日本企業のM&Aが過去最多を記録 ── ベンチャーや事業継承の国内案件が大幅増
2017年度に日本企業が関わったM&A(企業の合併・買収)件数は、前年比15%増の3050件(M&A調査会社レコフ集計)。12年ぶりに過去最多の件数を更新し、この10年で最も高い伸び率となりました。
日本企業のM&Aは6年連続で増加しており、とくにベンチャー企業への投資や事業継承を目的とした国内企業同士のM&Aが活発化しています。そこで今回は、2017年度のデータを振り返りながら、ここ最近のM&Aマーケットや今後の動向を見ていきたいと思います。
国内企業同士のIN-IN案件が、前年比2割増で過去最多に
日本企業が関わるM&Aの件数 は2005年以降、リーマンショックなどの影響で大きく落ち込みましたが、2011年から増加に転じて堅調に推移。ここ数年は日本企業による海外企業へのM&A(IN-OUT)や、海外企業による日本企業へのM&A(OUT-IN)で、巨額を投じた大型案件が相次ぎました。
M&Aが過去最多となった2017年度も、
■米投資ファンドによる東芝メモリの買収(2兆円)
■ソフトバンクグループによる米ウーバー・テクノロジーズへの資本参加(9673億円)
■富士フイルムホールディングスによる米ゼロックスの買収(6658億円)
など……、海外企業との大型案件に注目が集まりました。ただ、大型のM&A を含めたIN-OUT・OUT-INの全件数では、前年度からの大きな伸びは見られませんでした。
一方、国内企業同士のM&A(IN-IN)は前年比2割増で過去最多(2180件)となり、M&Aの総件数を大きく押し上げました。とくに目立つのは、大企業が次世代技術を求めてITベンチャーに投資するケースです。
たとえば、通信大手のKDDIは、IOTプラットフォームの「ソラコム」を200億円で買収し、スタートアップの高額案件として話題になりました。
こうしたベンチャー関連のM&AがIN-IN案件の約3割を占めており、日本企業のイノベーション創出に向けて、新興マーケットへの投資がますます活発化していることがうかがえます。
後継者難の中小企業にも広まる、事業継承M&A
国内のM&A市場では、後継者難に悩む中小企業にも注目が集まっています。国内企業の9割以上を占める中小企業では、経営者の高齢化と事業継承の問題が年々深刻化しており、その解決策として社外の第三者に対する事業・株式譲渡や、吸収合併などを行う事業承継M&Aが活発化しているのです。中小企業のM&Aをサポートする公的機関・事業引継ぎ支援センターの集計では、事業承継に関する2017年度の相談件数は前年比35.5%増の8526件、成約件数は同59.8%増の687件と大きく伸びています。
経済産業省によると、1995年当時の中小企業の経営者年齢は47歳がピークでしたが、2015年には66歳がピークとなり、ここ20年で高齢化が一気に加速。
今後10年の間に、日本企業の3分の1にあたる約127万社が後継者未定の状態になると推計しています。日本経済の根底を支える中小企業が、後継者不在で大量に廃業すれば、雇用機会や技術・知的財産の伝承、サプライチェーン(供給連鎖網)などに、大きな打撃を与えかねないと懸念されています。
こうした事態を受け、同省では各都道府県の事業引継ぎ支援センターの運営・サポート体制をさらに強化。現在、M&Aにかかる税負担を軽減する法案も国会で審議されており、国を挙げて事業承継を後押ししていく方針を打ち出しています。
勢いに乗ってさらに活発化する、2018年上半期のM&A市場
過去最多の件数を記録した2017年度に続き、2018年度のM&A市場も活発な動きを見せています。2018年上半期(1~6月)の日本企業のM&A件数は1956件、総額は昨年度の総額(13兆3437億円)をすでに超えて25兆4000億円に達し、いずれも上半期として最も高い水準となりました(トムソン・ロイター公表)。
また、2017年度は国内外の大型案件に一服感がありましたが、2018年上半期は1000億円以上の案件が24件と、前年同期の7件を大きく突破。ここ近年伸びているベンチャー関連や事業継承M&Aの件数も、前年同期から2倍近く増加し、引き続き高水準で推移しています。このペースで着地すれば、2018年度の日本企業のM&Aは昨年度からさらに躍進して、件数・総額ともに過去最高を再更新すると見られています。
小規模案件の増加とともに、M&Aはより身近な存在に
かつて日本では「M&A=会社の乗っ取り屋」といったネガティブなイメージがありましたが、国内の経済成長力が減速する近年、M&Aは企業経営の重要なコーポレートアクションのひとつとして積極的に活用されるようになりました。また、IT・IOT・AIをはじめとする技術革新や高齢化社会による後継者難など、時代の流れに即してM&A のニーズもすそ野も広がってきています。
そうした中、大企業による何兆円規模のM&Aだけでなく、ベンチャーやスタートアップ、中小企業の小規模案件もますます増えていくことは間違いないでしょう。もしかすると今後、近所の町工場や地元の老舗店、知人が立ち上げたIT事務所など、自分の身のまわりでもM&Aの話が持ち上がるかもしれません。そう考えると、これまであまりなじみのなかったM&Aも、より身近で興味深いものになりつつあるような気がします。
ということで、年々活発化する日本企業のM&Aは、勢いに乗ってどこまで加速するのか ── これまでにない大展開が予測される今年下半期の動向を、ワクワクしながら追っていきたいと思います。
※参考サイト/朝日新聞、日本経済新聞、経済産業省、レコフ、トムソン・ロイター
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。