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ECBがフォワードガイダンスを変更!

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ECB(欧州中央銀行)が金融政策の変更を発表しました。3月7日開催の定例理事会で、フォワードガイダンスの変更、新たな資金供給策の発表、そして経済成長率、インフレ見通しの下方修正等の発表をしました。それぞれの項目を詳しく説明しましょう。

フォワードガイダンスの変更

フォワードガイダンス(forward guidance)とは中央銀行が前もって将来の金融政策の方針を表明することです。ECBの場合には昨年6月のフォワードガイダンスで、政策金利は少なくとも2019年夏までは現行の水準を維持すると声明文で明記されていました。
しかし、今回の声明文では、主要政策金利は少なくとも今年末または2%の中期的なインフレ率を下回るか、近づかないと判断される限りの間は、現行の水準にとどまると明記されました。

今年に入り、ユーロ圏の経済指標は景気後退を示す数字が相次ぎました。特に主要国独、仏経済指標に悪い数字が続出しました。独昨年第4四半期GDP(国内総生産)0.6%前年比と、第1四半期2.3%から悪化の一途をたどっています。
ユーロ圏全体の数字を見ても第4四半期1.2%とこちらも第1四半期2.5%から悪化傾向が鮮明でした。そのため、物価上昇もECBのインフレ目標2.0%からは程遠いものでした。その要因は様々推測されます。
一つには、米中貿易摩擦を主要とするアメリカの輸出入の動きに対し、グローバルにトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の貿易政策は影響しています。ユーロ圏、特に独との貿易赤字を問題視する動きにあり、トランプ大統領が改善するように求めていることで、米国への輸出が落ち込む傾向があるようです。
またロシアへの経済制裁が依然と尾を引いており、貿易額が上昇していません。エネルギー政策で米国からの圧力がかかっています。
さらにBrexit(英国の欧州連合からの離脱)問題も影響しているようです。今月末の離脱期限を迎え、英政界は依然としてその動向に不透明感が見られます。離脱期限の延長、再国民投票の観測があり、まだまだ見通しが立っていない現状と言えます。

経済情勢への危機感

このような不安材料から、ドラギECB総裁以下メンバーはユーロ圏の景気後退が明確になりつつある中、金融市場に事前に政策金利を年末かそれ以降の必要な期間、現行の金利水準を維持しておいた方が良いとの判断メッセージを伝えることにしました。
現在のECBの主要政策金利(main refinancing operations)0.0%、貸出金利0.25%、預金金利マイナス0.40%となっています。ゼロ金利政策をしばらくの間続けることになります。
この金利体系では、金融機関はユーロ圏各国中央銀行に預けてもマイナス金利0.40%、つまり手数料を払って預金することになります。金融機関は積極的に民間企業に貸し出してくださいというメッセージを発しています。
それほどECBは現在の経済情勢に危機感を持っており、そのための金融政策をこれまでの想定以上に継続しなくてはといけないと認識していることになります。

TLTRO-Ⅲの発動

TLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)の第三弾を発表しました。昨年末で資産購入プログラムは終了を決定しています。それでこれまで景気後退局面で実施していた資金供給策であるTLTROの第三弾を発表ということになりました。金融機関はこの資金で企業を支えることになります。
今年9月から開始するこのオペは、2021年3月まで続くことになります。2年物資金供給であり、金利は主要政策金利である0.0%で資金供給されることになります。
また期日到来する資金購入プログラムの資金7,000億ユーロのロールオーバー(資金の延長)も実施することも決定しました。これもECBが景気後退懸念で企業の資金繰りに滞りが起きるのではと心配を払しょくしたい表れと言えます。

ユーロ圏の景気予測の見通しをECB経済スタッフが、ECBの声明文とドラギ総裁の記者会見で裏付け資料として同時に発表されました。下記のグラフ(出所:ECB)をご覧ください。インフレ率予想、経済成長予測を示しています。濃い青色が今回の予測ライン。薄青色が昨年12月時点の予測です。
これを見ると、インフレ、経済成長共に大幅に下方修正していることが分かります。今年はインフレ率が1.2%と前回の1.6%から大幅に下方修正、そして経済成長率も1.1%と1.7%から大幅に下方修正していますので、経済成長率は直近昨年第4四半期:1.1%成長と低成長を裏付けています。

来年以降の予測を見ても、大きく改善する数字にはなっていないことが重要です。2.0%~3.0%成長といった米国のような高経済成長は当面期待していないことがECBスタッフの中で認識されているようです。グローバルな貿易問題の長期化、Brexitの先行きの不透明感が根底に横たわっています。

ユーロ圏は政治的不安定期に

欧州全体を見渡すと、政治的にはポピュリズムが台頭してきていることも要因と言えます。財政再建の方向に政府が向かっていても、どうしても政治的にその方針を阻止しようとの動きが出てきてしまう政治状況ではないかと思います。
独はメルケル政権が求心性を失い、来年にも政権交代しそうな雰囲気があります。またフランスもルペン党首率いる国民戦線が勢力を伸ばしていますし、スペインでは、サンチェス社会労働党(PSOE)政権が4月28日に総選挙を実施することを選択しました。これも財政再建の道筋を阻止する動きと解釈します。
スペインでは昨年末のアンダルシア州地方選挙でVOXという極右政党、つまりポピュリズム政党が誕生しました。イタリアでも政権運営に脆弱性を示していて、主要ユーロ圏の国では最も財政悪化が懸念されています。
ユーロ圏のほとんどの国々で財政再建、景気対策に積極的に政策を打てない政治状況が出てくることが予想され、それがECBの経済予測に表現されているのではと思います。

ユーロ為替相場予想

ECBの金融政策の変更で為替はどのようにうごくのでしょうか?下記は過去1年間のユーロ/ドルの動きを示しています。直近の動きにトレンドラインを引いてみました。
ECBの政策金利維持の方針が長く続くことから、ユーロ金利は当面上昇することはなく、為替相場を形成する重要要因であるドルとの金利差はむしろ拡大するのではと観測されています。つまりドル買い・ユーロ売りの相場が続くと思われます。
対円クロス相場でも同様の考えが支配し、ユーロ下落相場は当分の期間続くのではと筆者は予想します。

まとめ

投資家の皆さんは今年のユーロ金融商品には相対的には警戒した方が良いのではと思います。ユーロ圏債券市場は例外ではと思います。ECBの金融政策により、ユーロ圏債券市場では買い意欲(安全志向)が強く、金利下落の動きになっています。
低金利政策が続く限り、債券市場活況の動きとなります。イタリア、ギリシャなど財政問題に焦点が当てられる国の債券は例外と言えます。株式市場でも大きく上昇することは当面期待できないため、為替が対円に対して下落するのではとの懸念があります。円での受け取りにはマイナスと言えます。ユーロ金融商品の取引には慎重に行きたいことを認識しましょう。

«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。

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