原油相場下落!金融商品への影響は
原油価格と商品相場が下落しています。今回のレポートでは、その下落相場が各国経済と各中央銀行に与える影響を考察したいと思います。
原油相場と国際情勢
原油相場が著しく下落しています。下記のグラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)は今年の原油指標銘柄WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)の価格の推移を示しています。
今年前半は50ドルを目指した上昇相場、そして10月中旬に70ドル台で推移していました。しかし10月下旬から下落に転じ、現在は50ドル台前半で推移しています。
原油相場には、イランへの経済制裁という政治的匂いのする問題が横たわっています。米国がイラン産原油の輸入を禁止するように同盟国に求めていました。しかし実際にはイラン産原油の供給が多いようです。OPEC(石油輸出国機構)は減産して価格維持をしたいところです。
主要産油国であるサウジアラビアは、10月上旬に自国国籍のジャーナリスト殺害事件が尾を引き、国際的には辛い立場に現在置かれており、価格維持のため、減産を強く求めることはできないようです。こちらも実際の所では、サウジアラビアが夏から増産しています。
また主要産油国ロシアも生産を増やしているとのことです。こちらも西側諸国からの経済制裁を受けており、石油増産により、外貨獲得の手段としての国策のように思います。そして米国の原油の週間在庫では、比較的余剰のようであります。
政治的には、金融市場では米中貿易摩擦がメインテーマであり、米中がお互いに追加関税を課す方向であれば、お互いの経済に相当影響が出てくるのではとの懸念が市場に流れることになります。
景気後退であれば、ガソリン消費が縮小し、企業ではエネルギーとしての原油需要が減退する懸念があります。米国シェールオイル・ガス業者の採算分岐点は60ドル前後と言われており、テキサス州中心にこれらの業者の業績悪化の懸念もあるように思います。これらの要因から、原油相場が下落に転じているとも言えます。
相場は米経済の後退を懸念する動き
商品相場を見てみましょう。下記グラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)は商品相場の指標であるCRB(コモディティー・リサーチ・ビューロー)の1年間の価格の推移を示しています。
こちらも5月~6月期にはチャート上の節目である200を上回り、先高観が強い相場となっていました。10月中旬以降には200を下回り、現在では180前半の価格で推移していますため、上記原油相場と同様なチャートになっています。
ここでも、先行きの米経済の景気後退懸念が商品相場に表れているのではないかと考えます。CRBの主要構成商品である小麦、トウモロコシ、大豆、肉類などの米主力商品は、対中貿易摩擦の中で、米国の輸出商品であり、中国での追加関税の対象商品となります。
米国が追加関税という鉈を振るうと、中国は対抗策を直ぐに発動するという悪循環に陥っています。メディアでは、主力生産地である米国中西部の農家の悲鳴を紹介していました。ここでも、景気後退懸念と、米中貿易摩擦の二つの要因が重なり、相場が下落していると言えます。
経済指標を見てみましょう。OECD(経済協力開発機構)の最近発表のGDP(国内総生産)の経済見通しを検証します。下記の表を参照ください。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
世界 | 3.7(0) | 3.5(-0.2) | 3.5 |
米国 | 2.9(0) | 2.7(0) | 2.1 |
ユーロ圏 | 1.9(-0.1) | 1.8(-0.1) | 1.6 |
日本 | 0.9(-0.3) | 1.0(-0.2) | 0.7 |
中国 | 6.6(-0.1) | 6.3(-0.1) | 6.0 |
注:%、前年比、かっこ内は9月予測からの変動幅 |
今年の見通しでは、9月時点からユーロ圏、日本、中国の数字が下方修正されました。今年はここから大きく景気後退は予測していないと言えます。来年は、世界全体の数字が今年よりも-0.2%低く、また中国の見通しが大きく低下する予測です。米国、ユーロ圏も若干の景気後退局面があるとの予測です。
米中貿易摩擦の影響のリスクを加味しているかは不明ですが、双方の国々で景気後退のリスクがあると予測しています。そして問題は2020年です。米国は2.1%、中国6.0%と大きく景気が落ち込む予測となっています。
日本は来年10月消費税引き上げがあり、その結果2020年は0.7%の景気予測と低めになっています。この数字全体を眺めていると、来年、そして2020年は景気後退局面をシナリオとして考えておく必要がありそうです。これも商品相場の相場下落と関連がありそうに思います。
FRBメンバーの発言に注目が高まる
米国で見ると、最近の主要経済テーマが米中貿易戦争になっているようで、投資家も悲観的な見方をしています。FRB(米連邦準備理事会)は、年内1回の利上げ(0.25%引き上げ、FF金利=フェッド・ファンド・レートの上限金利を2.50%とする。)は実施すると市場は予想し、織り込まれていますが、問題は来年以降です。
ハウエルFRB議長以下メンバーのコンセンサスでは、FF金利の引き上げサイクルの最終金利は概ね3.00%~3.25%に現状では置いているのではないかと思います。米中貿易摩擦、そして景気後退局面、そして最初の段で記述した原油・商品価格が景気後退局面を織り込む相場観になっていると言えます。
したがって、市場参加者の間では、来年以降の利上げの回数は2回程度に収まり、2019年後半もしくは、2020年前半にも打ち止め感が出てくるのではないかという声が聞かれます。そんなわけで、どうしてもタカ派と考えられているFRBメンバーの発言には注目が集まります。
それでは長期金利の動きはどうでしょうか?こちらでも原油・商品相場観が影響を与えていると言えます。原油・商品相場の下落はインフレ率が低下する要因であり、長期金利の低下を促します。
そして最近のリスク回避の資金の流れの中で、債券買いは利回り低下の動きがあることから、安全資産として見直されているのではないかと考えます。
下記グラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)は10年米国債の1月からの利回りの推移を示しています。年初は3%へ利回り上昇一直線でした。
年後半は3.25%をつける場面もありましたが、米中貿易摩擦、原油・商品相場の下落を反映、そしてリスク回避の米国債買いの動きから、3%前後で推移しています。筆者の今年前半の予想とは異なり、シナリオ修正を迫られています。来年は素直に利回り上昇とは行かない金融市場環境が続きそうです。
さいごに
原油・商品相場は、現在の金融市場の環境を率直に明確に示してくれる指標であると筆者は考えます。一方向に長く続く傾向があり、株式、債券市場の投資家は時々目を向け、参考にする必要があると思います。筆者はポートフォリオの中に積極的に原油・商品相場の商品を組み込むことには否定的です。あくまでのリトマス紙の範疇で考えたいと思います。
「木を見て森を見ず」の格言があるように、投資商品の各指標を遠くから眺めて、現在の各金融商品の立つ位置を推測し、行動することが、皆さんのポートフォリオ資産を増やしてゆくことにつながるのではと考えています。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。