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「エグゼクティブに相応しい装い」銀座英國屋代表取締役 小林英毅 〜老舗企業が守る伝統と成長のための革新〜

camera_alt (写真:濱田 優)

1940年の創業以来、「世界で活躍するエグゼクティブに相応しい装いを提供する」という企業理念のもと、各界のトップリーダーたちに選ばれるオーダーメイドスーツを製造・販売してきた「銀座英國屋」。祖父の代から続く同社の歴史と伝統を引き継ぎ、さらなる高みへと導く若きリーダー小林英毅氏に、ビジネスで成功するための秘訣を聞いた。
(聞き手:早川周作・経営コンサルタント/構成:株式会社フロア)

銀座英國屋が提案する「装い」の基準

(早川)アパレルは市場参入がしやすく、競争も激しい業界です。テレビでは、複数着の同時購入で大幅割引する企業のCMが大量に流れ、郊外のスーツ量販店では、安売りを謳ったノボリも目立ちます。現在のアパレル市場の動向について、どのように見ているのでしょうか?


小林 数年前までは、「よりファッション性が高いもの」が好まれて、市場で販売されていましたが、現在は、「ビジネスシーンでしっかりと使えるもの」にシフトしてきたと思います。以前は「とにかく線が細ければいい」、「シルエットがスリムであればいい」というようなスーツが多かったのですが、それがかなり減ってきたと思います。

創業から一貫してこれまで銀座英國屋は、「エグゼクティブに相応しい装い」を提供してきました。そのためには「エグゼクティブの世界で、どういう装いが常識で、どういうスーツが受け入れられるのか」を軸に、ご来店されたお客様に対して適切な提案をすることが必要です。

当社の場合はそうした「エグゼクティブの世界での装いの常識」に対する知識やノウハウが蓄積されていることが当社の強みです。


(早川)流行に流されることなく、お客様がどこに出かけても適応できるような装いを提案できる基準(スタンダード)を、販売スタッフが持っているからこそ、銀座英國屋のスーツはエグゼクティブからの支持を受けているということですか?


小林 その通りです。例えば、財界のトップの方々の服装を思い浮かべてください。ものすごく細身のスーツを身に付けている方はいらっしゃらないでしょう。また、財界のトップリーダーに対して、世の中はそういうイメージを持っていません。

当社が一番大切している「装い」の基準は、「お客様が、どなたからの信頼を得たいと思っていらっしゃるのか?」ということです。ご自身の事業を発展させるためには、どなたからの信頼を得るべきなのか、そこに目を向けることが大切で、そのためには、その方々の常識を踏まえた「装い」が必要です。そこにこそ、お客様に対して当社が提供できる価値があります。

社員が活躍できる会社を目指す

(早川)競争が激しいアパレル業界では、店長になると残業に次ぐ残業で、家にいつ帰れるかわからないとか、アルバイトが休んでしまうと、代わりに何日も社員が連勤しなければならないとか、従業員に厳しい労働を強いる「ブラック」企業が多いと一般的には思われています。ところが、同じ業種、同じ業態であるにも関わらず、銀座英國屋はそれとは異なる労働環境を実現しています。それには何か理由があるのでしょうか?


小林 私が心掛けていることの一つに「よく使い、よく稼ぐ」というものがあります。実は以前、ある方から、「稼ぎ方は上手なのに、使い方が下手な経営者が多い」というお話を伺いました。私は「自分の会社で稼いだものを、どう使うべきなのか」ということを真剣に考えさせられました。その時に出した私の結論は「社員に還元すべき」というものでした。私たちのような業種は社員が活躍しないと稼げません。まずは社員の待遇改善を実行しています。たとえば残業撤廃です。閉店15分後には、仕事が終わっています。


(早川)それはかなり珍しいですね。どうすれば社員を大切にできるのでしょうか?


小林 私自身が決めたビジネスルールに、「銀座英國屋は安売りをしない」というものがあります。安売りをしなければ、売上に頼る必要はなく、無理な販売をせずとも、十分な利益が獲得できるのです。

また、無理な販売をせず、担当するお客様数を抑えることにより、お客様お一人当たりに掛けられる余裕を持てます。その余裕はお客様にお手紙を書く、お客様のお宅へお伺いする時間を持つなどのお客様とのコミュニケーションに充てられます。そのようにして長くお付き合いいただける関係を築けるようにしています。

このように「安売りをしない」と決めることにより、社員は仕事に追われるのではなく、主導権をもって仕事に取り組める環境を提供できます。


(早川)ビジネスの仕組みができているから、安売りせずに、社員を大切にできる。永続的に続く企業にするためには必要なことだと思います。そうして成長させた企業を、後継者に引き継ぐ時に非常に苦労される経営者の方が少なくありません。3代続く老舗企業を引き継がれた時に、苦労されたことはありますか?


小林 私が困ったというよりも、社員の方々が困っていたのではないかと思います。家業を継ぐために戻ってきた時、私は「自分が成果を出してこそ、周りから信頼されるようになる」と思っていました。これまでとはまったく違ったことに取り組めば、目立ちますし、成果も出やすいと考えて、実際にそうしました。おまけに「これをやってください」と社員にまで押し付けていました。

実はそういうやり方では、成果が出にくいのですが、当時の私は気が付いていませんでした。結局、社員からは理解が得られず、私が成果を出したとしても「社長さんは一人で頑張ってください。私は自分の仕事をしますから」というような態度になってしまい、結果的に組織が壊れていくという経験しました。


(早川)そのような局面をどのように打開したのですか?


