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【日本】【食とインバウンド】ポストコロナ時代の成長市場[サービス](2020/04/28)

第10回

ビル・ゲイツにテマセクホールディングス(シンガポールの政府系ファンド)、ソフトバンク・ビジョン・ファンド――世界の名だたる投資家・投資会社がこぞって投資を増やしている市場があります。代替食品です。本コラムではこれまでその一角であるプラントベースド(植物性)食品を中心に紹介してきましたが、商品はそれだけにとどまりません。今月は「ポストコロナ時代」の新市場として盛り上がっている代替食品市場について考察します。

■肉食の見直し機運

新型コロナウイルス感染症(COVID19)の感染拡大が止まりません。WHO(世界保健機関)によるパンデミック(世界的大流行)宣言からすでに1カ月余り。感染症の中心地は欧州から米国へと移り、環境保護を訴えてきた人たちの声はますます大きくなっています。

ウイルスの発生原因はまだ特定されていませんが、少なくとも環境破壊がウイルスによる感染拡大を招いたというのが彼らの主張です。過度の需要が森林を伐採し、山の保水力を奪い、海面温度の上昇が北極圏の氷を溶かした。それが森の中や氷に閉じ込められていた細菌やウイルスが人間界に流出、そしてウイルスが変異したのだというのです。

それが正しいか否かは別として、こうした主張をする人たちの中でより注目されるようになっているのが肉食の見直しです。家畜を飼育するのに必要な大量の水と飼料。飼育中に発生するメタンガス。動物愛護の観点から問題視される屠殺処理。中国・武漢の生鮮食品市場から発生したと当初いわれた新型コロナウイルスの感染拡大は、肉食について深く考えていなかった人たちの意識も変えつつあります。

■ポストコロナ時代の成長市場

肉食の見直しの手段として存在感を増しているのが代替食品市場です。これまで動物性由来食品から摂っていたタンパク質を植物性から摂るように代替する食品のこと。数年前まではベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(動物性を食べない人)といった食にルールを持つ消費者向けのと考えられていましたが、昨今は環境へ配慮する消費者から健康的で安全な食を求める消費者へと市場を拡大しています。

チャートは米国における代替食品メーカーへの投資実績と2大代替肉メーカーの販売拠点を示しています。ご注目いただきたいのは、代替食品の種類と販売拠点の多さです。まず種類は肉だけではなく、卵、ミルク、アイスクリームもあり、豆乳やココナッツミルクを使った飲料も人気を博しています。次に販売拠点ですが、最大手のインポッシブル・フードは主にバーガーキングなどの飲食店を中心に全米約6,500カ所で自社製品を販売しています。代替肉二番手のビヨンドミートは主にウォルマートなどのスーパーを中心に8,400カ所で販売しています。米国の経済規模の約4分の1である日本の場合でイメージすると、全国のマクドナルド(約2,900店※1)の約半数、食品スーパー(約1万2,700店※2)の6分の1で代替肉が販売されていることになります。10年ほど前に起業した2社が急成長していることが伺えます。

環境に優しい食を摂る手段は他にも出てきています。昆虫食です。国連の調査によると、世界で昆虫を食す人は2億人に上ります。食用になりうる2,000種の昆虫のうち、最も食されているのはアジアで、世界一の消費国であるタイではバッタ、キリギリス、コオロギなど実に200種類の昆虫が食されています。また欧州でも昆虫は近年食品添加物として使われており、2018年には昆虫を「ノヴェルフード(新たな食品)」として位置づけました。それは「1997年5月1日まで欧州連合(EU)圏内ではほとんど誰も食べなかった食品」との定義によるものです。これによりヨーロッパでは昆虫が安全な食として認知され、牛や豚などの家畜に比べ低コストで飼育できる環境に優しい食材になり得ると期待されています。

■偉人たちが予測していた未来

今回のコロナ禍を過去に予測していたと注目されている2人の人物がいます。1人はフランスの作家アルベール・カミュ。もう1人はマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツです。カミュは1947年の小説『ペスト』の中で、ペスト菌は消滅せず潜伏し、いつか復活するであろうと記しています。またビル・ゲイツは2015年の講演で食糧や水を蓄える備蓄缶を携えて登場し、「今の世代が恐れるべきは、核爆弾ではなくウイルスだ」と指摘していました。彼らは「人間はウイルスの前では無力で、まだ対応するための準備ができていない」と述べ、当時から新型ウイルスへの警鐘を鳴らしていたのです。

ポストコロナの時代は「ウィズコロナ(コロナと共に)」の時代であるともいわれます。カミュが描いたように、新型コロナウイルスも完全に消滅することはなく、変異しながら自然界に生き残り続けます。そうした心理で日常生活を送るとすると、今後は衛生面はもとより環境への意識も自ずと高まると考えられます。学校教育の中でSDGs(持続可能な開発目標)を学ぶ子どもたちにとっては環境に優しい食は常識となっていくでしょうから、そうした消費者が今後減ることは考えにくい。食は最も身近な消費ですので、これまで以上に環境意識が高くなることでしょう。

代替食は補完食(サプリメント)から主食となっていくのか。代替肉に代替卵に代替乳。ポストコロナ時代の食卓は、これまでとはずいぶんと異なったものになりそうです。

(注釈)※1:日本マクドナルドホールディングス株式会社(2020年3月時点)※2: スーパーマーケット統計調査事務局(2020年4月時点)

<プロフィル>

横山真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

フリーフロム株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

1968年兵庫県生まれ。2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)、米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。19年フリーフロム株式会社を共同創業し、サステナブルフードへの投資運営事業をスタート。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学非常勤講師。

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