スタートアップの資金調達・ビジネスマッチングサイト

【シンガポール】入国制限で日系の事業に支障[経済](2020/06/11)

シンガポールが新型コロナウイルスの感染対策として実施している入国制限が、現地の日系企業の事業活動に支障をきたしていることが、シンガポール日本商工会議所(JCCI)と日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所が実施した調査で明らかになった。シンガポールは中国との出入国制限を一部緩和したが、日本との渡航が再開する見通しは立っていない。厳しい状況を前に、統括拠点としてのシンガポールの意義を問う声も出始めている。

JCCIなどの調査で、シンガポールに入国できない日本人駐在員が少なくとも225人いることが明らかになった=10日、シンガポール中心部(NNA撮影)

JCCIなどの調査で、シンガポールに入国できない日本人駐在員が少なくとも225人いることが明らかになった=10日、シンガポール中心部(NNA撮影)

JCCIとジェトロは8日に調査を開始。9日午後4時までに241社の日系企業から回答を得た。

入国制限のため新規赴任・再入国ができなくなっている駐在員がいると回答した企業は、全体の4割に当たる96社。赴任できていない駐在員は計190人、再入国できていない駐在員は計35人いた。両者の帯同家族は計191人が入国できない状況となっている。

回答企業から寄せられたコメントをみると、2~3月に出張や家庭の事情で一時出国した日本人が、滞在先の国や日本からシンガポールに戻れなくなっている例が多い。

4月の異動シーズンで新規赴任を予定していたトップマネジメント層や役員クラスの人員がいる企業では、入国できずにいることで、業務上の意思決定に支障が出ている。前任者の帰国後、後任者が赴任できず、現地で人員不足になっている事例もある。

各企業の要望としては「せめて(専門職向けの)就労ビザ(エンプロイメント・パス=EP)と家族ビザ(ディペンデント・パス=DP)保有者の再入国だけでも認めてほしい」という声が多かった。

JCCIの清水僚介事務局長はNNAの取材に対し「回答企業は241社にとどまるが、JCCIの会員だけでも823者の日系法人・個人がある。入国できずにいる駐在員の数は、もっと多いだろう」と語った。

■商談・営業活動、約8割に影響

駐在員の赴任・再入国以外にも、入国規制の影響は及んでいる。「シンガポールや周辺国での商談・その他の営業活動」に影響が出ていると回答した企業は186社と、全体の8割近くに上った。

「シンガポールや周辺国での取締役会・株主総会への出席」に影響が出ているとした企業も約3割あった。「地域統括拠点・機能としての事業活動」「シンガポールや周辺国での生産活動」に影響が出ていると回答した企業は、いずれも22%だった。

個別の意見では、「日本に出張できない」「東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に出張できない」「顧客が入国できず、新規機会が得られない」といった声も上がった。

日本だけでなくASEAN諸国との渡航が自由にできないことや、渡航後の長期にわたる隔離措置などの影響で移動コストが上昇する中、地域統括拠点としてのシンガポール拠点の在り方を見直す企業もでてきそうだ。

アンケートの自由回答には、「シンガポールに拠点を置く意味が薄れる」「販売拠点をタイなど他国へ移すことを検討する」「事業機能をシンガポールに集約していたが、各国に分散する方向性に関心がある」といった意見が寄せられた。

JCCIの清水事務局長は、シンガポールの日系企業について「周辺国や東南アジア全体を相手にビジネスを行っているところもある。オンラインで代替できる業務が明確になる中、『本当にシンガポール拠点が必要か』と問い直す企業は出てくるだろう」と述べた。

■日本との交渉状況不明

新型コロナの感染拡大防止策としてシンガポール政府は3月下旬から、短期滞在目的の外国人の入国およびトランジット(乗り継ぎ)を原則として禁止した。労働ビザを保有する外国人についても、重要産業に従事する場合を除き、現在も入国を許可していない。

8日からは中国の一部都市との渡航制限を緩和し、一定の条件を満たせばビジネスと公務での出入国を認めるようになった。ただ同様の措置の導入について交渉を進めていることが明らかになっているのは、ニュージーランドとマレーシアの2カ国のみだ。

日本を含むその他の国・地域について、政府は先の会見で「優先度の高いところから、複数の国・地域と交渉中」とするのみで、詳細は公表しなかった。

渡航制限緩和の交渉状況については、日本政府からも具体的な情報は得られなかった。シンガポール―日本間の渡航については、先行きに見通しが立たない状況がしばらく続きそうだ。

関連記事

公式Facebookページ

公式Xアカウント