【マレーシア】マハティール氏の首相候補発表、野党に困惑[政治](2020/06/30)
マレーシアで、3月に選挙を経ずに政権に復帰した統一マレー国民組織(UMNO)を中核とする新与党連合・国民同盟(PN)の打倒を目指す、野党連合・希望連盟(PH)プラスの足並みが乱れている。PHプラスのマハティール前首相は27日、正式な決定を待たず地方政党のトップを次期首相候補に擁立すると発表。PHプラスを構成する各党から困惑の声が上がった。
マハティール氏は27日、サバ伝統党(ワリサン)の党首であるサバ州のシャフィー・アプダル州首相を次期首相候補に擁立すると発表。ワリサンのほか、国民信託党(アマナ)や民主行動党(DAP)などの幹部との25日の非公式会議で決定したと主張した。
一方、アマナのモハマド・サブ党首(前国防相)とDAPのリム・グアンエン書記長(前財相)は同日、マハティール氏の発表は事実と異なるとの声明を発表。2018年の総選挙で国民の信任を得て、UMNOを中核とする政党連合・国民戦線(BN)からの政権交代を果たしたPHが、シャフィー氏を次期首相候補として正式に決定するには、アマナとDAPの中央指導部の合意、さらにPHプラスの幹部会での承認が必要になると説明した。
マハティール氏らによる25日の非公式会議から外された形の人民正義党(PKR)は28日、PHプラスの次期首相候補は幹部会が決定するとした上で、「新しい提案は、いかなる指導者も政治的な道具にすべきではない」と釘を刺した。PKRは、アンワル・イブラヒム党首をPHプラスの次期首相候補に推している。
アンワル氏は元々、18年総選挙でPHが勝利し、マハティール氏が首相に返り咲いてから数年後に、首相職を禅譲される予定だった。今年2月にマハティール氏が首相を辞任したのは、後任問題を巡る政党連合内の内紛が発端。マハティール氏は現在も、PHプラスが次期首相候補にアンワル氏を推すことに反対している。
■膠着状態抜け出すオプション
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の中村正志氏は29日、NNAに対し、マハティール氏とアンワル氏は対立しており、どちらかを首相候補にすると(連邦議会下院で)過半数勢力を作れないと指摘。アマナなどの声明に基づけば、この膠着(こうちゃく)状態を抜け出すための一つのオプションとして、シャフィー氏擁立が検討されたと解説した。
中村氏によると、PHプラスは来月に議会が始まることを受け、首相候補の選定を急いでいる。野党側は、重要法案を否決することで、現政権が過半数議員の支持を得ていないことを示す作戦を立てている。この作戦が成功しても、野党側で過半数の支持を得られる首相候補がいなければ、政権を取り返すことはできない。今回の動きは、アンワル氏にこだわるPKR以外の勢力が、別のオプションを検討し始めたことを示している。
シャフィー氏の擁立に疑問を呈する声もある。マラヤ大学社会文化学部のアワン・アズマン准教授によれば、東マレーシアのサラワク政党連合(GPS)が下院で18議席を確保しているのに対し、ワリサンは9議席にすぎず、サラワク州からは不満の声が上がっている。同氏は、野党連合を代表する次期首相候補を、サバ州から出すことは不合理だとの見解を示す。
マハティール氏がシャフィー氏のほか、アンワル氏を第1副首相に、マハティール氏の三男であるムクリズ・マハティール氏(前クダ州首相)を第2副首相の候補に推したことについては、「アンワル氏の政治能力は、シャフィー氏やムクリズ氏より高い」と指摘。マハティール氏の今回の発表は「単にアンワル氏が首相候補になることを阻止し、PHプラスを思いのままにするための策略にすぎない」とし、「国民は世紀の茶番と見ている」と述べた。
■10月にも解散総選挙か
今後について、マラヤ大学のアワン准教授は、銀行の融資猶予期間が9月に終了し、企業倒産や失業者が増えて国民の生活が苦しくなることで、解散総選挙の動きが加速するとみる。「解散総選挙は、早ければ今年10月に実施される」と予想した。
ジェトロの中村氏は、ムヒディン首相には積極的に解散総選挙をやりたい理由はないと指摘する。現状ではUMNO、全マレーシア・イスラム党(PAS)との選挙協力がうまくいく保証はなく、マレー系政党間の候補者調整が難航するのは確実で、選挙は遅ければ遅いほど良いためだ。
ただ、秋の予算案など重要法案が次々に否決されて政府が機能不全に陥るような事態になれば、議会を解散する可能性はあるとの見通しを示した。