「人を創り、人に尽くす」M&A仲介のリーディングカンパニー株式会社ストライクの軌跡 株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦
1997年7月の創業以来、「人と企業の明日を創造する」というスローガンのもと、M&A仲介業務に従事されてきた株式会社ストライク。2016年6月に東証マザーズへ上場し、2017年6月には東証一部への市場変更を果たしています。
しかし、代表である荒井邦彦社長は、これまでの道のりが必ずしも順風満帆なではなかったと話します。公認会計士の資格を取得し、会社を設立し、上場に至るまで、どのような経緯や苦労があったのでしょうか。お話を伺いました。
(聞き手:仙石実・公認会計士、税理士/構成:山中勇樹・ライター)
無謀じゃなければ成功できない
(仙石)まずは、株式会社ストライクを設立された経緯から教えてください。
(荒井)流れとしては会計士の資格を取得してから創業していますが、起業をしたいということを先に決めて、その前の勉強と考えて会計士になりました。当時、会計士になると会社をお金の流れから理解できるようになると考えたからです。
会計士の資格を取得したのは、大学4年生のときです。年代で言えば、1992年に合格しています。その後、1993年の春に太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)に入社。ただ、実は大学は卒業し損ないました。
当時の上司に「大学を卒業できませんでした。あと2単位だけなので、卒業させてください」という話をしたら、爆笑されつつもOKをいただきました。ですので、入社後に大学を卒業しています。
(仙石)監査法人にはどのくらい所属されていたのですか?
(荒井)正式に辞めたのは98年の12月。28歳のときでした。93年に入社して98年に辞めていますので、5年9ヶ月ほど所属していたことになります。ただ、97年には会社を設立していますので、すでに創業20周年というわけです。
もともと会社をつくると決めたときは事業内容を決めていませんでした。その点、会計士としてM&A業務に携わる中で、いろいろな会社が変わっていく姿をみて、M&Aの仲介というビジネスは面白いと思い、事業をスタートしました。
当然、上司には反対されましたね。「無謀なことはやめろ」と。慰留されてから半年ほど待ちましたが、それでも諦めきれずに別の上司に話したら、「どうせやるなら無謀じゃなければダメだ」と、逆に背中を押されました。
今、振り返ってみると、そのときの上司の言葉が響きます。無謀じゃなければ成功しない。またある人は、「成長とはバランスを崩すことだ」と言っていましたが、まさに、その通りだと思いますね。歪みこそ人の成長につながるのです。
(仙石)創業当初はどのような組織体制だったのでしょうか。
(荒井)はじめは僕一人だけです。親から600万ほど借金をし、手持ちの資金とあわせて1,000万。これが資本金です。すでに結婚しており、子どもが生まれるときだったので反対されましたが。ただ、奥さんには認めてもらっていて。
それでも、経験したことのないM&A仲介事業は苦労の連続でした。デューデリジェンス(買収企業の調査)は経験していましたが、M&Aの仲介そのものは未経験だったのです。ですので、最初のうちは社外の監査役などもしていました。
M&Aの仲介事業が主体になるまでに、2年ほどかかりましたね。1件目の仕事がまとまったのは2000年の年末でした。成約までに1年かかってしまいました。今なら3ヶ月で成約できる案件ですが、当時はまだ慣れておらず、それほど時間がかかってしまったのです。
その後は2人目3人目というように人を採用し、生産性も向上しました。M&Aの仲介事業を中心として事業を進めていくと決め、必要な人材を採用し、少しずつ規模を拡大していきました。
(仙石)当時から目標にされていた企業などはあったのですか?
(荒井)いろいろな創業経営者の本を読みましたが、本田宗一郎(ホンダ技研工業)や江副浩正(リクルート)、盛田昭夫(ソニー)の仕事観が印象に残りましたね。自由な社風、言いたいことを言える環境こそ理想だと思います。働いている人々がイキイキとしているような会社ですね。
M&A仲介事業を主軸に据えて
(仙石)その後、2016年6月に東証マザーズに上場されます。IPOのきっかけについてはいかがでしょうか。
(荒井)やはり、同業他社に上場企業が増えてきたことが挙げられます。成長を目指していかないと衰退するという危機感からアクセルを踏んだ格好です。
現状では、M&A業界でも二極化が進んでいると思います。いわゆる小規模なブティック型のM&A事業者と、大手のM&A事業者です。不動産業でも似たような構図になっていますよね。そうなる前に上場すると決めました。
(仙石)御社には、日本初となるM&A探索サービス「M&A市場SMART」があります。このサービスをスタートした背景について教えてください。
(荒井)もともとアメリカに似たようなサイトがありました。会社を設立してしばらく経った頃だと思いますが、いろいろ調べていくうちに、「こういうサービスもあるのか」と。インターネットが日本で本格的に普及する前のことです。
当時、すでにアメリカでは「カリフォルニアのレストラン。年商100万ドルの会社が譲渡希望」といった情報が大量にウェブサイトに掲載されていて、非常に合理的な仕組みだと思ったのです。さすがはM&A先進国ですね。それを日本でも実現したいと思い、実践しました。
(仙石)昨今では、後継者不在による事業承継の問題やIPO目的のM&Aなどもありますよね。御社ではどのような案件が多いのでしょうか。
(荒井)圧倒的に多いのは事業承継です。結局のところ、後継者がいない会社は、自ら畳むか潰れるかしかありません。そこでM&Aを実施することにより、会社を存続させることができるのです。近年はそのような悩みが増えています。
ただ、その過半数は親族内承継を選択されています。たとえば子供に承継するというように。親族内承継は、いわゆる関係者への説得力がもっとも高いという特徴があります。世間的承認を得られやすいことがメリットなのですね。
一方でデメリットもあります。個人から個人への承継なので、事業を引き続き個人資産の範囲でしか展開できないという、「資本の制約」を受けることになるのです。それがM&Aであれば、より大きな事業展開を期待できます。つまり、より大きな資本のもとでさらに発展性が出るのです。
最終的には価値観の問題になりますが、会社をどうしていきたいのかと考えたときに、親族内承継だけでなく、M&Aという選択肢もあるということを認識しておいた方がいいのではないでしょうか。
人の人生を左右するM&Aの本質とは
(仙石)M&A業界のリーディングカンパニーという中において、今後はどのような事業展開を考えていますか?
