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【ベトナム】【コロナを超えて】丸紅、LNG火発に参画へ[公益](2020/07/31)

【第5回:丸紅】ベトナム国内の約1割の発電所事業に関わってきた丸紅が、液化天然ガス(LNG)を利用した火力発電所事業への参画を目指している。国内で稼働しているLNG火発はないものの多くの案件が検討中とされており、各プロジェクトの動向を注視していく。新型コロナウイルス感染症の影響で進むと予想される国内製造業のサプライチェーン(供給網)再編については、地場企業との協業や部門買収などを通じて支援していく考えだ。

丸紅がベトナム南部バリアブンタウ省で建設中の段ボール原紙工場は、年度内にも稼働予定(同社提供)

丸紅がベトナム南部バリアブンタウ省で建設中の段ボール原紙工場は、年度内にも稼働予定(同社提供)

丸紅のベトナムでの歴史は古く、1970年ごろからエネルギー事業を手掛けている。ベトナムで通算11件の発電所建設事業に関わっており、これは国内の発電所の10%ほどにあたる。現在もエネルギーはベトナム事業の柱の一つで、将来的な電力不足が確実視されている中、商機が依然として大きい分野だ。

現在、丸紅は世界で「サステナビリティー経営推進」を掲げ、再生可能エネルギー発電事業への積極的な取り組みやLNGによる発電事業を含むエネルギーのバリューチェーン事業への取り組みを増加させている。ベトナムでは今年1月、丸紅と東京ガスがベトナム石油ガス公社発電(PVパワー)と協力し、LNGによる火力発電事業について覚書を締結。条件について協議を進めている。丸紅ベトナムの井上聡一社長は「現在ベトナムでは、数多くのLNGによる火力発電事業が計画されている。丸紅として各案件の事業性を精査した上で、取り組める案件の選別をしていく」と語る。

現在ベトナムではLNGの受け入れ施設がなく、国内にLNGを用いた発電所はない。井上社長は「丸紅はインドネシアでLNGを使ったジャワ1ガス火力発電所を手掛けた経験がある。そこでの知見をベトナムでも生かしていきたい」と話す。これ以外にも、屋上に設置する太陽光発電や洋上風力発電などで商機を探っていく考えで、「将来的にベトナムで電力自由化が実現すれば、電力の売買・小売事業にも参入したい」と展望を示す。北中部タインホア省では事業投資案件としてギソン第2火力発電所の稼働を目指しており、コロナ禍にあっても工事の進捗(しんちょく)に遅れを出すことなく2021年と22年に商業運転を開始する見通しだ。

■工業団地では差別化がポイントに

新型コロナの感染が拡大した経験を踏まえ、製造業者の間では、国内での原材料・部品の調達率を高めることに関心が高まった。井上社長は「総合商社として、地場企業とのパートナーシップや部門買収などを通じて、メーカーのサプライチェーン再編に貢献できると考えている」と話す。「ベトナムはインフラと内需の両輪でビジネスができる」と同社長が語る通り、電力を中心としたインフラに加え、ベトナムは消費者向け事業でもチャンスが広がる数少ない市場。従来は原料を輸入してベトナムで加工し、外国へ輸出する「輸出加工型」のビジネスモデルが多かったが、現地で作ったものを現地向けに販売する「地産地消型」に関心を示す取引先は多い。

丸紅は洋上風力発電設備の据付事業を手掛ける英シージャックスに出資しておりアジアでも台湾などで実績がある。将来的には、ベトナムでも案件受注を目指す考えだ(丸紅提供)

丸紅は洋上風力発電設備の据付事業を手掛ける英シージャックスに出資しておりアジアでも台湾などで実績がある。将来的には、ベトナムでも案件受注を目指す考えだ(丸紅提供)

企業の生産や物流を支える工業団地事業について井上社長は「検討中だ」とし、「すでにベトナムには日系が運営する工業団地も多い。収益を上げるまでに時間がかかる事業なので、どう差別化するかがポイント」と話した。同社はフィリピンでデジタル技術を活用したスマートシティー(環境配慮型都市)の案件を開発中で、ベトナムでもそのノウハウを活用することは考えられるという。

■独資で段ボール原紙とコーヒー工場稼働へ

国内向け市場の事業で同社自身が取り組んでいるのは、段ボールの原紙工場の稼働だ。南部バリアブンタウ省に同社100%出資の新会社を設立し、年度内にも稼働の予定。近く試運転を開始できる見通しという。2年ほど前からベトナム人社員の日本における研修を開始しており、稼働時には約200人体制になる。伸長する国内産業・輸出産業に良質なパッケージを提供し、経済成長に貢献していく。

段ボールの原紙工場が主に国内向けの生産であるのに対し、世界への輸出戦略で一翼を担うことになるのが、22年に稼働予定のインスタントコーヒー工場だ。丸紅は1972年に、ブラジルのインスタントコーヒー製造会社であるイグアスに出資。世界各国に向けてインスタントコーヒーを輸出してきた。長年培った製造技術とノウハウを基に、ベトナムでは2019年にイグアスベトナムを設立。年間1万6,000トンを生産し、消費が伸長するアジアを中心に、欧米などを含めたグローバル市場に輸出する。

「コロナ後のメーカーのサプライチェーン再編に貢献したい」と語る丸紅ベトナムの井上社長=ハノイ

「コロナ後のメーカーのサプライチェーン再編に貢献したい」と語る丸紅ベトナムの井上社長=ハノイ

段ボール工場とインスタントコーヒーの工場は、共に丸紅の100%子会社となる。地場企業と提携する選択肢もあったが、事業のスピード感を重視し、独資での立ち上げに踏み切った。井上社長は「丸紅が独資で工場を立ち上げるのは、世界でも珍しいこと」と語り、「大きな投資を伴っているだけに、失敗はできない」と気を引き締める。

井上社長は、新型コロナを経て、企業にとっては人員の配置や事業の効率を見直す機運が高まっていると見る。現在は人件費の安さが投資誘致のポイントになっているベトナムだが、いずれは「人が増えていくリスク」が意識され、省人化のニーズが強まることは間違いない。「ベトナムにとって『次の次』のステージ」(井上社長)も見据え、日本の経験も踏まえて企業に自動化やリモート業務のソリューションを提案していく。

※次回の特集【コロナを超えて】は、8月中旬に掲載予定です。

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