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【カンボジア】日本支援の南部SEZが苦戦[経済](2021/03/22)

日本の円借款で建設されたカンボジア南部のシアヌークビル港経済特区(SEZ)=SPSEZ=が、企業の誘致に苦戦している。2012年に完成したSPSEZは、港に隣接する立地条件の良さから、企業誘致に大きな期待が寄せられたが、進出企業は現時点で3社にとどまっている。土地賃料の安い中国系SEZの存在や、不十分なサポート体制が足かせになっているためだ。国際協力機構(JICA)は18年にてこ入れとして、SPSEZを保税区に転換する構想を打ち出したが、計画は足踏み状態だ。【安成志津香】

日本が建設を支援したシアヌークビル港SEZ。企業誘致に苦戦している=20年12月(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー提供)

日本が建設を支援したシアヌークビル港SEZ。企業誘致に苦戦している=20年12月(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー提供)

SPSEZは、国内唯一の深海港、シアヌークビル港に隣接する約70ヘクタールの土地に建設され、国営のシアヌークビル自治港(PAS)が運営する。日本はカンボジアの海外投資の誘致、輸出産業の発展に向け、同国政府と08年に36億5,100万円を貸し付ける契約を締結。同SEZの開発、運営を支援している。

SPSEZは当初、日本人専門家も常駐する「日本ブランド」の工業団地として期待を集め、12年に王子製紙(東京都中央区)、13年に化粧品製造のタイキ(大阪市都島区)が進出した。だが、その後は投資が停滞し、18年にピアノ販売のユニオン楽器(埼玉県越谷市)が拠点を設立して以降は目立った動きがない。元JICA専門家でSPSEZのアドバイザーだった服部寛氏(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー代表)はこうした現状について、主に3点の課題を挙げる。

1つ目は、土地賃料の高さだ。SPSEZの土地賃料が1平方メートル当たり55~65米ドル(約6,000~7,000円)だったのに対し、12年の開所当時、近隣にある中国系のシアヌークビルSEZ(SSEZ)は同20米ドルにとどまっていた。

それでも当初は、SSEZに排水処理施設がなかったため、コンプライアンスを重視する日本企業は、環境設備が整っていたSPSEZを選択する傾向にあった。ただ近年は、SSEZでも排水処理施設をはじめとするインフラが整備され、事業環境が改善。SSEZの競争力が向上した。

2つ目は、SPSEZの運営主体に関する問題だ。服部氏は、「国営企業が運営するため、民間企業のような柔軟な対応が難しい。これに加え、公務員にサービス向上の重要性を理解してもらうことが困難だった」と漏らす。現時点でPASのSEZ部門には、投資申請などの許認可手続きや税関との交渉を手掛けるサポート体制が整っていない。SEZの役割として投資企業から期待が大きい、政府当局との交渉代行支援などのサービス面を改善できるかが重要になっている。

3つ目は、労働者の確保が困難なことだ。シアヌークビル州の人口は約20万人にとどまっており、既に120以上の工場が運営されているSSEZや、建設が進むカジノやホテルなどの観光業に労働者が流れてしまった。こうした状況下で、今後の進出企業には労働者の確保がさらに困難になることが予想されている。

JICAカンボジア事務所で広報を担当する平井利奈氏はNNAに対し、「SPSEZの運営状況について課題を有していることはJICAとしても認識している」とコメント。「引き続き企業の入居を促進するため、SEZの運営主体であるPASに対する技術協力と企業誘致活動を継続支援していく」と説明した。

■「保税区化、前例なく時間要す」

こうした課題が山積する中、シアヌークビル港の付加価値向上に向け、同港の自由貿易港への転換と、SPSEZの保税区化に期待が寄せられている。自由貿易港は輸出入貨物に関税が課されず、外国船が自由に出入りでき、港側は中継貿易や加工貿易で発展が見込めるためだ。

カンボジア唯一の深海港、シアヌークビル港。日本は同港のインフラ整備や運営能力強化を長年支援している=20年12月(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー提供)

カンボジア唯一の深海港、シアヌークビル港。日本は同港のインフラ整備や運営能力強化を長年支援している=20年12月(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー提供)

服部氏は、「自由貿易港とSPSEZの保税区化が実現すれば、SPSEZがこれまで誘致対象としてきた輸出加工型の製造業に加え、コールドチェーン(低温輸送網)向けの倉庫や、農水産品の加工保存といった用途で利用拡大が見込める」と指摘する。

JICAは18年、22年までの行程表をまとめ、SPSEZの保税区化を当局に申請する計画を示した。新たにレンタル工場や倉庫などを整備し、港とSEZのゲートも一体化する構想だ。18年にはJICAが公募したSPSEZのアドバイザー事業を、日本工営が1億7,000万円で落札。同年4月から日本公営とプノンペン経済特区社(PPSP)の計5人が、SPSEZのJICA専門家として配置された。

ただ、当初は18年内の保税区申請を目指し、19年の指定を見込んでいたが、計画は進展していない。「カンボジア国内でSEZまで含めた保税区の設定については前例がないため、自由港化に向けて必要な情報収集や法制度の確認、関係機関との協議に時間を要している」(平井氏)ためという。

日本工営のコンサル事業は今年2月に終了する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響で1年の延長が決定した。残りの1年でSPSEZを取り巻く環境を改善できるのか注目される。

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