【特別対談】業績連動型報酬という、企業と従業員の「約束」が組織全体を強くする | カクシン田尻様 × エンゲージメントストック仙石
個人と会社でしっかりと事前にルール決めができる
仙石:本日は、以前株式会社キーエンスに所属し、現在はその経験も活かして経営戦略コンサルタントとして活躍する株式会社カクシン代表取締役CEO田尻望さんにお越しいただきました。田尻さんと、エンゲージメントストックと業績連動型報酬が組織に及ぼす影響についてお話していきたいと思います。
エンゲージメントストックを簡単に説明すると、仮想の株式を従業員に付与し、仮想の株価を使って業績連動型報酬を算定し、従業員に報酬を現金で支給する仕組みです。営業利益に連動した報酬制度と言ってもいいでしょう。
田尻さんはこのような仕組みについてどのようにお考えでしょうか。
田尻:そもそも、営業利益と報酬向上を同時に達成する仕組みをもつことは、企業にとって非常に重要です。「そんなの当たり前でしょう」なんて感じる方もいるかもしれませんが、単に給与を増やすだけでは営業利益が低下してしまいますし、逆に営業利益を上げようと思ったら人件費を抑制すればいいとも言えます。つまり構造上、営業利益と報酬向上の両立は難しいのです。
とはいえ、会社の士気を高めるためには「業績が上がったら従業員の報酬もちゃんと上がる」という「約束」が必要です。ですが現実には、この約束ができていない会社が実に多い。だから従業員の士気が高まらないのです。
田尻:エンゲージメントストックから話が逸れてしまいますが、日本の中小企業において、仕組みが整っていないために利益を上げることができないという事例は、枚挙に暇がありません。その一つが、価値を価格化する仕組みができていないということ。その中の一例として言えば、「スピードは価値」ということです。特急料金を思い浮かべてください。通常は1週間の期限なのに、明日までにやってほしいなんて頼まれた経験が、皆さんにもあるのではないでしょうか。本来、この「特急で業務に対応する」のは、顧客にとっての価値なわけです。でも経営者がそれに気づかず(もしくは、気づいていても客先に言えず、、)「頑張って明日までにやります!」なんて引き受けちゃって、従業員には残業代を払ってタダでやっちゃうわけです(笑)。これでは当然利益に繋がりません。そのためこういったケースでは、ちゃんと料金表を用意して、顧客に特急料金を請求する。これが正しく利益を上げる方法です。このように、企業経営には正しく利益をあげるための「仕組み」が必要なんです。
エンゲージメントストックに話を戻すと、従業員が自分の仕事の成果に対して、インセンティブをもって働くための正しい「仕組み」になれると、期待しています。
「お金をもらって働く」から、「働いてお金をもらう」へ変化できる
仙石:実はエンゲージメントストックの前提として「お金をもらって、働く」という考え方と、その転換についてお話する必要があるんです。
南青山アドバイザリーグループ CEO 仙石 実
田尻:あ、やっぱりそうですよね。報酬を払っている経営者は、「お金をもらって、働く」というフレーズには違和感を感じるのではないでしょうか。私もその一人です。つまり、「お金をもらって、働く」という考え方は事実は異なるのではないか、ということを言いたいです。このフレーズは、従業員の目的が価値を生み出すことではなく、お金をもらう方に重きが置かれるニュアンスになっていますよね。
報酬とは本来、「お客様に価値を与え、その価値の対価が会社に入り、従業員に配分されるもの」です。つまり順番としては「お金をもらって、働く」ではなく、「働いて、お金をもらう」が正しい表現なのです。しかし実際のところ従業員の多くは「お金をもらって、働く」という感覚の方が多いと思います。なぜこんな現象が起こっているのでしょうか。
その答えは、先に述べた「約束」です。「業績が上がったら従業員の報酬もちゃんと上がる」という約束がない限り、従業員としては会社が価値を創出しようがしまいが、どうでもいいですよね。だから「お金をもらって、働く」という発想になってしまうというのが大きな理由の一つだと思います。ですが「約束」、即ち業績連動型の報酬なら、価値を出したら自分の報酬が増えます。だから自分が主体的に働くモチベーションが高まって「働いて、お金をもらう」という思考になっていくんです。
仙石:まさに、おっしゃる通りです。エンゲージメントストックは営業利益が増えれば従業員への報酬が増えるので、そういう意味で従業員に正しいインセンティブが働き、従業員が「働いて、お金をもらう」という思考につながりやすい仕組みとなっています。
個人よりチーム、チームより組織という価値観を醸成できる
仙石:田尻さんから「インセンティブ」という単語が出てきました。とはいえこの言葉は古くから使われており、決して珍しいものではありません。インセンティブを設定する際の注意点はありますか?
