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【ミャンマー】東南ア、最低賃金改定で攻防[経済](2020/07/01)

東南アジア各国で、最低賃金の改定に向けた議論が本格化している。ミャンマーやカンボジアでは労働者らが大幅な賃上げを求める一方で、新型コロナウイルス感染症による影響が深刻な企業側は、改定の先送りや一時凍結を望んでいる。ベトナムの政労使協議では、半年から1年の先送りが提案されている。

ミャンマーでは14の労働者団体が6月、2020年中に改定される最低賃金を現行の67%増となる1日当たり8,000チャット(約618円)に引き上げるよう求める要望書を、政労使の代表で構成される「全国最低賃金委員会」に提出した。

14団体の要求水準は、2年前と比べ14%増にとどまる消費者物価指数(CPI)の伸び率を大きく上回る。ただ14団体は、「労働者の生活費は1日当たり7,500~8,000チャット」とする独自に実施した調査の結果を基に、現行の4,800チャットからの大幅改定を主張する。

全国最低賃金委員会は、2年ごとに実施する法定最低賃金の改定に向けた検討作業を、7月から開始する。コロナ禍で業績が落ち込んでいる会社側は、賃上げに及び腰だ。ミャンマー商工会議所連盟(UMFCCI)のマウン・マウン・レイ副会頭はNNAに「経営者らは昇給に応じたいと考える一方で、ほとんどは最低賃金の改定の検討は年末まで延期してほしいと考えている」と明かした。

賃金改定の結果に左右されるのが、最低賃金に近い水準で働く労働者を多く抱える縫製業だ。安価な人件費を武器に輸出全体の3割を占めるまでに成長してきたが、1月以降はコロナ禍で原材料の供給元である中国からの輸入が停滞し、その後に欧州連合(EU)からの発注のキャンセルに直面するなど、苦境に陥っている。

■「賃上げはあり得ない」

縫製業の最低賃金を毎年改定してきたカンボジアも、状況は同じだ。クメール・タイムズ(電子版)によれば、労働組合の一部は、現行の月190米ドル(約2万300円)から250米ドル以上への引き上げを求めているが、企業側の反発は強い。

「新型コロナで業界が危機に直面している現在の環境下で、賃上げはあり得ない」――。カンボジア縫製協会(GMAC)のケン・ルー事務局長は労使協議で、最低賃金を一時凍結し、使用者が従業員と個別に賃金交渉することを認めるよう訴えた。賃上げすれば、輸出競争力が低下し、結果的に労働者の雇用を保証できなくなるという理由だ。

カンボジアの輸出のうち、縫製品は6割近くを占め、依存度はミャンマーを上回る。コロナ禍により、主要な輸出先である欧州連合(EU)と米国からの注文の大半が取り消された。

コロナ禍により、ミャンマーなどで失業者が増えている。写真はヤンゴン郊外の縫製工場=19年(NNA)

コロナ禍により、ミャンマーなどで失業者が増えている。写真はヤンゴン郊外の縫製工場=19年(NNA)

感染拡大をいち早く収束させたベトナムも、例年1月に実施している改定を見送る案が浮上している。政府諮問機関の国家賃金評議会(NWC)は6月23日の会合で、「現行の最低賃金を21年末まで維持する」と「引き上げ時期を半年延期し、上昇率を2.5%とする」の2案を審議した。労使の代表は、次回会合後の決着を目指している。

ベトナムでは繊維・縫製品は輸出全体の約1割を占めるが、6月の輸出額は前年同月から24%減少した。2割近くを占める電話・電話部品の輸出額も15%減だった。北部で組み立て生産されているサムスン電子のスマートフォンの出荷が減少しているとみられる。

■選挙戦の動向に左右も

3カ国に共通する課題が、コロナ禍による労働者の所得減だ。国連ミャンマー事務所は、同国の縫製分野の労働者約70万人の半数が、失業や給与未払いに直面していると推測している。カンボジア・GMACのケン・ルー事務局長は「GMAC加盟企業の工場で働く労働者75万人のうち、50万人以上に影響が出ている」と語る。

ベトナム統計総局(GSO)によれば、同国の都市部での失業率は第2四半期(4~6月)に4.46%と、過去10年で最悪の水準に達した。同期の労働者の平均所得は月630万ドン(約2万9,000円)と、前期より10%余り低下した。

各国政府は、輸出競争力を維持しつつ、労働者にどこまで配慮するかという政治判断を迫られている。ミャンマーでは11月に総選挙を控えており、「与党の国民民主連盟(NLD)が選挙戦で劣勢に陥れば、投票前に大幅な改定に踏み切る可能性もある」(日系企業関係者)との見方も出ている。

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