【韓国】米新政権、韓国は楽観禁物[経済](2020/11/19)
米大統領選で当選を確実にした民主党のバイデン前副大統領は、トランプ政権による通商政策を見直すとされる。バイデン政権発足後の米韓、米中、米朝関係や、米国の環太平洋連携協定(TPP)への復帰の可能性について、米ワシントンに本部を置く保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のアンソニー・キム氏に書面でインタビューした。
――韓国ではバイデン氏の経済政策「バイデノミクス」への関心が高まっている。特に韓国政府は、エコ社会の実現を目指して推進する「グリーンニューディール」事業との相乗効果に期待を寄せているようだ。
バイデン氏が、インフラ投資や再生可能エネルギーの導入など大規模な環境対策に力を入れるのは間違いない。公約通り実行されれば、米韓間での直接投資は拡大するだろう。
ただそれが、米国経済の立て直しに十分かどうかは、現段階では何とも言えない。新型コロナウイルス感染症による影響を考慮する必要もある。韓国経済への影響も同じだ。
――バイデン氏は、政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」なども公約に掲げている。米国の製造業の国内回帰は進むか。
米国経済の立て直しという意味で、ある程度は米国企業の国内回帰を奨励するだろう。ただ、分野ごとにアプローチの仕方が異なるはずで、政策が具体化するまでにはしばらく時間がかかるとみられる。
――トランプ政権に続いて、バイデン氏も米韓自由貿易協定(FTA)を自国に有利なように見直す可能性はあるか。
米韓FTAはすでに3回見直している。新たな見直しの可能性は低いだろうが、通商問題を巡っては、民主党内にいろいろな意見があるのも事実だ。将来的には、見直しを求める声も上がる可能性がないとは言えない。
――韓国は、米国がTPPに復帰するかどうかを注視している。
TPPへの参加は新政権での議題には上るだろうが、実際に復帰するとなるとハードルはかなり高いのが実情だ。米韓FTAについてもそうだが、通商問題に関しては米国内でさまざまな意見対立がある。
しかも当面は、中国との通商問題や、中国との対立で機能不全に陥った世界貿易機関(WTO)改革を巡る議論に多くの時間が割かれるだろう。
――東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓など15カ国が署名した「地域的な包括的経済連携(RCEP)」をどう評価するか。
とても野心的なプロジェクトだ。ただ、巨大市場となるがゆえに、それぞれ異なる利害関係を持つ参加国が具体的な成果を実感するまでには一定の時間を要するだろう。まして、コロナ禍にあってRCEPによる成果をきちんと上げるには、参加国同士の強力なコミットメントが求められる。
――韓国は米中対立で難しいかじ取りを迫られている。
トランプ政権とは中国へのアプローチの仕方に変化があるかもしれないが、2021年以降も両国の経済的な緊張が続くのは間違いない。
特に21年は、中国のWTO加盟からちょうど20年となる節目の年だ。この間、「中国が国際社会の一員として重要な責任を担う」という期待は裏切られたとの認識が広がっており、中国に対してさらに強硬な姿勢を取るという点では、共和党と民主党は一つにまとまっている。連邦政府と連邦議会も同様だ。
もはやトランプ大統領以前のような米中関係には戻らないことを、韓国政府もはっきりと自覚すべきだろう。
――バイデン政権下で、韓国と北朝鮮の経済交流が拡大する可能性はあるか。
新政権にとっては、南北の経済交流は優先順位が低い。何よりも、北朝鮮の非核化が最優先されるはずだ。
――北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は今回の大統領選の結果をどう受け止めたと思うか。
17年から中断してきた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を再開するなど、再び挑発行為に出る可能性は十分にある。過去を振り返ってみても、北朝鮮は米国や韓国で新政権が誕生するたびに、挑発行為を通じて出方をうかがってきた。
――バイデン氏の対北朝鮮政策についてはどうか。
これまでは米国の大統領が誰であっても、非核化を巡っては結局のところ、北朝鮮に対して「最大限の圧力」をかけるという以外に有効な戦略がなかった。
日本、米国、中国、韓国、ロシア、北朝鮮の6カ国協議や一方的な融和策といったその他のやり方は、ことごとく失敗している。そういう厳しい現実を直視すべきだろう。(聞き手=坂部哲生)
<プロフィル>
Anthony B. Kim(アンソニー・キム):
米ヘリテージ財団でリサーチマネジャーを務める。通商問題や投資をはじめとする経済の専門家。米ラトガーズ大学で経済学を学んだ後、ジョージ・ワシントン大学エリオット国際関係大学院で修士号を取得した。