田尻:おっしゃる通り、インセンティブというものは珍しいものではありません。ですがその設定の仕方には注意が必要です。
個人に報酬を与えるインセンティブ制度においては、当然個人が頑張ることになります。それ自体は素晴らしいことなのですが、個人がそのノウハウを周りに伝えることはありません。他人が頑張ったところで自分の報酬が増えるわけでもないし、それこそ、教えることにはインセンティブがないからです。
田尻:ところが、私が所属していたキーエンスという会社では、教え合いが自然と発生していました。同社では「自分のノウハウを溜めるのはダサい」なんて言われるくらい、情報を開示するんです。なぜか。その理由が業績連動型報酬です。
例えば社員が2人で、自分が1億円を、もう1人が1000万円を稼いでいる会社が、業績連動型報酬を採用しているとしましょう。このままでは単純計算で、一人あたりの報酬の原資は5500万円です。ですがもし自分がノウハウを広めてもう1人が5000万円を稼ぐようになれば、報酬の原資は一人あたり7500万円になります。自分の稼ぎが同じでも、周りの稼ぎが増えれば自分への報酬の原資が増える。つまり業績連動型報酬が採用されている企業において個人は、ノウハウは周りに教えた方が得だし、教える方が合理的なんです。もちろん組織においても、成果の出るノウハウは個人が抱えるのではなく、みんなが共有したほうがいいのは語るまでもありません。
仙石:以前田尻さんにお話を伺った際に、キーエンスが日本一給料が高い会社になった理由に「営業利益分配型の組織」という点を挙げていて、目から鱗だったのを覚えています。
逆に、実は効果が見込めない施策はありますか?
田尻:効果がない報酬施策の一例に、一定のルールに基づいて計算されるのではなく、社長の気分次第で金額が変わってしまう期末賞与があります。賞与を渡してから数日は従業員の士気も上がるかもしれませんが、翌週には「給料が上がるわけでもないのに、なんでこんなに大変な仕事をしてるんだろう」と思い始めて、モチベーションが継続することはありません。頑張っても報酬が出るか出ないかわからないですからね。
仙石:確かに、期末賞与が出るか出ないか、出るとしても金額が社長の気持ち次第で決まるなら、従業員からしたらやる気はでないですよね。
田尻:そうなんです。繰り返しになりますが、会社と社員の間に「業績が上がったら従業員の報酬もちゃんと上がる」という約束があることが大切なんです。単なる相対評価では互いが蹴落とし合いが発生し、個人単位の絶対評価でも教え合うことはない。でも業績連動×相対評価の制度を採用すると、自然と教え合いが発生する。個人ではなくチームや組織を優先するようになる。それが結果的に自らの利益になる。だから私は経営者に、みんなが稼ぐための価値観を醸成する仕組みを構築することをオススメしているんです。
「頑張った分だけ報酬が増える」と思ってもらえるエンゲージメントストックは、そういった制度を構築できる可能性があるのではないでしょうか。
仙石:ありがとうございます。そうなるようにしていきたいです。
「人が足りないから増やしてほしい」から「自らの付加価値を増やす」へ意識づけを変化できる
仙石:続いては「人が足りないから増やしてほしい」というリクエストについてお話させて下さい。私もよく社内で言われるのですが(笑)。
田尻:私もコンサルティングをしていますので、様々な会社からよく聞きます(笑)。もちろん、本当に付加価値生産のための労働時間や労働力が足りていないなら、人を増やすことは問題ありません。
ですがこの発言、単に「自分の能力とは異なる領域で人が足りていない。だから人を増やしてほしい」という意味だったら、気をつけなければなりません。つまりこういうことです。多くの会社は縦割り型の組織なので、どうしても自分の組織ではやったことがない作業が発生します。その組織の人が新しく仕事を覚えればいいじゃないかという話ではあるのですが、とはいえ仕事を覚えたところで、業績連動型報酬や昇進につながるなどの「約束」をしていなければ新しい仕事を覚えてもその人の報酬は増えません。つまり、新し人を雇って、その人にやらせる。もしくは、できないという方が楽ですし、その人にとっては合理的なんです。だから、簡単に「人を増やしてくれ」というリクエストが組織から出てくるわけです。