(荒井)国内企業だけで考えてみると、僕らが担当しているのは全体の数パーセントほどだと思います。もちろん、まだ当社を知らない方もたくさんいますので、まずはより知っていただくということに注力したいと考えています。
あとは、マーケットシェアを広げていくことでしょうか。市場規模が大きくなれば、それだけできることも増えていきます。そのためには、より高い価値を提供していかなければなりません。
(仙石)事業を行っていくにあたり、“想い”の部分についてはいかがでしょうか?
(荒井)M&Aと聞くと、つい「大金が動く」とか「ドライな取引」という印象がありますよね。とくに外からはそう見られることが多いです。ただ、実際には、どんな会社にも人がいて、人で成り立っているのです。
M&Aにしても、最終的に決めるのは経営者であり、オーナーではありますが、その影響は社員や取引先、一般投資家を含めたすべてのステークホルダーに及びます。M&Aをきっかけとして職場環境が変わるかもしれませんし、取引関係が見直される可能性もあります。つまり、人の人生を左右するのです。
だからこそ、弊社では「人と企業の明日を創造する」という経営理念を掲げているのです。
よく「企業は人なり」と言われますが、まさにその通りだと思います。当事者間でM&Aが成立しても、人に良い影響が出るようでなければ意味がありません。そのような観点から業務に取り組んでいます。
(仙石)M&Aによって関係する人々の人生が変わっていくのですね。
(荒井)そうです。その意味でも、弊社では“経営理念”と“企業理念”を分けて考えています。「人と企業の明日を創造する」が経営理念であるのに対し、企業理念としては「人を創り、人に尽くす」を掲げています。
インターネットが普及し、ビジネスもインターネット上で行われること増えていますが、それでも最後は人と人。結局のところ、意思決定をするのは人間です。だからこそ、「人を創り、人に尽くす」ことを大切にしています。
(仙石)M&Aにおける「仲介」と「FA」の違いについてはどのようにお考えですか?
(荒井)どちらにもメリット・デメリットがあると思います。弊社としても、大半は双方から手数料をいただいていますが、場合によっては一方からのみいただくこともあります。そこはお客様の要望や取引の形態に応じて対応しているのです。
避けるべきは“機会損失”のリスク
(仙石)最後に、読んでいただいている読者の方へのメッセージをお願いします。
(荒井)何事も“トライ&エラー”が大事だと思います。M&Aの検討過程でも時折みられる光景ですが、M&Aを実行した場合の失敗リスクは議論されるのに対して、M&Aを実行しない場合のリスクはあまり真剣に議論されていません。
やらなかった場合のリスクは誰にも認識できないからです。トライがなければエラーもありませんが、反面、成功することも成長することもない。恐れるべきなのは“機会損失”なのです。
どんなに機会損失を繰り返していても、そのリスクを誰も指摘してくれません。その間、時間だけがどんどん過ぎていく。チャンスが失われ続けるのです。やはり、挑戦することが大事だと思います。
(仙石)やらないことによるリスク、いわゆる機会損失は、意外に大きなものかもしれませんね。
(荒井)そうです。それに、たとえ失敗してもそれほど大事にはなりません。本気でやりたいのであれば、考えるべきなのは「やるリスク」ではなく、「やらないリスク」です。
売却したらどうなるのか。買収したらどのような影響があるのか。そのようなときに、「失敗したらどうしよう」などと迷っていると、他の人に先手をとられてしまい、結果的にチャンスを逃してしまう事例は枚挙に暇がありません。
だからこそ、積極的に行動することが重要なのだと思います。
【プロフィール】
荒井邦彦(株式会社ストライク 代表取締役社長)
1970年生まれ、千葉県出身。一橋大学商学部卒業。公認会計士。1993年、太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)入所。株式公開支援、デューデリジェンスなどの業務を経験。1997年、株式会社ストライクを設立。代表取締役社長に就任。2016年6月に東証マザーズへ上場。2017年6月には東証一部への市場変更を果たす。