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「努力は裏切らない」 教会音楽に魅せられた少女が世界的オルガニストになるまで オルガニスト 井上圭子

音楽会が開かれた広いホールで。あるいは結婚式が行われた教会で。パイプオルガンが奏でる荘厳かつ柔らかな音色を耳にしたことがある人は多いだろう。世界で活躍する日本人オルガニストの井上圭子さんは、少女時代からオルガンの魅力にとりつかれ、不断の努力を重ねて今の地位を得たという。

「先が見えないからこそ、一生懸命やってきた」と語る井上さんの生き方には、ビジネスマンである私たちも大いに学ぶべきものがある。動画サイトなどで改めてパイプオルガンの音色を確認しつつ、井上さんの話に耳を傾けてみよう。

(聞き手:仙石実・公認会計士、税理士/構成:株式会社フロア/協賛:リリア音楽ホール)

教会音楽に魅せられて

仙石)オルガンを始めたきっかけや、オルガンという楽器の魅力などを教えてください。

井上 私は4歳からピアノを習っていました。通っていた小学校がミッションスクールだったので、毎朝「礼拝」の時間があり、そこでオルガンに惹かれるようになりました。礼拝は、いつもオルガンの演奏から始まります。弾いている先生の姿や、演奏されている音楽がとても気になりました。

中学校では選択授業の音楽で、レッスンを受けました。その後、東京藝術大学のオルガン科に入学し、オルガン中心の生活となりました。専門的に勉強ができて、大学時代はとても楽しい日々でした。それほど真面目な学生だったわけでもありませんが、時間がある限りオルガンを弾いていました。

仙石)その後、ドイツのフライブルクの音楽大学に留学されたそうですが、音楽に関して日本と海外では環境などで大きな違いはありましたか?

井上 まず、色々なオルガンを弾くことが出来ました。響きの良い教会に置かれているパイプオルガンから多くのことを学びました。良い楽器を弾くことが出来たのは、さすがに本場です。

私は恵まれた環境の中でよい指導を受けて、与えられた時間のすべてを使って練習に打ち込みました。毎日がダイヤモンドみたいに輝くキラキラした時間でした。

仙石)世界的オルガニストのジグモンド・サットマリー氏に3年間、師事されました。

井上 サットマリー氏のNHKホールで演奏を聴いた時、「どうしたらあんな音が出るんだろう」と、すごく感動しました。そこから先生の演奏に興味を持ったのですが、実際に教わるようになってからは、音の出し方やテクニックを身近で知ることができ、素晴らしい経験になりました。

人の息づかいのようなパイプオルガンの魅力

仙石)パイプオルガンの魅力という意味では、馴染みのない方もいらっしゃると思います。教会で聞く音楽というイメージがありますね。

井上 パイプオルガンはキリスト教と関わりが深く、教会の中で発展してきました。だから日本では縁遠い楽器でしたが、最近はコンサートホールに立派なオルガンが設置され、一般の方にも身近な楽器になってきたように思います。

私が一番魅力を感じたのは、同じ鍵盤の楽器でもピアノは弦を叩いて音を出しますが、パイプオルガンは笛の集まりで、笛に風を送って音を出します。人の息づかいにも似ていて、私たちは呼吸をするように演奏します。

笛が歌うというか、笛を歌わせるというか、人の息づかいに似て人間的な音がする点にとても魅力を感じています。

仙石)パイプオルガンの音色は、気持ちが安らぎ、安心するような感じがします。

井上 安らぎとか、喜びとか、人の心を癒すような音楽を私も届けたいと思います。

仙石)いろいろな楽曲の中で、一番好きな演奏曲はなんですか?

井上 バッハでしょうか。毎日弾いています。その他で好きなのは、20世紀フランスのプーランクという作曲家の「オルガン協奏曲」、オーケストラとの曲です。演奏会で取り上げられる機会は少ないですが、私は演奏するのが大好きな曲です。

仙石)外国の演奏家と比べて、日本人演奏家が優れている点はありますか?

井上 日本人は繊細で技巧的ですね。それから非常に勉強熱心です。その一方で、力で演奏するような曲はもしかしたら、日本人は苦手かもしれません。ただし、音楽に国境はないと思いますので、日本人だからどうだということは考えたことがありません。

私を含め、日本人が外国の音楽家と違うなと思うこともあります。例えば、コンクールの審査の時など、事前に準備をします。当然、時間に余裕をもって会場にも行きます。そんなとき、外国の審査員の方々はその場で準備をし、時刻になっても現れないことがあったり。「のんびりしているなぁ」と感じたこともあります。

仙石)日本でピアニストやオルガニストというと、男性よりも女性の方が多いというイメージがあります。ところが、海外では体格のいい男性の演奏家が多いそうですね。

井上 欧米では教会オルガニストとして生活が出来ます。教会もたくさんありますし。

練習の繰り返しで分かること

仙石)パイプオルガンを演奏する際の心構えというものはありますか?

