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【ベトナム】【コロナを超えて】アシックス、越の生産6割に[製造](2020/07/27)

【第1回:アシックス(上)】社会隔離政策の緩和から3カ月がたったベトナムでは、各企業が「新常態」時代の事業戦略を模索する。アシックスは新型コロナウイルス感染症の影響で中国・武漢工場の生産継続を断念し、ベトナムでのフットウエアの生産比率が全体の6割となった。ベトナム生産の割合は過去10年で2.5倍以上に拡大しており、今後は仕向け先によってインドネシアやカンボジアとの役割分担を進め、リスクを分散していく。

アシックスは中国・武漢工場のフットウエア生産を停止したことで、ベトナム工場(写真)の生産比率が全体の6割に達した(同社提供)

アシックスは中国・武漢工場のフットウエア生産を停止したことで、ベトナム工場(写真)の生産比率が全体の6割に達した(同社提供)

アシックスのフットウエア事業は、主力のランニングシューズのほか、その他のスポーツ用シューズ、街履き用シューズとして展開している「オニツカタイガー」に分類される。年間の生産数は非公開だが、2019年の実績では地域別の割合は、ベトナムが49%、インドネシアが25%、カンボジアが15%。労働集約型という生産の性格や、OEM(相手先ブランドによる生産)業者が中国から東南アジアへのシフトを進めていたこともあり、アシックスもこれらの業者と連携をとりながら同地域の生産割合を拡大してきた。中国とベトナムの生産が全体に占める割合は、10年時点で中国が61%、ベトナムが19%だった。10年間でベトナムの生産は、2.5倍以上になったことになる。

19年時点で中国での生産は7%あったが、新型コロナウイルス感染症が流行したことで、武漢市にあった工場は4月の段階で生産継続を断念した。生産管理部の責任者は「中国工場には経験豊富な工員がおり、難易度の高い商品を作っていたため、生産終了は残念」とした一方、「遅かれ早かれ、生産終了は不可避な状況ではあった」と話す。同社では以前から中国生産の終了に向けて各種の調整をしていたが、新型コロナにより、そのタイミングが早まることになった。

他方、ベトナムではホーチミン市の方針で、4月中旬に工場の送迎バスに乗車する人数を半分にせざるを得ず、食堂の使用も密集を避ける必要に迫られた。ただ、ベトナムを含む東南アジアでの生産は「工場ではシフトをずらすなどの対応は必要だったが、完全な停止は1~2日」(生産管理部の責任者)にとどまった。インドでは長期の操業停止を強いられたが、生産比率は小さいため、大きな影響は出なかった。

武漢工場の生産終了により、中国の生産比率が20年は1%になる見通しで、今月までにベトナムとインドネシアに3%ずつが振り向けられた。グループ内での生産移管だったことで、他社工場への移管ほど手間はかからなかったが、人やモノの行き来がネックだったという。アシックス・ソーシング(ベトナム)の幹部は、「武漢工場に入ることが難しい状況が続き、移管した部分の生産再開は一部を除いて7月までずれ込んだ」と振り返る。

今年1~6月のベトナムの生産比率は約6割となり、同国に軸足を置く戦略はさらに進むことになる。ベトナムでは南部の7カ所、北部の2カ所に工場があり、生産は主に台湾や韓国のOEM業者が担う。

ベトナムでは日系製造業者の現地調達率が36%(日本貿易振興機構=ジェトロ調べ)と、周辺国と比べて高いとはいえない。ただ、アシックスは「特殊な素材や、アッパーの編み方によっては日本などからの輸入に頼ることもあるが、ベトナムで大部分は調達できるようになっている」(生産管理チームの担当者)。特に南部は原料メーカーなども増えていることで、生産地としての魅力が一層高まる傾向にある。

■米国向け生産はインドネシアも中心に

アシックスの19年の売上高は3,780億円。地域別では日本(1,209億円)が最大となり、欧州(956億円)と北米(789億円)がこれに続く。生産サイドで中心となるのは、欧州向けがベトナム、米国向けがインドネシアという。ベトナムは日本と経済連携協定(JVEPA)を結んでいる上、今年8月に欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA、EVFTA)が発効することで、欧州向けの輸出に弾みがつく。生産管理部の責任者は「ベトナムからEUにランニングシューズを輸出する場合、11.9%の関税がかかるが、EVFTAが発効すればゼロになる」と利点を説明する。

欧州向けの輸出では、カンボジアはEUから武器以外の全品目を無関税、数量無制限でEU圏内に輸出できる「EBA協定」の適用を受けている。このため、ここ4~5年は欧州向けの商品はカンボジアを中心に生産していくことを目指していたが、経済制裁によって同協定が撤回されかねない状況となっており、先行きに不透明感がある。反対にベトナムはEVFTAが発効することで、今後は欧州向け生産の比重が増えていくことは確実な情勢だ。ベトナムでは19年に環太平洋連携協定(CPTPP、TPP11)が発効したが、米国は同協定から脱退した。「米国が入ればなお良かったが、18年ごろから米中貿易摩擦が始まったことで、米国向け輸出のリスクを回避するため、結果としてベトナム生産の比重をさらに高めることになった」(生産管理チーム担当者)

ただ、リスク分散の観点から、米国向けの輸出はインドネシアを中心に据えていく。米国への輸出関税はベトナムとインドネシアが同率。ベトナムは対米貿易黒字が世界で5番目に大きく、18年には鉄鋼の一部が中国からの迂回(うかい)輸出と認定され、追加の関税をかけられた。スポーツシューズでも、同様の制裁関税が課される可能性はゼロではない。原材料の調達率はインドネシアよりもベトナムが先を行くが、将来的にはインドネシアの生産比率を上げていき、ベトナムとのバランスを取ることでカントリーリスク分散を図っていきたい考えだ。

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