小林 結局私は、「周囲の社員が結果を出してこそ、自分は信頼される存在になれる」ということを学びました。「それが経営者なのだ」ということを先輩方から教わり、そうした考え方に到達できたことで、事業がうまく回り出したのです。これまでやってきたものを尊重し、社員が活躍できるようにするということが、受け継いだ企業をさらに成長させるために重要なのだということに気が付きました。そこで私は、祖父・父親から引き継いだ「銀座英國屋は世界で活躍するエグゼクティブに相応しい装いを提供します」という企業理念をさらに追求することにしたのです。

「経営は愛だ」

(早川)銀座英國屋は創業1940年で、75年以上も続いた老舗企業です。長期に渡って事業が継続するために大切なことは何だと思いますか?


小林 私自身は未熟で、まだまだ分かっていないこともありますが、本質を突き詰めていくと、「経営は愛だ」と思います。結局、経営者は自分一人で、何かできるわけではありません。社員全員に活躍してもらわないと意味がないのです。その時、愛情がなくて、社員は動いてくれるのでしょうか?本当に働いてくれるのでしょうか?

社員にとって給料は大切です。しかし、会社が給料を払うだけで、社員が働くかといえば、それは違います。むしろ社員は、「社長は自分に関心を持っているのか?」「私のことを理解してくれているのか?」ということを重視しています。「私に関心を持ち、理解してくれる社長だから、働いてあげよう」と思ってもらえることが、ものすごく大切なのです。

だから私は、「経営は愛だ」と思い、その実践に挑戦しています。それを認識しながら経営しなければ、うまくいかないと思います。もちろん、自分自身に実力を付けることは必要ですが、本当に成功したいのならば、自分の力だけでなく、社員の方々に感謝をしながら、彼らの力を借りるのです。


(早川)ところで株式の移転など、具体的にはどのように事業承継されたのですか?


小林 私が保有する株式のほとんどは、父親と祖母から受け取りました。当時は会社の株式の評価も非常に低かったので、相続時精算課税制度を利用して、一気に譲渡してもらいました。現在、会社の株式はほぼ私に集中しています。ベンチャー企業では、ストックオプションを利用して、株式を配分することも多いと思いますが、老舗になればなるほど、意思決定権者は一人にして、「濁り」のない決断ができるようにするべきだと思います。もちろん、上場企業やベンチャー企業では違うやり方が良いのかもしれません。しかし、オーナー企業では、最後までやり切るために、株式は完全に集中させるのが良いと思っています。

また、株式を意思決定権者に集中させてしまえば、配当を出す必要もないため、社員に大きく利益を分配できます。この仕組みにしたからこそ、利益の源泉である社員の利益に対する意識を高められ、良い循環が生まれています。

事業継承し、さらに発展するために

(早川)株式譲渡としては最高の機会を利用されましたが、裏を返せば、厳しい中で事業継承されました。その中で会社を引き継ぐことに不安はありませんでしたか?


小林 実はものすごく不安でした。私は25歳の時に大手IT企業を辞めて、家業に戻る決断をしました。決め手となったのは、「25年間、君は誰のお金で生きてきたのか」というある方の一言でした。「そのことを考えた上で、家に戻るか、戻らないかを決めなさい」と言われました。その時に私は自分の人生を振り返り、この会社の社員が稼いでくれたお金で25年間生かされてきたという紛れもない事実に気が付いたのです。私は、「もし家業があるならば、まずは継ぐべきだ」と思っています。私の知り合いの中にも、「自分が家に戻ると、新しい事業ができなくなるから戻らない」と言う方が結構います。しかし、老舗企業には、それなりの資産が必ずあって、それを使えば事業再生は可能ですし、そうして稼いだ利益は自分がやりたい新規事業に注入することができます。

当社は中小企業です。年間1万着以上受注してしまうと、職人が忙しくなりすぎて、品質を保てません。上場企業やベンチャー企業などは違うのかも知れませんが、良い品質の商品を提供し続けるためには、受注すべき着数や売りあげるべき金額は、最初から決まっていて、むしろ、それ以上はやらないほうが良い。また、もし、やるべき新規事業がある時は、必ず、何かしらのシグナルが出ているので、私はそれに従えば良いと思っています。


(早川)最後に読者の方々へのメッセージをお願いします。


小林 「世界で活躍するエグゼクティブに相応しい装いを提供する」という、先代から引き継いだ当社の方針やスタンスは今後も変わらないでしょう。私たちは、すでに他のアパレル企業ができないような商品やサービスを提供しています。現在、国内のみならず、海外でもそれができる企業が非常に少なくなっています。それこそが当社が果たすべき役割、社会的責任だと考え、今後さらに成長できるように、社員と共に経営に取り組みます。

【プロフィール】
小林英毅(銀座英國屋・代表取締役社長) 
1981年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、企業経営に関わる業務用ソフトウェアなどを開発・提供するワークスアプリケーションに入社。システムコンサルティングや開発部門での業務を経験した後、2006年、25歳の時に、オーダーメイドスーツの老舗として知られる銀座英國屋に戻り、家業を継いだ。2009年、28歳で代表取締役社長に就任、現在に至る。

【会社概要】
社名:株式会社 英國屋
設立:1940年4月6日
事業内容 オーダーメイドスーツ製造販売 プレタポルテ&服飾品販売
従業員数:100名
本社〒104-0041 東京都中央区新富1-7-4 阪和別館ビル
Tel.03-6280-1522 Fax.03-6280-1528
HP:http://www.eikokuya.co.jp/sp/
店舗:東京、浜松、金沢、名古屋、奈良、京都、大阪など12店舗 (2017年3月現在)

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