スタートアップの資金調達・ビジネスマッチングサイト

【ベトナム】【コロナを超えて】ファミマ、「質」磨き売上増[商業](2020/08/11)

【第6回:ファミリーマート】ベトナムで南部を中心に141店舗を展開するファミリーマートは、中食や接客など店舗の質を高めることで売り上げを拡大中だ。新型コロナウイルスの感染拡大期は来店者数は減少したものの、ライフラインとして営業を継続。旅行者や出張者が激減している状況を踏まえ、今後は日常的にコンビニエンスストアを利用してこなかった層を取り込んでいくことを目指す。

ベトナムで新型コロナの感染が拡大した期間中も、ファミリーマートは「ライフライン」として営業を続けた。写真はホーチミン市1区の旗艦店「サイゴンスカイガーデン店」(同社提供)

ベトナムで新型コロナの感染が拡大した期間中も、ファミリーマートは「ライフライン」として営業を続けた。写真はホーチミン市1区の旗艦店「サイゴンスカイガーデン店」(同社提供)

ベトナムでは新型コロナウイルス感染症対策として、今年3月から4月にかけて、全国的に飲食店をはじめとする商業施設の営業規制や社会隔離政策が実施された。ファミリーマート・ベトナムの淺川龍彦社長は同期間中の店舗運営について、「コンビニは社会のライフラインなので閉鎖するわけにはいかない半面、従業員の確保に苦労した」と振り返る。不特定多数の来店者と接することに不安を抱える従業員に対し、全員に布マスクを配布。全店にアルコール消毒液を設置し、来店者にも使ってもらうようにした。従業員には安心して働いてもらえるよう、「衛生管理は社員だけの責任にするつもりはなく、会社の責任でもある」と繰り返し訴えるなど、社員の不安を払拭(ふっしょく)することに力を注いだ。

国内では飲食店の入店制限や一時閉鎖など、政府の通達が次々と発表された。ファミリーマートではBCP(事業継続計画)を今回初めて発動したが在宅勤務者用のノートパソコンが足りないなどの不備もあったという。めまぐるしく変化する状況に対応していくのに苦労したが、店舗では出勤できるスタッフが少ないことを踏まえ、衛生面での対策を兼ねてイートインコーナーを全て閉鎖。苦肉の策ではあったが、本社勤務と店舗勤務の社員を合わせて約2,000人全員が感染を免れた。

7月下旬には、中部を中心に新型コロナの「第2波」が発生し、南部でも気の抜けない状況が続いている。同社はイートインコーナーの座席を間引きし、利用者の距離を保てるようにしている。第1波に加え、今回の第2波でも社員と店舗スタッフに感染者は出ていない。

■「在宅で料理」の流れ強まる

外出制限期間の売り上げについて淺川社長は「売り上げと来店者数はマイナスだったが、客単価は大きく上昇した」と話す。もともとコンビニは1日に複数回店舗に来てもらうことで、日販を確保していくビジネスモデル。新型コロナの影響で前提は崩れたため、全体としては前年比でマイナスにはなったが、一時的にまとめ買いが増えた。ホーチミン市1区の旗艦店「サイゴンスカイガーデン店」では、売り上げが2倍になった日もあったという。「自宅で料理する人が増えたため、調味料の販売が急増するなどの影響が出た。輸入商材の納期が遅れるなど、品物によっては欠品も出た」。それでも、翌日にはトラックを追加して商品を配送する「特車配送」を実施したほか、取引先が直接店に品物を届けてくれることもあった。「お取引先に助けていただいた」(淺川社長)ことで、大きな欠品は出さずにすんだという。

■キャッシュレスの支払い2倍も課題

「中食や接客の質を徹底的に磨き、ベトナムでの差別化を目指す」と語るファミリーマート・ベトナムの淺川社長=ホーチミン市

「中食や接客の質を徹底的に磨き、ベトナムでの差別化を目指す」と語るファミリーマート・ベトナムの淺川社長=ホーチミン市

新型コロナの影響が大きく出た点として、現金以外での支払いがコロナ前の2倍以上に増えたことがある。ファミリーマートではクレジットカードやデビットカードに加え、国内10行以上のQRコードによる支払いに対応している。今後もキャッシュレスでの支払いは拡大していくと予想しているが、課題も見えた。商品・マーケティング・物流を担当する山内弘久ゼネラル・マネジャーは「端末の通信速度が時間帯によって大きく異なる」と指摘する。混雑時には、現金決済以上に支払いに時間を要することがあり、店にとっての利点が薄まってしまう。

大手監査法人デロイトの集計によると、ベトナム国内のコンビニの店舗数は1,289店で、前年比で約100店の増加にとどまる。売上高の伸び率も、前年比18%ほどと2014年以降でもっとも低い。ベトナムでも「サークルK」や、デジタル機器販売テーゾイ・ジードン(モバイル・ワールド)傘下の小型スーパー「バック・ホア・サイン」のように積極的に拡大戦略を進める企業もある。ただ、淺川社長は「店舗数の拡大も大事だが、ファミリーマートにとっては既存店の質を高め、売り上げを伸ばすことが最優先事項」と話す。

■週2回は食品工場を確認

同社はここ数年、「値段以外での差別化」を掲げ、中食やファストフードの味と質の向上、衛生管理や接客の質を引き上げることに注力してきた。中食の見た目は変わらないものの、品質は毎年のように向上させている。中食商品の担当者は週2回は工場に足を運び、衛生面や品質を確認。山内氏自身も中食の新規原材料は全て工場を点検し、メーカー商品も気になる点がある場合は製造拠点を訪ねることもある。各店で導入したコーヒーについても、産地、工場を訪問し品質にこだわるとともに、ベトナム人の嗜好(しこう)性を徹底的に調査し、商品化にこぎ着けた。

淺川社長は「閉鎖している店も一定数あり、ベトナム市場のスピード感からすると、石橋をたたきすぎているかもしれない」というが、過去数年の既存店の売上高は毎年10%以上の増加を続けている。中食はそれ以上の成長率だ。「コロナ後」は国外からの出張者や旅行者が激減し、「これまで来店したことがなかったベトナム人に来てもらうことが大事になる」と淺川社長は語る。家で食事をする人が増える傾向にあるトレンドを捉え、調味料や冷凍食品、生鮮食品といったラインアップも強化して流れをつかみたい考えだ。オフィスビルの小型店や既存の大型店強化などに加え、新規コンセプトの店舗や、従来のコンビニにはない専門性の高い品ぞろえを取り込んだ店舗などに挑戦し、成長戦略につなげていく。

関連記事

公式Facebookページ

公式Xアカウント