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【タイ】「宇宙の天気」観測レーダー、南部に設置へ[社会](2019/11/28)

タイの首都バンコクにある国立キングモンクット工科大学ラクラバン校(KMITL)は26日、日本の国立研究開発法人、情報通信研究機構(NICT)の支援を受け、南部チュンポンに、地球を取り巻く電離圏(大気の上層部分)で発生するプラズマバブルの観測レーダーを設置すると発表した。タイでは初めて、東南アジアではインドネシアに次ぐ2機目の観測レーダーで、2020年1月にも設置する。

レーダー設置を発表するKMITLとNICTの関係者=26日、タイ・バンコク(NNA撮影)

レーダー設置を発表するKMITLとNICTの関係者=26日、タイ・バンコク(NNA撮影)

プラズマバブルは、地球を覆う電離圏のうち、高度400~1,000キロメートルのプラズマ密度が高い領域で、密度が部分的に減少する現象。磁気赤道の近くで発生し、南北に広がりながら東進する。発生すると、人工衛星の電波が乱され、全地球航法衛星システム(GNSS)の測位の精度を狂わせる。

航空機の運航や無人自動車の走行などに危険をもたらすことから、プラズマバブル観測の重要性に対する認識は世界的に高まっている。

チュンポンの観測レーダーの建設費用は約5,000万円。オーストラリア製で、幅130メートル。八木アンテナ18本を備える。NICTがKMITLと協力して、同大学のチュンポン・キャンパス内に設置する。

チュンポンは磁気赤道から北へ3度(北緯10.72度)の近さにあり、プラズマバブルの観測には絶好の位置。レーダーの設置で、定常的な観測が可能となり、世界に貴重な情報を提供することになる。

NICTは、情報通信技術(ICT)分野の研究開発と事業振興を行う日本で唯一の国立機関。1988年以来、宇宙天気予報に携わり、宇宙天気予報センターを設けて、ウェブサイトのほか、電子メールで情報を提供している。ウェブのアクセス数は月7万件に達し、電子メールの配信先として、衛星運用機関、航空関係機関、電力事業者、アマチュア無線家など7,000件の登録がある。

現在の予報内容は、太陽フレア、磁気嵐、電離圏嵐など。チュンポンのレーダー設置後は、プラズマバブルの予報も入れる方針だ。

NICTは、バンコクにアジア連携センターを持ち、2000年にKMITLとICT分野の協力に関する覚書(MOU)を締結。03年には、宇宙天気予報の共同研究に関する契約を結んでいる。

26日の発表に際して開かれた記者会見で、NICTの平和昌・電磁波研究所長は「チュンポンへのレーダー設置は、宇宙天気の観測に正確さを増すための重要な一歩だ」と述べた。一方、チュンポン・キャンパスのワッタナチャイ副学長は、「レーダー設置はタイに取っても記念すべき出来事。研究チームを作って、情報の提供に努める」と抱負を語った。

<用語解説>

■宇宙天気予報

太陽は水素がヘリウムに変わる核融合反応によって光を出している。地球は自身の磁場(磁気圏)と超高層大気というバリアによって、太陽から「太陽風」と呼ぶ電気を帯びた高温の気体や、X線、紫外線などが地表に届くのを防いでいる。しかし、爆発(フレア)の発生など、太陽の活動状態によっては、X線や高エネルギー粒子などがバリアを突き抜け、人工衛星や送電施設に障害を与えたり、GNSSの精度低下、航空機の乗務員の被ばくなどの危険をもたらしたりする。

宇宙天気予報は、こうした太陽からの光や電波、高温の大気、そのバリアとなる磁気圏や超高層大気の状態を予測するもの。予報に基づいて、航空機の航路変更などの措置が取られることがある。今月7日、国際民間航空機関(ICAO)では、世界各国が3グループに分かれ、当番制で宇宙天気情報を提供するICAO宇宙天気センターの運用が始まった。

■プラズマ

固体、液体、気体に続く物質の第4の状態。気体の温度が上昇し、分子や原子が電離して陽イオンと電子に分かれて運動している状態。電離圏、太陽風などはプラズマ状態であり、宇宙の質量の99%以上はプラズマ状態だ。

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