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【韓国】文政権がTPPに前向き姿勢[経済](2020/12/10)

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が8日、日本などが加盟する環太平洋連携協定(TPP)への参加の可能性に初めて言及した。TPPへの参加に長らく懐疑的だった韓国の心変わりには、どのような意図があるのか。民間シンクタンク、世宗研究所の李成賢(イ・ソンヒョン)中国研究センター長への電話インタビューでは、米国と中国が対立を深める中で難しいかじ取りに苦心する韓国の姿が浮き彫りになった。

――文大統領がTPPへの参加の可能性を言及した意図は。

「韓国のTPP参加は望ましい」と話す李博士(本人提供)

「韓国のTPP参加は望ましい」と話す李博士(本人提供)

中国主導の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名したことを受けて、日本が主導し、米国も復帰の可能性があるTPPに参加することで、対立を深める米国と中国の間でバランスを取ろうという考えだろう。

――韓国は長い間、TPPへの参加に懐疑的だった。米国との自由貿易協定(FTA)を維持しているためだと言われている。

中国がTPPへの参加意思を明らかにしたことで、韓国も心理的な負担なしにTPPへの参加意思を表明できるようになった面があることは事実だ。RCEPよりも関税撤廃率の高いTPPへの加入は経済的にもメリットが大きく、市場の多様化という観点からも望ましい。

――韓国が加盟するとすれば、時期はいつ頃になると考えるか。

米国がTPPに復帰した後なのか、その前になるかは、状況次第だろう。ただ、米国が現行のTPPに復帰する可能性は高くない。加盟するとすれば、自国経済にとって有利なように改定してからになるだろう。

また、バイデン次期政権にとっても、山積する国内問題と比べてTPP復帰の優先順位は低いものと思われる。

――TPPへの参加には日本の同意が必要だ。

日本が対韓輸出管理措置を厳格化したことで韓国と日本の関係が悪化したように、逆に経済関係の強化が政治的な関係改善につながることもある。韓国のTPP参加が、両国関係の修復のきっかけになることを期待している。

■日韓への影響力強める中国

――中国の習近平国家主席がTPPへの参加を「積極的に考える」と表明した狙いは何か。

TPPへの加盟を認められても認められなくても、中国には失うものはない。加盟を認められれば、TPPの「中国包囲網」という性格を変えることができるだけでなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済協力関係を深められるメリットがある。

加盟を認められなくても、米国がトランプ政権下で一国中心主義を深める中、「中国は『開放型経済』や『マルチラテラリズム(多国間主義)』を重視している」という従来からの主張に説得力を持たせることができるだろう。

――中国は中韓FTAを強化し、日中韓の間でFTAの協議を進めたい考えのようだ。

トランプ政権からバイデン次期政権への移行期の間隙(かんげき)を狙って、中国は新型コロナウイルス感染症対策と経済協力をてこに、東アジアでの影響力を強めようとしている。王毅国務委員兼外相の今回の日韓訪問はそれが狙いだった。

――中国外務省は王外相の訪韓について「実りが大きかった」とコメントした。

あいさつを交わす中国の王毅国務委員兼外相(左)と韓国の康京和外相=11月26日、ソウル市内(共同)

あいさつを交わす中国の王毅国務委員兼外相(左)と韓国の康京和外相=11月26日、ソウル市内(共同)

韓国と中国は発展推進や地域協力の深化に向けて「韓中関係未来発展委員会」の設立で合意したが、中国は日本を含めた三カ国関係の枠組みの中で両国関係を捉えており、二国間関係に集中したい韓国とは同床異夢の感がある。

逆に韓国は、王外相の訪韓を機に◇米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備で悪化した韓中関係の修復◇THAAD配備による韓流コンテンツや企業に圧力をかける「限韓令」の解決◇習首席の訪韓の実現――といった懸案事項の解決の糸口をつかみたかったところだが、具体的な進展はなかったようだ。

――米中対立のはざまで韓国の苦悩は深まるばかりだ。

バイデン新政権下で同盟関係を重視しようとする米国と、韓日との経済関係を深めようとする中国との間で、韓国の重要性がいつになく高まっている。韓国は難しいかじ取りを求められそうだが、同じ立場にある日本との関係を重視するべきだろう。(聞き手=坂部哲生)

<プロフィル>

李成賢博士:

米中、中朝関係、東アジア外交の専門家。米ハーバード大学で修士、中国・清華大学で博士号を、それぞれ取得した。

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