井上 私の座右の銘は、「努力は裏切らない」というものです。毎日、時間がある限り練習したり、勉強したりしています。孤独な時間の繰り返しですが、そうした努力が、コンサートで演奏するときに報われると信じています。

仙石)事前準備が非常に重要ということですね。不断の努力を重ねていても、演奏会で緊張するようなことはあるのでしょうか。

井上 メチャクチャあります。やめたくなったり、引き受けなかった方がよかったと思ったり、そういうこともあります。そうした緊張を拭うために、時間をかけて準備して備えます。技術的な練習に加えて、オルガンに向かっていると発見もあります。

仙石)繰り返すことで、新しい何かが発見できるということですか?

井上 私たちが与えられているものは、作曲者が残した楽譜です。まずは楽譜を忠実に読み、そこからさらに自分の音楽としてクリエイトしていきます。楽曲や作曲家について勉強し演奏しているうちに、作曲家の意図が少しずつ分かったり、発見があったりするのです。

最高の遊びと言える境地

仙石)楽譜から「音楽」を紡ぎ出すために、日々、練習をされているのですね。長年演奏を続けることができた理由はありますか?

井上 私にとってオルガンは「最高の遊び」でもあるのです。楽しいことは他にもいっぱいあります。でも、やはり一番楽しいのはオルガンだと思えるのです。最高に楽しめて、最高に飽きない遊び。

楽器を「演奏する」という動詞は、英語で「play」といいます。この言葉には「遊ぶ」という意味もあります。私にとってオルガンの演奏は仕事ですが、同時に最高に楽しめる「遊び」でもあるのです。

先ほど「楽しい」と言いましたが、何をやるよりも「好き」といえるかもしれません。この年になって、余計にそう思えるようになりました。

仙石)素晴らしいですね。きっと苦しい時期もあったのではないでしょうか。「遊び」と思えるようになるまでには、どんな経緯をされましたか?

井上 ずっと夢を追いかけて走ってきました。しかし、ようやく今落ち着きながら、「究極の遊びだ」と思えるところにまできました。先が分からない状態で、毎回目の前にあることにチャレンジし続けながら、ここまできたという感じです。先が分かっていないからこそ、一生懸命にやってきたのかもしれません。

演奏の依頼があると、時には「できるかな?」と、不安になったこともありました。勉強して、練習して、成功させ、また次のものに向かう。その繰り返しです。与えられたことをずっとやってきただけですが、運も良かったのですね。

周りの方々や、演奏を聴きに来てくださるお客さまに支えられたことが大きかった。聴いてくださる方がいて、ようやく私たちのやっていることが活かされるのです。

仙石)パイプオルガンを通して伝えていきたいことはありますか?

井上 やはり、音楽を通して、生きる希望や喜び、そして勇気を、聴いている方々に届けたいと思います。私の音楽活動もこれまでやってきたことの集大成の時期にきたかなと。2018年は、ドイツのドレスデンにある有名な聖母教会で演奏します。それからスロバキアでコンサートツアーの予定もあり、今から楽しみにしています。

仙石)これからパイプオルガンを始められる方に向けてメッセージをいただけますか。

井上 夢を持って楽しんで弾いてください。夢に向かって邁進していくのはとても楽しいです。また、音楽は世界共通の言語です。世界中で通用する“音楽”という言葉がに与えられて幸いだと思います。これからも、皆様と音楽を共有し、共に喜びを感じていけたらいいなと思っています。

【プロフィール】
井上 圭子/ いのうえ けいこ 音楽家・オルガニスト
東京藝術大学オルガン科卒業、同大学院修了。ドイツフライブルク音楽大学、ソロ科を卒業、国家演奏家試験に合格。ソリストとして日本各地の主要ホールから招かれ演奏、また国内外のオーケストラとの演奏会にも数多く出演。日本コロムビアより10枚のCDをリリース、NHK『芸術劇場』『名曲アルバム』、『題名のない音楽会』ほかテレビ、FMに出演。ドイツ、フランス、デンマ-ク、スイス、アメリカ、ベルギー、チェコ、ポ-ランド、フィンランド、香港など各地での音楽祭、2013年ロシア、2015年リトアニアの国際オルガンコンクールの審査員にも招かれた。またオルガン講座、演奏会の企画、クラシックのジャンルを超えた共演者とのコラボなど幅広く活動。大森めぐみ教会オルガニスト。http://keiko-i.com