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【シンガポール】東南アのEC利用者3億人へ[商業](2020/08/17)

東南アジアで電子商取引(EC)の利用が急速に拡大している。EC利用者は年内に3億人を超え、既存の予測では2025年に達すると見込んでいた水準に5年前倒しで到達する見通しだ。新型コロナウイルス感染症の流行で消費者の購買行動が変化していることが背景にある。域内市場を狙う小売業者にとっては、実店舗とECそれぞれの役割に加え、EC独特の配送網の在り方などを念頭に販売戦略を立てることが重要となりそうだ。

東南アジアでECの利用が急速に拡大している=シンガポール中心部(NNA撮影)

東南アジアでECの利用が急速に拡大している=シンガポール中心部(NNA撮影)

米フェイスブックとコンサルタント会社のベイン・アンド・カンパニーが、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6カ国のデジタル消費動向についてまとめた報告書によると、6カ国のEC利用者は今年末までに、前年比11%増の約3億1,000万人に到達する見通しだ。

18年時点のEC利用者数は2億5,000万人で、15歳以上の総人口の57%を占めていた。19年はこれが64%に拡大、20年は69%まで上昇するという。

フェイスブックらは調査の一環として今年5月、6カ国の消費者1万6,491人を対象にアンケートも行った。「買い物の主要チャネルがEC」と回答した割合は44%となり、前年の30%から大幅に拡大した。

国別でみると、特にマレーシアが25%から48%へと2倍近くに増えた。東南アジアでは「過去1年間で、買い物の主要チャネルをECに切り替えた」と回答した人も41%に上った。

ECで買い物をする消費者が急増している背景について、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、パラニース・エンダムリ氏は「新型コロナ感染症の影響で、自宅で『巣ごもり消費』をする人が増えたため」と説明する。特に生鮮食品をオンラインで購入するケースや、料理宅配サービスの利用が増えているという。

経営共創基盤(IGPI)のシンガポール法人の坂田幸樹最高経営責任者(CEO)は、「ロックダウン(都市閉鎖)により、消費者のオンラインでの購買意欲が高まったほか、企業側も店頭販売ができなくなり、オンラインで売らざるを得なくなったことが背景にある」と分析する。

ドイツの経営戦略コンサルティング大手ローランド・ベルガーの下村健一氏によると、購買頻度の高い食料品についてはこれまで、消費者側の「実物を確認したい」、企業側の「鮮度保持や在庫管理が難しい」という理由でEC利用率が低かった。ところが新型コロナの影響で、ECを利用するという購買・販売行動が定着した。

■大手が相次ぎEC強化

フェイスブックとベイン・アンド・カンパニーの報告書によれば、EC市場は今後も大きく拡大する見込みだ。EC利用者数は25年に3億4,000万人に達し、19年比で21%増加する見通し。さらに1人当たりの消費額は、19年比で3.2倍の規模に拡大するという。

成長が見込める市場を狙い、大手企業は相次いでEC販売に力を入れ始めている。シンガポールのスーパー大手NTUCフェアプライスは、オンラインでの販売能力を現在の1.3倍に拡大すること目標に掲げ、人員拡充を進めている。

オランダ系ビール大手ハイネケン・ベトナムは、コロナ流行後からオンライン販売に注力。東南アジアでは地方在住者までスマートフォンが普及しているため、低所得層向けの販売を強化する上でも「デジタルチャネル」の開拓が非常に重要という。

英・オランダの食品・家庭用品大手ユニリーバのインドネシア法人のEC部門長、ヒラ・トリアディー氏は「あらゆる消費財の販売において、ECが重要になっている」と指摘。実店舗とECを融合させた「オムニチャネル」方式での販促に力を入れる意向を示した。

■変化に合わせた変革を

ローランド・ベルガーの下村氏は、東南アジアのEC市場の今後について、「配車大手のグラブやゴジェックが提供する『モビリティープロバイダー型のEC』が特に伸びる」と予想する。東南アジアでは、2社のようなサービスが消費者の間で浸透度が高いほか、バイクなどの物理的密度も高いため、即時の配送需要に応えやすい状況にあるためだ。

日系企業に対しては「リテールポートフォリオ(小売店の場所、規模、内容など出店状況の構成)を戦略として考えることが大切だ」とアドバイスする。例えば、実店舗はカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を高める場所、ECは日常的な購買を実行してもらう場所といったように、役割を分けることが重要という。

リテールポートフォリオを検討する上では、販売チャネルが増えると流通の複雑性が増すことを考慮し、流通構造の最適化やサプライチェーン(調達・供給網)の見直しも必要だと付け加えた。

ベイン・アンド・カンパニーのエンダムリ氏は、「域内のデジタル消費者は急激に増加している。消費者の行動がニューノーマル(新常態)を形成していく」と述べ、消費者の変化に注目し、企業自らも変革することの重要性を強調した。

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