその第一歩、ほんの少しの前進でしかないかもしれません。たとえそれが小さな歩みだとしても、対策を講じ、改善する努力をしなければ何も変わらないことをぜひ考えてほしいと思います。
美しい海を、私たちの地球を守るための課題は山積みの状態です。次回もマイクロプラスチックごみの問題について紹介します。
参考URL:朝日新聞、ほか
≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、介護福祉士の資格を取得。現在は社会福祉法人にて障がい者支援の仕事に携わる。28年に及ぶクラシック音楽の評論活動に加え、近年は社会問題に関する執筆も行う。