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【日本】「世界の経済統合で最も成功」[経済](2018/08/10)

「東南アジア諸国連合(ASEAN)は世界中の経済統合で最も成功した事例ではないか」。ASEAN事務局のアラディン・リロ事務次長(ASEAN経済共同体=AEC担当)はこう話し、これまでの成果を強調する。リロ次長に経済統合の行方や、中国が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」への対応について聞いた。

ASEAN事務次長に今年3月就任したフィリピン出身のアラディン・リロ氏=8日、東京都港区(NNA撮影)

ASEAN事務次長に今年3月就任したフィリピン出身のアラディン・リロ氏=8日、東京都港区(NNA撮影)

――ASEAN自由貿易地域(AFTA)によって、今年1月からはASEAN加盟後発国のベトナムも完成車の域内輸入関税はゼロとなった。しかし、ベトナムは輸入車の環境基準検査を同国内で行うとする「非関税障壁」を設け、国産車を保護しようとしている。

ASEANとして、非関税障壁の撤廃に向けて動いている。自動車は各国ごとに規制が違うことがネックで、規格や輸出入手続きの統一化による貿易円滑化が課題だ。事務局はこの問題を認識しており、各国に非関税障壁撤廃を求めている。

――ASEAN事務局の権限強化が必要との声もあるが。

地域統合のイメージとして欧州連合(EU)を思い浮かべる人も多いだろう。EUは安全保障も含めた高度な統合だが、ASEANはEUをモデルとしていない。

執行機関である欧州委員会(EC)の権限はとても強く、経済統合を規制や法的措置に依拠している。一方、ASEANはこうした制度ではない。ASEAN事務局はわずか250人の小さな組織で、権限も限られている。しかし、ウェブサイトで非関税障壁のデータベースを掲載するなど、一層透明性を持たせ、非関税障壁撤廃に向けて動く予定だ。

――AECをどう評価するのか。AEC発足が約1年遅れ「時間がかかる」との指摘もある。

単一市場としての経済統合では、ASEANは世界で最も成功しているケースではないか。北米自由貿易協定(NAFTA)やEUと比べてもだ。

ASEANが発足した51年前、誰も経済統合をしようとは考えていなかった。それが今ではAECが発足するぐらいの劇的な変化が起きた。(当初から経済統合を想定し、経済水準が高かった)欧州とは違うことを考慮したい。

経済統合は一度にできるものではない。市場は変化するから、統合も進化し続けなければならず、終わりはない。

今後は、非関税障壁を撤廃しつつ、域内外の貿易だけではなくサービス・金融・通信の自由化も実施し、ASEANの競争力を高めていく。

■一帯一路にメリット

――中国の一帯一路をどうみるか。

一帯一路は新しい枠組みなので、影響力はまだ見えない。本当に実現できるのか、健全な財政や資金の裏付け、事業の持続性があるかが成否を分けると思う。しかし、交通インフラが不十分なASEANにおいては、コネクティビティー(連結性)を高めるチャンスと捉えたい。

――60億米ドル(約6,600億円)以上を投じるラオス高速鉄道の建設は、人口700万人弱のラオスにとっては巨大事業だ。ラオス政府の出資は1割程度とはいえ、債務が返済できなくなる恐れもある。

事業自体はラオスの競争力が高まる重要案件だと考える。

ラオスに限らず、大型インフラ事業は資金源のほか、事業を有効活用できるか、各国政府は再確認すべきだ。(返済免除と引き換えに中国に運営権を99年間貸与した)スリランカのハンバントータ港のような状況を、ASEANで起こしてはならない。

――一帯一路は中央アジアや中東、アフリカのインフラ開発が目立つ。開発が西へとシフトすることによって、ASEANの中心性・求心力が失われるのではないか。

世界がグローバル化する過程で、コネクティビティーが増し、(貿易などの)相互依存が増える。仮に中央アジアと中国の間の物流が整備されれば、ASEANからの販路拡大機会になるかもしれない。アジアにおけるASEANの中心性が損なわれることはない。

一帯一路の参加国は60カ国以上もある。域内だけではなく、域外の世界とつながることはASEANにとってメリットがあるとみるべきだ。(聞き手=遠藤堂太)

<プロフィル>

■アラディン・リロASEAN事務次長

フィリピン出身。私立アテネオ・デ・マニラ大学卒、ハワイ大学経済学博士。フィリピンの金融機関や、東京にあるアジア開発銀行研究所(ADBI)での勤務経験を持つ。ASEAN事務局では経済統合のモニタリングなどを手掛け10年以上勤務。今年3月から現職。ASEAN事務次長は分野ごとに4つのポストがある。

<メモ>

■ASEAN経済共同体(AEC)

ASEAN加盟10カ国によって15年12月末に発足。「単一の市場と生産基地」をメインに据え、一つの経済圏となることを目指す。通貨統合は実施しない。先行加盟6カ国は10年1月1日、ほぼすべての関税を撤廃済み。15年1月1日には、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4カ国)諸国も関税を撤廃したが、一部例外は18年1月1日まで撤廃が猶予されていた。

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