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【中国】【コロナ後の新常態】「世界の工場」の対策(上)[経済](2020/11/02)

世界に先駆けて新型コロナウイルスからの回復を遂げている中国経済。ただ流行は終息したわけではなく、各企業は今もコロナと向き合う日々が続いている。「世界の工場」と呼ばれ、労働集約型産業が集積する珠江デルタ地域に進出する日系企業の生産現場の風景も、「全従業員にマスクを1日1枚支給」「食堂は利用人数を制限」とコロナ前と後では様変わりした。これら企業のコロナに対する取り組みや工夫を、2回にわたって紹介する。

「従業員のマスク着用を徹底している」。広東省の広州、仏山、中山、深セン、東莞といった都市に拠点を置く複数の日系メーカー関係者は、こう口をそろえる。コロナの感染拡大が落ち着く中、珠江デルタ地域でも事務系企業のオフィスではマスクを着用しないことが普通となっているが、製造業の現場では「各部門で1人でも感染者が出たら、その部門は一定期間動きが止まる」(広州松下空調器)、「食品工場として感染者は絶対に出さないよう注意している」(食品メーカーA社)といった観点から、各社はマスクを感染予防のためのもっとも基本的な手段と位置付けている。

マスクを着用して業務に当たる日系電子部品メーカーの従業員=10月30日、広東省仏山市

マスクを着用して業務に当たる日系電子部品メーカーの従業員=10月30日、広東省仏山市

各社ともマスク代は従業員の自己負担とはせず、会社が支給している。支給枚数は1日当たり1人1枚が基本。パナソニック傘下で家庭用エアコンなどを手掛ける広州松下空調器では、屋外での業務など高温作業に従事する従業員には1日2枚を支給している。

企業関係者によれば、マスクの相場はピーク時には1枚3元(約47円)まで高騰したが、現在は0.6元ほどに落ち着いているという。

広州松下空調器の従業員数は約4,000人。マスク代だけでかなりの出費となるが、同社経営企画室の藤原拓馬氏はこれを「必要な経費」と捉えている。工場で集団感染(クラスター)が発生し、業務が停止した場合の損失を計算すると、マスクへの支出は「保険のようなもの」と考えている。

食品メーカーA社では、1日平均5,000枚(生産以外の人員分も含む)のマスクを消費している。1枚0.6元として計算すると、1日3,000元、1カ月(稼働日20日)では6万元の出費だ。同社の担当者はマスク代について「一定の負担ではあるが、防疫対策上、削るわけにはいかない」と強調する。

各社はマスク着用以外にも、工場に入る際の体温測定や消毒の徹底といった防疫対策をとっている。中山の部品メーカーB社では、消毒液を散布する噴霧器を購入して各部署に配置し、1日1回欠かさず散布している。

多数の従業員を抱える労働集約型企業では、食堂の管理も一苦労だ。

仏山の電子部品メーカーC社では、昼食時に500人ほどのワーカーが食堂に集まる。同社では従業員同士が対面しながら食事することを避けるため、全員が一方向を向いて座るようルールを設定した。この方法をとると座席数が不足するため、昼食の時間を3回に分けて足りない分をカバーしている。

広州松下空調器は、2月から5月ごろまでは食堂では食事をとらず、事務所に戻って食べる方式を採用していた。感染拡大が落ち着いた現在は、座席をパーテーションで仕切るといった対策を講じている。ほか、食堂での会話を禁止している企業もあった。

労働集約型企業では地方出身労働者の比率も高く、寮を併設しているところが多い。ただ1部屋当たりの人数を減らすといった対応をとっている企業は少なく、対策があっても「既存雇用者の部屋は最大6人までとし、新規採用者は最大2人まで」(広州松下空調器)といった措置にとどめている。

日系電子部品メーカーの食堂では、対面しないよう従業員が一方向を向いて食事をとっている=10月30日、広東省仏山市

日系電子部品メーカーの食堂では、対面しないよう従業員が一方向を向いて食事をとっている=10月30日、広東省仏山市

■コストはアップとダウンの両面

各社ではコロナ対策が常態化するにつれ、マスクや消毒液といった防疫用品への出費が膨らんでいる。東莞で玩具などの受託製造を手掛ける永発国際創建(ウィングファット)の中込直樹総経理は、防疫用品購入に伴う出費により「コロナ前と比べてコストが概算で1割ほど増えたのではないか」と感じている。深センの部品メーカーD社では、2~3月ごろのコロナへの対応が最も厳しかったころ、マスク、体温計、アルコール消毒液、防護服、食料品など、医療・防疫用品の備蓄が足りず、かつ値段も高騰していたので想定外の出費となった。同社では、通常の運営状況と比較すると5~10%ほどコストがかさんだとみている。

食品メーカーA社では、「衛生用品」という項目に限ると、前年同期と比べて4倍の支出となる。一方で、同社の担当者は「社内旅行を見送ったり、食事会の規模を縮小したりとコロナの影響でコストダウンした面もあるので、トータルでみると、コストが増加したとは言い切れない」と説明する。中山の部品メーカーB社の担当者も「マスクなどの出費がかさむ一方で、社会保険料の減免といったコストダウンもあるため、全体としてコストアップしたとは単純に言えない」と話す。

■苦境の中でも「コロナ特需」

コロナは経済全体、各社の経営にさまざまなマイナスの影響を与えているが、それでも「コロナ特需」とも言うべき利益を享受して、危機を乗り切る一助とした企業もある。

広州松下空調器の藤原氏は「1~6月の売上高は前年同期を上回った」と話す。同社で生産する家庭用エアコンの6割は日本向け。日本では在宅勤務(テレワーク)が広がったことから、これまでエアコンを付けていなかった部屋に新しく設置する動きが目立ち、4~6月期の販売を押し上げた。

オーディオ製品を生産する東莞のE社では、日本や欧米向けの製品が売れた。いわゆる「巣ごもり消費」で需要が高まり、1~6月の売上高は前年同期をやや下回る程度で切り抜けることができた。中山の部品メーカーB社は今年前半、需要が急増した防疫関連製品の委託生産の話が舞い込んできたという。

コロナによるマイナス影響の軽減に関しては、地元政府による補助金などの支援策も一定の効果があった。

仏山の電子部品メーカーC社は地元政府から、春節(旧正月)連休明けの業務再開支援として「復工補貼」と呼ばれる補助金を受給した。1社当たり1回支給の補助金で、3月末に5万元の入金があったという。中山の部品メーカーB社は中山市当局から、2月17~29日に勤務した従業員に対し、1人当たり300元が支給された。

電気代と水道代の一部免除を受けた企業もある。広州松下空調器はこの免除措置により5~6%相当の負担が軽減された。1月から始まった免除措置は今も続いているという。また中央政府が2月から実施している社会保険料の減免措置では、「1~6月の売上高は前年同期比でマイナスとなったが、減免措置などによるコスト軽減効果で営業利益はプラスとなった」(中山の部品メーカーB社)といった効果も聞かれた。

防疫物資が不足していた時期には、現物での援助も行われた。ウィングファットの中込氏によると、春節明け当時はマスクが手に入りづらい状況だったが、地元の衛生当局から約100人分のマスクが無償で支給されたという。

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