田尻:でも業績連動型報酬制度が採用されていることを前提にすると、利益が増えずに人数が増えたら、自分の取り分が減りますよね。100の利益を2人で割ったら一人あたり50ですが、3人で割ったら一人あたり33。当たり前の計算です。仮に人を増やしたら、自分の取り分が減るんです。「自分の報酬を減らしててまで人を増やしたいの?」と聞かれれば、多くの場合で答えはNoでしょう。こうなったらむやみに「人を増やしてほしい」なんてリクエストは出てこなくなります。
一人あたりの価値を最大化するなら、むしろ人を増やさないほうがいい。自然とこういう思考になるのも、業績連動型報酬構築のメリットでしょう。
賞与、エンゲージメントストック、退職金で、短中長期のインセンティブ設計を
仙石:キーエンスは月次で営業利益を算出し、業績に連動して報酬を分配していると伺いました。ただ実際同じことを中小企業でやろうとしたら大変なのではないでしょうか。
田尻:一般的に中小企業は管理会計の仕組みを構築していないケースが多いですし、ゼロから構築しようするとかなりの金額がかかってしまいます。ここまで業績連動報酬のお話をしてきましたが、仙石さんのおっしゃる通り、実際に中小企業がゼロから自前で制度を構築しようとしたら大変でしょう。中小企業がキーエンスのような正確な報酬体系を構築するのは難しいと思います。
しかしほとんどの会社は毎月月次決算をしていて、営業利益が計算されていますよね。なのでそれをベースにするだけで導入できるエンゲージメントストックは、新たな管理会計制度を作る必要なしに導入できるという点で、中小企業の業績連動型制度を支えるものになるのではないでしょうか。
また、例えば行使条件を3~5年と設定することで、中期的なリテンション(離職防止)効果が生まれ離職率と退職コストが下がり、結果として営業利益が向上する点も見逃せないと思います。
仙石:その通りです。田尻さんの語るキーエンス型の給料・賞与の話は、約束としては短期的なものですよね。一方で退職金は長期的な約束です。スタートアップや上場企業ならこれに加え、中期的な約束としてストックオプションという選択肢がありますが、中小企業にはこれまでそれに該当するものがありませんでした。この点エンゲージメントストックは、中小企業の3〜5年程度の中期的な約束を促すものとして使えると考えています。3年ごとにエンゲージメントストックを出すことで中期的な目標を提示する。3年間頑張ったらボーナスが出るよという約束を示すことで、従業員のモチベーション向上に繋がり、会社としては退職防止効果を見込めるという効果が見込めます。
田尻:おっしゃる通りですね。短期・中期・長期の施策をうまく組み合わせて、従業員との約束を達成していくという視点は、中小企業にも不可欠だと感じます。
仙石:本日はありがとうございました。総じて、営業利益と給与の向上を同時に達成する仕組みとしてのエンゲージメントストックは、田尻社長の目から見ていかがでしたでしょうか。
田尻:仙石さんから実際に仕組みを説明いただき、営業利益と給与の向上を同時に達成する仕組み、その約束を達成するものとして、非常に良い仕組みだと思いました。
仙石:ありがとうございます。エンゲージメントストックは現状、営業利益連動型の報酬制度なのですが、今後、KPIに連動するようにもできたらいいなと考えているんです。企業価値をKPIにして報酬が上下する制度を導入した上場企業も登場してきている中で、中小企業でも似たような制度を構築できるようにしていきたいと考えています。引き続き、お力を貸して下さい。田尻さん、本日はありがとうございました。
田尻:こちらこそ、ありがとうございました。
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