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【ベトナム】供給網再編で東南ア増強へ[製造](2020/08/06)

コロナ禍を契機に、日本政府が東南アジア諸国連合(ASEAN)への生産投資を支援する補助金制度が始動した。本年度の補正予算で235億円を充てる予定で、第1回公募では採択された30社中15社がベトナムに資金を投じる。「脱中国」推進の事例と指摘する声もあるが、関係者に聞くと、実態は2000年代初頭からの「チャイナプラスワン」の延長だ。新たな危機を引き金とするサプライチェーン(供給網)の再編は、ASEAN強化という潮流を強めている。

補助金制度の活用で各社がASEAN生産を増強している。写真はマツオカコーポレーションがベトナム北部バクザン省に置く既存工場

補助金制度の活用で各社がASEAN生産を増強している。写真はマツオカコーポレーションがベトナム北部バクザン省に置く既存工場

正式名称は「海外サプライチェーン多元化等支援事業」。経済産業省から日アセアン経済産業協力委員会(AMEICC)事務局への拠出金で実施する補助金制度で、日本貿易振興機構(ジェトロ)が窓口となる。1件当たりの補助額は最大50億円。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が露呈させた供給遮断リスクを、予備電源を確保するように「複線化」することで軽減するという試みだ。

ジェトロの担当者はNNAに対し、「(残りの公募は)年内には必ず実施する」と話した。5月に開始され、7月に採択事業者が発表された公募は、「設備導入補助型」と呼ばれる設備投資が対象の1回目だった。設備導入補助型の2回目、「実証」「事業実施可能性調査」の1回目の公募に向けて調整している。

同制度を用いた事業費・補助金交付額の総額は、次回の公募への影響も考慮し、公表していない。申請企業の規模や日ASEANの供給網強靱(きょうじん)化の度合いに応じて事業費の補助率を決定する仕組みで、事業費として申請できる上限は、複数の中小企業が連携して実施する「中小企業等グループ」が67億円、「中小企業」が75億円、「大企業」が100億円。規定される補助率(それぞれ3/4、2/3、1/2)を乗算して1億~50億円(マスクや人工呼吸器など「特別枠」の下限は100万円)となる必要があり、最終的な補助金交付額は供給網の強化にどれほど寄与するかに応じた補助率調整指数(20~100%)を乗じて決定する。

■生産分散、中国からの移管は問わず

中国から始まったコロナ禍は、「世界の工場」と呼ばれる同国の生産を一時的にまひさせ、一極集中リスクを知らしめた。ただ、公募要領など公式書類には「中国」への言及はなく、日ASEANの供給網強化に寄与する事業ならば対象となり得る。

「中国生産は維持する」――。実際に第1回公募で採択された企業の関係者に事業の詳細を聞くと、このような回答が多かった。これまでASEANに構築してきた生産体制のさらなる強化に補助金制度を活用していく。

ベトナムが事業実施国に含まれる15社では、新型コロナ対策で需給が逼迫(ひっぱく)するマスクや防護服など医療品関係が8社。このうち、縫製大手マツオカコーポレーションは、同国4カ所目の工場構築を進める北中部ゲアン省のアンナム工場で、防護服の生産を開始する方針だ。

マツオカの広報担当者によると、コロナ禍を受けて中国で防護服を生産している。ベトナムはASEAN内陸部の中で日本に最も近く、同社も現地で日本向けアパレル製品を多く生産している。アンナム工場は、将来的にアパレル製品と防護服を需要に応じて切り替える拠点とする。

■電子や自動車、裾野より強く

補助金制度を活用したベトナム投資では、電子や自動車関連の生産を増強する企業もある。

電子回路基板大手のメイコー(神奈川県綾瀬市)は、ハノイにスマートフォン向けや車載製品の戦略的量産工場を置いており、18年からベトナム工場(ハノイ)の拡張を3カ年計画で実施中だ。投資総額は120億円。19年に第1期が完成し、第2期の投資を進めており、「計画に対して補助金を申請したもので事業計画は変わらない」(広報担当者)。中国では湖北省武漢市、広東省広州市にも工場を構えるが、中国生産に変更はないという。

信越化学工業(東京都千代田区)は、北部ハイフォンの工場におけるレアアース(希土類)マグネットの生産能力を増強する。自動車や家電のモーターなどに使用される汎用性の高い製品で、新規投資によりレアアースマグネット生産を担う割合は日本とベトナムが5割ずつとなる。

寸法測定や金型などを手掛けるプロニクス(京都府宇治市)は、北部ハナム省に置く工場で、エアコン部品生産の設備を来年末までに導入する。同社の担当者は「日本、ベトナム、タイに拠点があるが、ここ数年はベトナムへの投資に集中している」と指摘した。人件費などで優位性があり、投資の回収効率が高いとみている。

精密バルブメーカー、フジキン(大阪市)は、今年11月までに新設備を導入し、半導体製造装置用となるバルブ本体部品と流量制御器「FCS」本体部品を増産する。同国の工場の月産能力は、バルブの本体部品が4.3倍の2万6,000個、FCS本体部品が6.6倍の3,300個に増加。日本とベトナムの生産比率は、ベトナムの割合が従来はバルブ本体部品17%、FCS本体部品5%と低かったが、34%、21%に上昇する。

各社からは、中国の人件費が高騰しており、生産地から市場にシフトしているとの声も出る。経済発展に伴い輸出用製品の生産でアジア近隣国への移管が検討される一方、「中国国内向けは現地生産を継続する」(フジキンの担当者)という体制は続いていく見通しだ。

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